あなたはする?しない?離婚を決める時

イラスト/大沢純子

離婚・再婚・子育てなどの本を30冊以上著し、カウンセラーとして25年間で1,000人を超えるご相談に対応してきた、家庭問題カウンセラー・作家の新川てるえさん。自らの4度の結婚経験を踏まえて、夫婦問題における様々なテーマや情報について綴っていく連載コラム。

第9回

あなたの夫や妻が
「国際ロマンス詐欺」

巻き込まれたら

国際ロマンス詐欺。
 あなたはこの言葉を聞いたことがありますか?

インターネット上のありとあらゆるSNSを使って、外国人を名乗る、偽アカウントからの友達申請。承認すると「親しくなりたい」と頻繁にメッセージが届くようになり、「最初は友達から」とハードルを下げながら、徐々に信頼関係を築いてきます。

そこには巧みなマインドコントロールがあり、気が付くと、詐欺師の嘘に騙されて多額のお金を失ってしまうという、とても怖い詐欺です。

私は250万円の詐欺に遭いました。

実は私自身、2005年にこの詐欺で250万円の被害に遭っています。

ある日、SNSでアメリカ人男性から友達申請がありました。4歳の可愛いお嬢さんとツーショットのプロフィール写真でシングルファーザーでした。メッセンジャーでやり取りをするようになって、彼がUSアーミーでアトランタにお子さんを残して、戦地(アフガニスタン)に赴任していることを知りました。

日常会話が数週間続いた後、彼から「君のことを好きになってしまった」と告白されました。当時、私には恋愛中の彼がいたので、「他に好きな人がいます」とお断りしました。すると、「君を紛らわせたくないので親友でいよう」と言われ、その後も変わりなくやり取りが続きました。

        

連絡が急に取れなくなったのがクリスマスの時期。心配していることを伝えると、1週間後に「親友が撃たれて死亡した」という連絡が来ました。「娘のためにも僕は死にたくない」と言われ、同情した私は頼まれた退役申請のメールを書きました。「軍の退役申請には家族申請が必要なので、婚約者のふりをしてほしい」と言われたからです。

すでにその時、私はすっかりマインドコントロールされていて、彼を疑う余地もありません。上官からの返信メールは「USA.COM」のメールアドレスで、透かし署名入りの書類画像もついていました。

それから「退役の手続きにかかるお金を貸してほしい」と言われ、入金をしてしまったのです。SNSでの出会いから4か月後のことでした。

「ひょっとして詐欺なのかも」と疑った時に、アメリカの支援団体を通じて、詐欺でよく使用される写真にこの親子のものがありました。そして「国際ロマンス詐欺」被害の実態を初めて知ったのです。ネットで必死に調べたら、10年以上前から起こり始めた詐欺で、古くは「ナイジェリア詐欺」と呼ばれていたそうです。

この悪質な詐欺を一人でも多くの人に知ってもらいたいと思った私は、2016年にホームページやSNSで「STOP国際ロマンス詐欺」を立ち上げました。現在はNPO法人CHARMSという団体を設立し、引き続き注意喚起と被害者の救済を続けています。

国民生活センターによると、2018年時点で相談件数が12件だったのが、2021年には187件と増え続けています。これはまだまだ氷山の一角で、相談もしないで泣き寝入りをしている人も多いと感じています。

既婚者も容赦なく狙われる

コロナ禍でリアルな対面が気軽にできなくなり、より多くの人がSNS等を経由したコミュニケーションを行うようになりました。また、恋愛や婚活などに関しても、オンライン上での出会いに躊躇しなくなりました。

既婚者の方にとっては「自分にはパートナーがいるし、ネットで恋愛モードになったりはしないので、被害者にはならない」と思うかもしれません。しかし、「国際ロマンス詐欺」は、老若男女、未婚・既婚など関係なく狙われており、既婚者の方の被害も増えています。

夫婦関係が不安定だったり、夫からのDVやモラハラに苦しんでいる時に、心の隙に入り込んできたというケースもあれば、私のように気軽に友達としてやり取りをしているうちに、巧みにマインドコントロールされてしまったという人もいます。

「自分には関係ない」と思わないで

現在、詐欺アカウントは出会い系サイトだけではなく、ありとあらゆるSNSで見掛けることができます。言語学習のアプリやビジネスのマッチングサイトなど、一見関係ないと思っている領域にも潜んでいるので要注意です。

