人は、一晩で3~5つの夢をみると言われています。なぜ毎晩夢をみるのか、その夢にはどんな意味があるのか──。
臨床心理士の松田英子先生が『通販生活』読者の夢の分析を通して、夢の効用や、夢を心身の健康に活かす方法を紹介していきます。
1万人の夢を分析した
松田英子先生50代会社員がみる
隠し部屋の夢
脳内にある「記憶の保管庫」。
最初に、夢をみるメカニズムについて、
簡単にお話ししておきましょう。
私たちは眠っている間、
身体を休ませて脳を活発に動かす「レム睡眠」と、
脳も休ませる「ノンレム睡眠」を
繰り返しています。
このうち、
鮮明で物語性のある夢をみやすいのは、
レム睡眠中です。
レム睡眠中の脳内では、
日中に蓄えた記憶情報の
整理などが行われています。
どうやらこの時に、
その人が生まれてから体験した
全ての物事に関する
「記憶の保管庫」の情報が編集され、
夢がつくられているようなのです。
つまり夢は、
自分の記憶をもとに
脳内で編集された
オリジナル映画のようなもの。
夢をみることは、
自分だけの映画館で
自分史の映画をみるような体験です。
夢の材料は記憶や感情ですから、
その人の性格や志向、
その時の心配事や希望などが
強く表れます。
そして、夢をどう捉えるかで、
その後の行動や考え方が
変わってくるからこそ、
夢を分析することの
意味があると思うのです。
この連載の最初の4回では、
家や部屋に関する夢を
分析することにしました。
繰り返しみる「隠し部屋」の夢。
私はこんな夢をみた
いま暮しているマンション、学生時代のアパート、社員寮のワンルーム……それぞれに隠し部屋があって、その存在が誰にも知られていない、という夢です。いつも私が最初に見つけます。隠し部屋は荷物でぎっしりだったり、座卓と座布団が置いてあるだけで薄暗くがらんとしていたり。しばらく誰にも使われていない、生活感がない部屋が出てきます。
(ゆるふわ飲みさん・会社員・52歳)
この夢から想像されるのは、
真面目で協調性があるお人柄。
一方で、
学生時代に暮したアパートや社員寮などの
隠し部屋を繰り返し夢にみるところに、
集合体での生活に順応しながら、
誰にも見せない自分の内側も
大切にする方という印象も受けます。
問題に直面した時、
人に援助を求めるより、
自分で解決しようとする方であるとも考えられます。
分析にあたって、
パーソナリティを測定するための
心理尺度「TIPI‐J」に
回答していただきましたが、
その結果も概ね、分析の通りでした。
隠し部屋の「使わない家具」が意味するものは?
私が気になったのは、
隠し部屋の中にあるものです。
「荷物でぎっしりだったり、
座卓と座布団が置いてあるだけで
薄暗くがらんとしていたり」とありますが、
これらについて
さらに詳しく知るため、
いくつか追加質問をしました。
以下はその回答です。
この夢をみたときに抱えていた問題
この夢を見たときかどうかは分かりませんが、ここ数年は仕事の責任範囲が広く、なかなか手が回らないな、というストレスを抱えていました。高齢で病気がちの両親のことはつねに心配しております。
この夢をみた頃の状況
仕事の責任が増えたり、高齢の両親を心配したり。
「使わない家具」は、
これまでは役に立ったけれど、
現在は使えないものを
表しているのだと思います。
自分が培ってきた能力や知識が、
今の仕事では使えないと
考えているのかもしれません。
「座卓と座布団が数枚だけ」というのは、
その座にふさわしい人、
つまり、自分が求める能力を持ち、
ご自分を助けてくれる人が
いないという思いの表れともとれます。
ただ、隠し部屋に「見知らぬ人」がいるので、
確信は持てないながらも、
心の中ではカギ鍵を握る誰かを
思い浮かべているのではないでしょうか。
「別の誰かの家とつながっている」
隠し部屋は、
高齢のご両親を気にかける気持ちの
表れと考えられます。
高齢者施設への入居など、
家族以外の第三者に頼りながらの介護を
始めたばかりであったり、
その必要性を
感じているのかもしれません。
「寝ている間に危害を加えられるのでは」
という夢の中の不安は、
ご自身が寝ている間に、
ご両親に何かがあったらという
不安に重なっているように思います。
同じ夢でも年齢や時代によって細部が変化する。
この方は、
仕事の悩みや、
両親を気にかける思いを
夢にみているところが、
50代の真面目な会社員らしいなと感じます。
「使わない家具」が出てくるところも、
中高年らしいポイントです。
もし20代だったら、
聞かなくなったCDや、
ちょっと前に流行ったけど、
子どもっぽくてもう着ない服などを
夢にみたかもしれません。
夢はその時の自分の状況を
うつしだすので、
繰り返しみる夢でも、
年齢や時代によって、
細部が変化することがあるのです。
例えば、中高年の皆さまの場合、
幼い頃の夢に登場した電話は
ダイヤル式の黒電話だったけれど、
最近ではスマートフォンに進化した、
といったことが起こりえます。
今回の分析をまとめると、
夢の中の隠し部屋は、
この方にとって、
その時抱えている悩みや心配事を
教えてくれるものだと考えられます。
今後この夢をみたときには、
「今、自分は何を不安に思っているのだろう」
と考えてみるとよいでしょう。
夢が教えてくれる
自分の心の状況に向き合い、
不安やストレスを
しっかりと認識することは、
夢を実際の生活に
役立てる方法の一つです。
繰り返しみる夢がある方は、
仕事の状況や人間関係、体調など、
その夢をみるときの状況や環境の
共通点を探ってみると、
何らかのヒントが
みえてくるかもしれません。
※次回は「古希間近のフリーランスライターがみる隠し部屋の夢」を分析します。(8月21日公開)
(8月21日公開)
※読者の夢には、表記の変更や分析に関係のない部分の省略などの編集を加えています。
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第1回
50代会社員がみる隠し部屋の夢
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第2回
古希間近のフリーランスライターがみる隠し部屋の夢
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第3回
60代講師がみる実家の戸締りができずに焦る夢
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第4回
70代主婦がみる誰かの部屋とつながった家の夢。
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第5回
40代主婦が過去にみた架空の学校をさまよう夢。
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第6回
50代の読者がみるエレベーターで下降する夢。
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第7回
50代読者がみたゴルフボールの夢
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第8回
21歳で出産するときにみた空を飛ぶ夢。
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第9回
小学生のときにみた家の中を飛ぶ夢。
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第10回
51歳の漫画家がみた母校のグラウンドを飛ぶ夢。
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第11回
松田先生がみた太陽と月を抱きしめる夢
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第12回
1時間に1本しかない通学バスに乗れずに焦る夢。
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第13回
なぜか自分の乗ったタクシーの運転手が逃げてしまう夢。
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第14回
50代の公務員がみた乗り物に乗り遅れそうになる夢。
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第15回
トイレに行きたいのに行けず、途方に暮れる夢。
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第16回
立派すぎるトイレに案内され、用を足すのをためらう夢。
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第17回
不完全なトイレに戸惑いながら最後には排せつをする夢。
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第18回
夜中、自宅の寝室で侵入者に怯える夢。
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第19回
夜の暗い海岸で岩場をひたすら走る夢。
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第20回
深くて流れのない川を誰かと一緒に眺める夢。
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第21回
亡き母が人生の節目を夢で祝ってくれた。
隠し部屋の中にあるもの