なぜ、あなたはその夢をみるのか?

イラスト/ひらのんさ

人は、一晩で3~5つの夢をみると言われています。なぜ毎晩夢をみるのか、その夢にはどんな意味があるのか──。
臨床心理士の松田英子先生が『通販生活』読者の夢の分析を通して、夢の効用や、夢を心身の健康に活かす方法を紹介していきます。

1万人の夢を分析した

松田英子先生

70代主婦がみる
誰かの部屋とつながった家の夢。

立派な家に満足するが、他者の気配に不安を感じる。

今回も、家にまつわる夢を分析します。

私はこんな夢をみた

夢に出てくる自分は20代から30代くらいです。夢の中の自宅はものすごく立派な家です。「こんな大きな家に住むことが出来て嬉しい」と満足しているのですが、家の奥の方に行くと第三者の部屋と繋がっていて、生活している気配を感じるので、いつかこっちに入ってくるのではないかと、心配で不安で仕方がありません。よくこの夢をみます。自分以外の登場人物は夫ではなく、両親が無意識の中にいる感じです。

(さくらさん・無職・70代)

分析の前に、
この方の経歴を簡単に紹介すると、
20代で結婚し、
子育てがひと段落した40代以降は、
夫が経営する会社を手伝っていたそうです。
数年前、後継ぎ不在のために会社をたたむまで、
経営は順風満帆だったとのこと。
現在は、5LDKの一軒家で夫と二人、
穏やかに暮していらっしゃいます。

夢の中に登場するこの方の年齢は「20~30代」。
その頃の性格のご自身による分析は次のとおりです。

20~30代の頃の自分の性格

責任感が強く、善悪の悪を許せない性格。反面、目立つことは嫌い。他人と合わせるタイプ。他人からの頼まれごとにはとことん尽くす。

パーソナリティ把握のために
回答していただいたTIPI‐Jの結果からも、
協調性と勤勉性の高いお人柄が
浮かびあがってきました。

総じてこの方は、
人の和を重んじ、他者のために行動する協調性と、
人として正しい行いを全うしようとする真面目さ
とを持ち合わせているようです。

自分の介護への不安があらわれているのかも。

分析のため、
「家の奥の方にいる第三者」について、
追加で質問をしました。
以下はその回答です。

家の奥にいる第三者について

壁がなく、どうもあっち(家の奥の方)でも人が暮している様子で、どのような人かは見えないけれど、気配がするだけです。数人いるように感じましたが、気配だけですからよくわかりません。ただ、心のどこかで「良識ある人達!」と感じていました。だから「入っては来ないだろう? 何故壁がないの!」と夢の中で思っています。

この回答や、夢の内容を踏まえて私が考えたのは、
どうやらこの夢は、
老後や介護への思い、不安感を反映していそうだと
いうことです。

壁を隔てない距離にいて、
なんとなくその存在を感じる「良識ある人たち」は、
この方の介護をする人たちなのかもしれません。
それがご家族なのか、
あるいはヘルパーさんのような第三者なのかは
分かりませんが、自分の居住スペースや、
プライベートな空間には
踏み込まないでほしいという心情が、
夢に現れているように思えます。

両親への思いが、夢にも表れている?

これは、同居ではなく、
心理的にも物理的にもほどよい距離感を保った
介護を望む気持ちの表れとも考えられます。
現在は夫と二人で、
十分な広さのある自宅で
穏やかに暮しているとのことですから、
この先も、今の暮しの安心感を脅かされたくないと
いう思いをお持ちなのかもしれません。

あるいは、
夢の中に「両親が無意識にいる感じ」
ということですから、
ご両親の介護を振り返る気持ちが、
夢に現れているとも考えられます。

夢の中の両親は50~60代だそうです。
この方が第三者の気配を感じる家の夢を
見始めたのは60歳だそうですから、
夢の中のご両親の年齢と重なります。
ご自分の介護について考え出したタイミングで、
ご両親の介護についても
深く思い出すようになったのかもしれません。

この夢をかたちづくっているのが、ご両親に十分な介護をしてあげられたと満足する気持ちなのか、もっとしてあげられることがあったのではと悔いる気持ちなのかは、さらに詳しくお話を聞いてみなければ分かりません。

撮影/大倉琢夫

ただ、この夢をみるきっかけには、
穏やかな現在の暮しへの安心感と、
この先にある老後や介護への不安、
自分の介護を案じる年代になって改めて抱く、
両親への思いがあるように思われます。

夢の内容は、年代によっても変化する。

老後や介護に関する夢は、
年齢を重ねるほどに多くみる夢の一つです。

夢は、
その人の記憶や感情などを基につくられる、
自分史のオリジナル映画のようなものです。
当然そこには、年代による影響も表れるのです。

私が2015年から実施している、
幅広い年代の人を対象とする調査の結果を基に、
年代ごとによくみる夢の内容を、
大まかに紹介していきますね。

小学生くらいでは、架空世界での冒険など、
ファンタジー要素の強い夢や、
学校や習い事に関する夢をよくみます。
10~20代になると、
進路や友人、恋人の夢をよくみるようになります。
自立を考える年代であるからか、
家族が死ぬ悪夢も多くなります。
30~40代では、
仕事や家族、趣味の夢をみる人が多いです。
悪夢には、遅刻や準備不足での大失敗など、
仕事に関するものが目立ちます。
50~60代では、仕事や家族の夢以外に、
子どもや部下などの成長を喜ぶ夢も多くなります。
災害や事故などの悪夢が増えるのも、
この年代の特徴です。
70代を過ぎてからは、
現実的な心配事を反映した夢に加えて、
若い頃や、もう会えない家族、知人などを
懐かしむ夢が増える傾向にあります。

こうしてみると、夢には、
その年代ならではの関心事項や社会的立場などが
よく表れていると分かります。

年齢層が上がるほど、白黒の夢をみる人が増える。

ちょっと面白いのは、年代や時代によって、
夢の色合いにも変化がみられることです。

ある調査によれば、
1993年の日本で、いつもカラーの夢をみる人は
全体の20%でした。
当時は、それ以外の大半の人が
白黒の夢をみていたのです。
しかし2009年になると、20代では50%以上が、
60代でも10%以上が
カラーの夢をみるようになっています。

カラーの夢を見る人は段々と増えてきた一方、
高齢になるほど白黒の夢をみる人の割合が
高い状況は、現在でも変わっていません。

夢がカラーか白黒かを決定づける要因は、
加齢と、カラーテレビの普及といった
社会文化的要因ではないかとの推測に基づいて、
日本とドイツの研究者が、
研究をしていたこともあります。

あなたがよく見る夢は、
カラーでしょうか、それとも白黒でしょうか。
今晩からは、夢の色にも注目してみてくださいね。

※次回は「40代の主婦がみる架空の学校の夢」を分析します。(9月25日公開)

(9月25日公開)

※読者の夢には、表記の変更や分析に関係のない部分の省略などの編集を加えています。

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