人は、一晩で3~5つの夢をみると言われています。なぜ毎晩夢をみるのか、その夢にはどんな意味があるのか──。
臨床心理士の松田英子先生が『通販生活』読者の夢の分析を通して、夢の効用や、夢を心身の健康に活かす方法を紹介していきます。
1万人の夢を分析した
松田英子先生60代講師がみる
実家の戸締りができずに焦る夢
多くの人がみる「焦りの感情」が伴う夢。
今回は、家にまつわる夢を分析します。
私はこんな夢をみた
実家の玄関(あるいは、お勝手)の鍵が壊れていたり、扉全体の建付けががたついていたりしてちゃんと戸締りできず、「これじゃドロボーに入られる」とパニックになりながら、なんとか修理しようと躍起になっている夢をよくみます。
(kingyoさん・講師・60代)
家の戸締りができずに焦る、
何者かの侵入の危機を感じて焦るといった状況は、
多くの人がみる夢の筋書きの一つです。
読者のみなさんも、同じような夢を
みたことがあるかもしれませんね。
焦りの感情を伴う夢には、
遅刻の夢やトイレに行けずに焦る夢など、
さまざまなバリエーションがあります。
ただ、同じような夢であっても、
それが何を意味するかは、
夢をみる人によって異なります。
夢は、その人の記憶や感情を材料にして
脳内でつくられる、
オリジナル映画のようなものだからです。
今回の夢には、
どんな意味があるのでしょうか。
まずは、夢からみえてくる
お人柄を分析してみましょう。
最初のポイントは、
実家が舞台というところです。
実家の戸締りができず、
何者かの侵入に危機感を感じて焦る夢は、
実家の家族に不測の事態が起きることへの心配に
つながっているように思われます。
この方は、
回答文の他の箇所で、
実家を「自分にとっての絶対安全地帯」と
表現しています。
きっと、実家のご家族を、
とても大切に思っている方なのでしょう。
パーソナリティを把握するために
回答していただいた「TIPI‐J」の結果は
以下の通りです。
外向性や協調性、独創性を
バランスよく持ち合わせている。
開放性も高く、好奇心が旺盛。
ご自身では、
「いつもはおっちょこちょいが服を着ている感じ。
問題に出くわすと、なんとか解決したいと思う」と、
自己分析していらっしゃいます。
どうやらこの方は、
いろんな人と良い関係を築いて
楽しく過ごすほがらかさと、
周りで何か問題が起きれば、
一目散に駆けつけて解決しようとする
一生懸命さやあたたかさを
持ち合わせているようです。
たまにはうまくいかないことに
直面しながらも、
いつも懸命に人のお世話を焼くような、
どことなくかわいらしいお人柄が
浮かび上がってきますね。
夢から、家族への思いがみえてくる。
分析の鍵はご家族への思いに
ありそうだと思ったので、
ご家族の性格や、
実家で暮していた頃の思い出などを
追加で質問してみました。
以下は、その回答をまとめたものです。
この方は子どもの頃、
虚弱体質で病気も多かったそうです。
そうした背景もあって、
陽気なお父様と心配性なお母さまに、
とても大切に育てられたのだと想像できます。
弟さんとのきょうだい仲もよかったようで、
仲睦まじいご家族ですね。
この夢を見始めたのは、
30代で初めて一人暮しを始めた頃からだそうです。
夢の中では不安や焦りを感じたようですが、
そうした感情になる理由に
目を向けてみると、
自分がいなくなった後、
家族に何かよくないことが起きないようにと
案じる気持ちや、
自分にできることはしようという、
家族への愛情がみえてきます。
この方にとっての実家は、
思い出の中のとても大事な生活空間なのでしょう。
夢を入口にして、
自分が大切にしているものに気づき、
あたたかな思い出に向き合うのは、
とても素敵なことです。
実家が登場する夢を、
実家での幸せな日々を振り返るきっかけとして、
これからも大切にしてほしいと思います。
夢で危機対応のシミュレーションをしている。
この方は、数年に一度はこの夢をみるそうです。