そう考えると、誰もが詐欺師と繋がってしまう可能性があります。SNSに詐欺アカウントが多いのはご存知かもしれませんが、英語を猛勉強しようと思って参加した言語学習アプリで、まさか詐欺師と出会う羽目になるなんて、普通は想像もつきません。

コロナ禍前の「国際ロマンス詐欺」は、「ナイジェリア詐欺」と呼ばれていた通り、アフリカ圏からが主でした。「USアーミー」「戦場ジャーナリスト」「戦場の医師」などを名乗り、偽りのプロフィールで戦地からの「I Love You」が始まり、やがてトラブルに巻き込まれてお金を失うというものでした。40代以上の男女がターゲットにされていました。

最近の手口で最も多いのは、「投資型国際ロマンス詐欺」です。これはアジア圏に潜む詐欺グループが行なっています。近年では国が「積立NISA」などを推奨している影響もあり、多くの人が投資に興味を持っています。お金のリテラシーに弱い人や若い人に被害が多発しているのも特徴です。

また、最近ニュースになった「頂き女子りりちゃん」の事例も、このロマンス詐欺のマインドコントロールの手口によく似ています。しかも、「おじ」からお金を引き出すための方法をマニュアル化して販売していたといいます。

「国際ロマンス詐欺」の手口

ここで「投資型国際ロマンス詐欺」の典型的な手口を紹介しておきましょう。SNSで突然、見知らぬ外国人から友達申請がきます。日本語で送られてくるメッセージには「日本に興味がある」「日本語を覚えたい」など、親近感を感じるようなことが書いてあります。プロフィールには写真もちゃんと掲載されていて、日々のオシャレな生活風景のブログも更新されています。

気を許してやり取りが始まってしまうと、LINEなどの頻繁にチャットができるツールに誘われます。毎日メッセージが増えてきて、いつも一緒にいるような感覚にさせられます。これがマインドコントロールの手口の1つで、詐欺師は被害者の時間を奪いながら、冷静な判断ができないようにしていくのです。

数週間、親しくやり取りしているうちに、彼(彼女)が投資で儲けていることを知らされます。すっかり信じたタイミングを見計らって、「キミに投資を教えてあげる。一緒に自分たちの将来のための貯金を作ろう」などと、明るい未来の話をしてきます。

投資系の詐欺では、最初に3~5万円の少額の投資を進められ、実際に利益が戻ってきます。3万円が3万8千円になって手元に戻ってくる際、「これで美味しいものを食べてね」と詐欺師に言われたという人もいます。また1度だけではなく2度、3度利益を手にしたという人もいます。

よくできた偽の投資アプリを見せられて、続けて投資した金額がどんどん増えていく様子を見せられます。信頼して財産を投資してしまった後で、さらにお金を増やそうと言われ、「明日には引き出して返せるから」と、あなたの周りの人からの借金、保険の解約、サラ金からの借り入れを要求してきます。

そうして全財産を搾り取られて、借金までしてしまった後に、今度は「利益を預けている口座が凍結されてしまった。引き出すために多額の手数料が掛かってしまう」と知らされます。もちろん手数料を払ってもお金が戻って来ることはなく、ここでようやく詐欺に遭ったことに気付かされます。

「損失回避性バイアス」といって、人は目の前に利益があると、それが手に入らないというリスクを回避しようとします。引き出せないお金を取り戻したいと手数料まで払ってしまうのは、この思考が原因です。

あなたの家族が被害に遭ってしまったら

「国際ロマンス詐欺」により多額な借金を作ってしまい、離婚する夫婦をたくさん見てきました。実は被害に遭う以前から、既に夫婦関係が破綻する原因があり、詐欺被害が離婚のきっかけになっただけなのかもしれません。

先日、私はNPO法人CHARMSが開催した、被害者のピアカウンセリングに参加しました。被害者の方がZoomで声だけで語り合うお喋り会です。その時、「被害に遭った時に家族が助けてくれた」「家族の絆を再確認し前向きに生きていけるようになった」というお話を参加の皆さんがされていて、何だかホッと癒されました。

「国際ロマンス詐欺」だけじゃなくても、自分の大切な家族が窮地に立たされることはあると思います。そんな時に「支え合うのが家族」だと思ったので、今回はそれをどうしても伝えたくてコラムにしました。

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