人は、一晩で3~5つの夢をみると言われています。なぜ毎晩夢をみるのか、その夢にはどんな意味があるのか──。
臨床心理士の松田英子先生が『通販生活』読者の夢の分析を通して、夢の効用や、夢を心身の健康に活かす方法を紹介していきます。
1万人の夢を分析した
松田英子先生40代主婦が過去にみた
架空の学校をさまよう夢。
母校とは違う学校で、高校生の自分が途方に暮れる。
今回は、現在40代の主婦である投稿者が、
30歳で出産した時期にみていた夢を分析します。
私はこんな夢をみた
30歳で出産した頃、何度かこの夢をみました。実際に通った学校ではないのに、自分の通う学校として、校内をうろうろしています。何かを探しているのです。夢の中の私は、だいたい高校生くらいの年頃です。でも、なかなか探し物にたどりつかないし、会いたい人にも会えません。たいがい昼間です。さまよい歩いてみつからなくて途方に暮れて、目を覚ますことがほとんどです。
(さえきさん・主婦・40代)
夢に出てくる校舎は、
実際の母校と雰囲気は似ているけれど、
どこかが違っていて、
夢の中の自分も「何かが違うんだよなぁ」と
思っているそうです。
この夢をみたのは
「熱があるときだったかもしれない」
「なかなか寝付けないときだったかもしれない」
とのこと。出産時期ということも重なってか、
精神的な負担感にも
苦しんでいた時期だったそうです。
分析にあたり、
パーソナリティ把握のために
回答していただいたTIPI‐Jの結果からは、
次のようなお人柄が浮かびあがってきました。
周りをよくみて行動する協調性をもった、
おとなしい方。
自分自身の内面に向き合いながら
日々を生きる慎重さと真面目さがある分、
不安や悩みを一人で抱え込みやすい
傾向もある可能性。
過ぎ去った青春を思う寂しさが夢に表れている?
私は、この夢の中の時間帯が昼間という点から、
青春から少し歳を重ねた成人の夢
といった印象を受けました。
分析のため、
夢に登場する学校について、
追加で詳しく聞いてみました。
以下はその回答です。
夢に登場する校舎の色や素材、
構造や配置などのイメージが鮮明です。
この方は、夢の中の建物や風景を、
とてもよく観察していますね。
もしかしたら、「自分はいま夢をみている」
と自覚しながら夢をみることができる
「明晰夢」の体験がある方かもしれません。
さらに、
実際の高校時代の思い出についても
追加質問をしました。
高校時代の印象深いエピソード
放課後、友達と部室でおしゃべりするのが何より楽しかったです。ボランティアのクラブでしたが、部室で勉強したり遊んだりしていました。今でもその頃の友達と会います。
楽しく充実した高校時代だったことが
伝わるエピソードですね。
一方で、夢に登場する高校姓の自分は、
探し物を探せず、会いたい人にも会えずに
途方に暮れています。
もしかしたらこの方は、
30歳で母になるときに高校時代を振り返り、
青春時代と現在との隔たりや、
ある種の喪失感のようなものを
感じたのかもしれません。
そのために、
充実した思い出の舞台である高校が、
少し不安な印象のある夢となって
表れた可能性もあります。
夢の内容は心の状況にも左右される。
あるいは、産後の体調的にも、精神的にも
つらい状況だったから、
楽しい思い出がたくさんあるはずの
青春時代の自分が途方に暮れる夢を
みたのかもしれません。
心の調子を崩しているときには、
ものの見方や捉え方(認知)も
ネガティブに傾きがちです。
精神的にまいっていると、
いつもなら平気なことでも重く受け止めてしまい、
なかなか乗り切れなくなることがありますよね。
そうした心の不調は、
起きているときの認知だけでなく、
夢の中の認知にも影響を与えるのです。
今回分析する夢から、
焦燥感や不安感、もの寂しさのようなものを
感じるのは、
この時の投稿者の方の気持ちが、
夢に反映されているからなのかもしれません。
探しものがみつかる夢に、筋書きを書き換える。
ぜひ、夢の筋書きを自分の望むものに書き換える
「イメージ・リスクリプト」を試してほしいなと
思いました。
これは認知行動療法の一種
「イメージリハーサルセラピー」の中心技法で、
ネガティブな印象の強い夢の筋書きを
自分で書き換えることで、
夢が引き起こした不安感を低減します。
書き換える筋書きは
「探しものをみつけて安堵する」
「会いたい人に会える」など、
自分が安心できるものならなんでもOKです。
私が希望を感じるのは、
この方が、今回の企画に応募してきてくださった
ことです。
夢をみたときは、
とても心がつらかったかもしれませんが、
現在では、当時の夢を自分で思い返して、
第三者にその内容を伝えられるまでに
快復したのではないでしょうか。
この方が、
今は穏やかな日々を過ごしていると
良いなと思います。
夢は、心身の健康のバロメーターとなる。
夢の研究者として興味深く思うのは、
多くの人が、
特定の心身の状況と結びついた、
独自の夢の筋書きを持っていることです。
今回の読者の場合は、出産後で熱がある時、
寝付けない時の夢の報告でした。
読者のみなさんにも、
精神的に疲れると決まってみる夢や、