もしかしたら、実家を離れたときと
似たような不安を感じる出来事が起きたときに、
この夢をみているのかもしれません。
人が睡眠中に夢をみる理由や、
夢の役割についての仮設の一つに
「シミュレーション仮説」
というものがあります。
これは、生活の中で起こりうる危機と、
それを回避するための対処行動を、
夢の中でシミュレーション(予行演習)
しているのではないかという仮説です。
例えば遅刻の夢をみる理由は、
遅刻をしたときの焦りや不安の感情を
夢の中でシミュレーションすることで、
遅刻によって信頼をなくすといった
危機を回避するためだと考えられます。
この方の場合には、
何か不安な出来事への
シミュレーションとして
実家の戸締りができずに焦る夢を
みているのかもしれません。
不安を感じた時に、
実家の戸締りができない夢の
スクリプト(筋書き)が、
脳内の〝記憶の保管庫〟から呼び起こされている、
とも考えられます。
恐怖を感じると
決まって怪獣の夢をみるなど、
特定の感情を抱いたときにみる夢のスクリプトが、
その人の中でパターン化するというのは、
割とよくあることです。
「仕事が忙しくて余裕がないときには
よくこの夢をみるな」という風に、
特定の感情や心理状況と結びついた
夢のスクリプトに、
心当たりがある方も多いのではないでしょうか。
現実世界での不安を反映し、
それをシミュレーションする夢は、
私たちがさまざまな物事に対応しながら、
日々懸命に社会生活を送っている証ともいえます。
起きた時に
ネガティブな気持ちになったとしても、
夢は、現実世界をよりよく生きるための
手立てとしてたいへん役立つツールと
なりえるのです。
自分の感情や、
現在直面している困難への気づきを
促すものとして、
夢とうまく付き合ってみてくださいね。
※次回は「70代主婦がみる、誰かの部屋とつながった家の夢」を分析します。(9月4日公開)
(9月4日公開)
※読者の夢には、表記の変更や分析に関係のない部分の省略などの編集を加えています。
-
第1回
50代会社員がみる隠し部屋の夢
-
第2回
古希間近のフリーランスライターがみる隠し部屋の夢
-
第3回
60代講師がみる実家の戸締りができずに焦る夢
-
第4回
70代主婦がみる誰かの部屋とつながった家の夢。
-
第5回
40代主婦が過去にみた架空の学校をさまよう夢。
-
第6回
50代の読者がみるエレベーターで下降する夢。
-
第7回
50代読者がみたゴルフボールの夢
-
第8回
21歳で出産するときにみた空を飛ぶ夢。
-
第9回
小学生のときにみた家の中を飛ぶ夢。
-
第10回
51歳の漫画家がみた母校のグラウンドを飛ぶ夢。
-
第11回
松田先生がみた太陽と月を抱きしめる夢
-
第12回
1時間に1本しかない通学バスに乗れずに焦る夢。
-
第13回
なぜか自分の乗ったタクシーの運転手が逃げてしまう夢。
-
第14回
50代の公務員がみた乗り物に乗り遅れそうになる夢。
-
第15回
トイレに行きたいのに行けず、途方に暮れる夢。
-
第16回
立派すぎるトイレに案内され、用を足すのをためらう夢。
-
第17回
不完全なトイレに戸惑いながら最後には排せつをする夢。
-
第18回
夜中、自宅の寝室で侵入者に怯える夢。
-
第19回
夜の暗い海岸で岩場をひたすら走る夢。
-
第20回
深くて流れのない川を誰かと一緒に眺める夢。
-
第21回
亡き母が人生の節目を夢で祝ってくれた。
実家の家族について
父は、普段は陽気、大勢でワイワイ派。ただし演説が得意でも会話は苦手。愛煙家、甘いもの好きにも関わらず80歳過ぎるまで病気とほぼ無縁。母は、生まれつき病弱で心配性、過保護気味。具合がよければとても陽気でお茶目。歳の割に気持ちが若い。私とはおよそタブーはないくらいどんな話もできた。二歳年下の弟とは子どもの頃、よく探検ごっこをして遊んだ。弟が結婚する時はお嫁さんに「相棒」をとられるようで、結婚式でぴいぴい泣いた。