
イラスト/大沢純子
離婚・再婚・子育てなどの本を30冊以上著し、カウンセラーとして25年間で1,000人を超えるご相談に対応してきた、家庭問題カウンセラー・作家の新川てるえさん。自らの4度の結婚経験を踏まえて、夫婦問題における様々なテーマや情報について綴っていく連載コラム。

妻たちの「夫源病」

「令和4年度離婚に関する統計」(厚生労働省)によると、「20年以上同居した夫婦の離婚」の割合は、昭和25年以降上昇傾向にあり、令和2年には 21.5%でした。「夫源病(ふげんびょう 」とは、夫が原因で生じるストレスや体調不良のこと。「夫と一緒の時間を苦痛に感じる」妻たちが増えています。今回はその原因の一つ「夫源病」についてお話していきます。
夫源病とは?
今回は男性には耳の痛いお話になるかもしれません。私が日々のカウンセリングを通じて感じていることですが、「離婚したいわけではないけれど、夫と一緒の時間を苦痛に感じている」妻たちが増えています。
「夫源病」とはその名の通り、夫が原因で生じるストレスや体調不良のこと。 「夫源病」は医学的な病気ではありません。医師の石蔵文信氏が更年期外来での診察中に気がつき、著書『夫源病:こんなアタシに誰がした』(2011年/大阪大学出版会)で発表したのが名前の由来になっています。悪化すると熟年離婚の大きな原因になると言われ、新聞などで増加傾向にあると報道されています。
(例えば)
・夫が在宅だと頭痛やめまいがする。
・夫と接していると吐き気や動悸・息切れがする。
・原因不明の不眠や食欲不振、鬱症状に悩まされている。でも夫が長期出張や休日出勤で不在だと症状がなくなる。
こういった症状が明確な場合は「夫源病」が疑われます。
妻たちの訴え
「離婚したいわけではありませんが、夫の存在が嫌でたまらなくなりました」
夫が家にいることが最大のストレスだと相談に来る女性たちは、涙ながらにそう言います。今に始まったことではないのでは?と思いますが、長年我慢してきたことが更年期の体調不良とも重なってしまっているのです。
「夫は今でも『愛している』と言って私のご機嫌を取ろうします。でも夫はトイレを汚した後に掃除しないで、排便が付いたままのトイレを私が掃除するのが当たり前だと思っています。愛する女性にそんなことをさせるなんて恥ずかしいと思わないのでしょうか?」
夫にしてみたら「20年も連れ添ってきて今更どうして?」と思うような一言でしょう。これまで妻は自分が汚したトイレを何も言わずに掃除してくれていたのですから。
「外から帰ってきて着替えもしないで、寝室のベッドに寝転がるのが許せない」
「お風呂から出てきて汗だくのまま、リビングでパンツ一丁でゴロゴロしているのが許せない」
「食事の食べ方が汚い。くちゃくちゃと音を立てて食べるのがホントに嫌」
妻たちの愚痴は止まりません。
そして夫に冷たくなっていく自分を責め、苦しくなってカウンセリングを受けます。離婚するほどのことではないけれど、「このままだと離婚したくなるのではないか」という危機感を持って悩んでいるケースが目立ちます。
夫源病の解決方法
数多くのご相談から、ストレスの原因として挙げられるのは、夫の性格、普段の言動、浮気、家事や育児に全く参加してこなかった過去への恨みなどです。
妻に夫源病を引き起こす夫のタイプには特徴があります。
・妻に依存傾向がある
・威圧的に話をする
・わがままで身勝手な発言が多い
・気分屋ですぐに怒鳴る など
しかし、このタイプの妻が全員、夫源病になるわけではありません。夫源病になる妻にも特徴があります。
・経済的に自立していない
・夫のすべてに我慢してきた
・自分に自信がない
・完璧主義で細かいことを気にする など
あなたの妻は大丈夫ですか? 最近体調が悪そうで無視されている気がするなどと感じたら、「夫源病」を疑ってみてください。気がついたら夫婦で向き合うことが大切です。夫婦が対等な立場で、言いたいことをちゃんと伝えられるような、落ち着いた話し合いの場を設けてください。
夫源病にすでになってしまっていると感じたら、カップルカウンセリングが効果的です。苦しくなったらプロの力を借りて、上手に話し合えるように夫婦関係を修復していきましょう。
「夫源病」とまではいかないけれど、兆候があるかもと思った方は予防対策してください。もっと早く言いたいことを言えていれば、そもそも「夫源病」にはなりません。
「Iメッセージ」を活用する
夫婦の会話にぜひ取り入れてほしいのが「Iメッセージ」です。普段の夫婦の会話を振り返ると、きっと「YOUメッセージ」が多いのではないでしょうか?
「なんで“あなた”はトイレを汚して平気で私に掃除させるの!?」
これが「YOUメッセージ」です。相手をコントロールしようとする気持ちが伝わるので、素直に聞いてくれません。そして言っても無駄なので諦めていきます。
「“私”は悲しい。あなたがいつもトイレを汚した後にほったらかしにしているから。いつも“私”が掃除しているんだけど、次からは自分で気が付いて便器だけでも掃除してくれたら嬉しい」
自分を主人公にして自分の願望を伝えるのが「Iメッセージ」です。相手の心に響きます。
夫婦間で嫌だなと思うこと、改善できることは、我慢をしないでちゃんと伝えて解決へと努めましょう。我慢しているから、我慢させているから、「夫源病」になるのです。早めに対策をして熟年離婚を避けましょう。
お二人が出会った頃のこと思い出してみてください。お互いに「この人とならずっと一緒に暮らしていける」と思っていたはず。相手に対する思いやりの気持ちもたくさんあったはずです。老後に仲良く手をつないで歩けるようないい夫婦を目指して、今からでも遅くはありません。