なぜ、あなたはその夢をみるのか?

イラスト/ひらのんさ

この連載では、臨床心理士の松田英子先生が『通販生活』読者がみた夢を分析してきました。最終回に取り上げるのは、読者が結婚する直前にみた、亡くなったお母さまの夢。亡くなった身近な方が表れる夢には、あたたかな印象のものが多いようです。

1万人の夢を分析した

松田英子先生
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亡き母が人生の節目を
夢で祝ってくれた。

白い着物を着た母が
天井からこちらをみている。

今回分析するのは、現在60代の読者の方が、
20代で結婚して家を出る数カ月前にみたという夢です。

私はこんな夢をみた

25歳で結婚が決まり、自宅でひとり寝ていた夜中のこと。夢の中でも自室で布団に入っていた私は、ぼんやり天井を見ていました。すると私が18歳の時に亡くなった母が、白い着物を着て天井に張り付いているのです。こちらを優しい表情でみていた母は、一言「暖かくなったら来てね」と言ってくれました。

(なおママさん、専業主婦、60代)

夢の中でお母さまが着ていた白い着物には
死者のイメージもありますが、
花嫁が身にまとう白無垢のイメージにも重なります。

母親に花嫁姿をみてもらいたかったという思いが、
この夢につながったのかもしれません。

娘を送り出す母の思いが
感じられる夢。

気になるのは、
夢の中の「暖かくなったら来てね」という
お母さまの言葉です。
この方は「暖かくなったらお墓参りに来てほしい」という
思いの表れと受け取られたそうです。

また、夢をみた理由については、
結婚しても父のことを大切にしてあげてほしいという
母の願いがあったのでは、
とご自身で分析していらっしゃいます。

この夢をみた時期は、
結婚によって厳格なお父様から解放される喜びと同時に、
それまで二人で暮してきたお父様を
一人にしてしまう申し訳なさを感じていたそうです。

しかし、夢に現れたお母さまは、
天井にはりついて、少し離れたところから
優しくこの方を見守ってくれています。
全体に、娘の結婚を祝福し、あたたかく送り出す
母の心持ちが伝わってくるような夢ですよね。

結婚の喜びと、父を案じる思いの両方を抱えていた
この方の背中をそっと押すようなやさしさが感じられ、
分析しながらとてもあたたかな気持ちになりました。

この夢をみたのはこの一度きりだそうです。
そうしたことも相まって、人生の節目にふさわしい、
とっておきの夢の体験だなと感じました。

亡くなった身近な人と
夢の中で感情を共有する。

他にも読者からは、亡くなった身近な人や
可愛がっていたペットが登場する夢が
多数寄せられました。

多くは、落ち込んでいる自分を励ましてくれたり、
一緒に思い出の場所でおしゃべりをしたりと、
どこかほっこりするような、
あたたかな印象の夢です。

現在生きている方が
亡くなっている夢の場合には、
どこか不穏さを感じさせるものが多かったのとは
対照的でした。

亡くなった人が登場するあたたかな夢の背景には、
喜びや感動、悲しみといった現在の自分の感情を
分かち合いたいという思いがあるように
感じられます。

夢の中で故人に会い、
そこで抱いたあたたかな感情を胸に、
現実世界を前向きに生きる。

これは、夢から自分の感情や心身の状況を把握し、
現実への向き合い方をより良いものに変えていく
方法の一つでもあります。

夢から得る情報を糧に、
現実をより良く生きる。

撮影/大倉琢夫

夢は、自分自身の記憶や感情などを材料にして
脳内でつくられる仮想の世界です。
現実を反映して夢の世界がつくられるように、
夢の世界もまた、
現実に影響を及ぼすことがあります。
また、朝起きた時の気分は、
その日の行動や考えに影響を及ぼします。

夢に映し出された自分の心身の状況を、
現実世界をより良く生きるヒントや
糧としてほしいというのが、私の願いです。

この連載では、300名を超える読者の方から
興味深い夢をたくさん投稿していただきました。

全ての夢を取り上げることはできませんでしたが、
これまでの分析をきっかけにしたり、
またご参考にしたりしていただきながら、
より良い日々を過ごすためのツールとして
夢に注目する方が増えたなら、嬉しく思います。
今まで、本当にありがとうございました。



まつだ・えいこ●東洋大学社会学部社会心理学科教授、博士(人文科学)。公認心理師・臨床心理士。主な研究テーマは、睡眠の改善から心の健康を高めること。『今すぐ眠りたくなる夢の話』(ワニブックス)、『はじめての明晰夢 夢をデザインする心理学』(朝日出版社)、『夢を読み解く心理学』(ディスカバー携書)など、夢に関する著書多数。

※読者の夢には、表記の変更や分析に関係のない部分の省略などの編集を加えています。

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