体調を崩すと必ずみる夢があるかもしれません。
その反対に、
何か特別に嬉しいことがあったときや、
すこぶる体調の良いときによくみる夢も
あるかもしれませんね。
夢は、自分の記憶や感情だけでなく、
心身の状況などを材料にしてつくられ、
自分だけのために上映される
オリジナル映画のようなものです。
つまり夢の世界は、
現実世界と双子の関係にあるのです。
心身の調子がすぐれないとき、
自分はそれを自覚していなくても、
ストレスを抱えているときに必ずみる夢をみる、
といったこともあるでしょう。
それは、自覚するより先に、
夢が危険信号を出してくれたということです。
そういうとき、
夢のメッセージを現実世界に活かし、
きちんと自分を労わることができれば、
健康を大きく損なうことを避けられます。
夢は、心身の健康のバロメーターとしても
役立つのです。
ぜひみなさんも、自分の健康状態を
教えてくれる夢の力を、
毎日の生活に活かしてくださいね。
※次回は「50代の読者がみる、エレベーターの夢」を分析します。(10月2日公開)
(10月2日公開)
※読者の夢には、表記の変更や分析に関係のない部分の省略などの編集を加えています。
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第1回
50代会社員がみる隠し部屋の夢
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第2回
古希間近のフリーランスライターがみる隠し部屋の夢
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第3回
60代講師がみる実家の戸締りができずに焦る夢
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第4回
70代主婦がみる誰かの部屋とつながった家の夢。
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第5回
40代主婦が過去にみた架空の学校をさまよう夢。
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第6回
50代の読者がみるエレベーターで下降する夢。
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第7回
50代読者がみたゴルフボールの夢
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第8回
21歳で出産するときにみた空を飛ぶ夢。
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第9回
小学生のときにみた家の中を飛ぶ夢。
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第10回
51歳の漫画家がみた母校のグラウンドを飛ぶ夢。
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第11回
松田先生がみた太陽と月を抱きしめる夢
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第12回
1時間に1本しかない通学バスに乗れずに焦る夢。
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第13回
なぜか自分の乗ったタクシーの運転手が逃げてしまう夢。
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第14回
50代の公務員がみた乗り物に乗り遅れそうになる夢。
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第15回
トイレに行きたいのに行けず、途方に暮れる夢。
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第16回
立派すぎるトイレに案内され、用を足すのをためらう夢。
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第17回
不完全なトイレに戸惑いながら最後には排せつをする夢。
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第18回
夜中、自宅の寝室で侵入者に怯える夢。
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第19回
夜の暗い海岸で岩場をひたすら走る夢。
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第20回
深くて流れのない川を誰かと一緒に眺める夢。
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第21回
亡き母が人生の節目を夢で祝ってくれた。
夢に登場する校舎について
4~5階建ての校舎が3つほど並び、渡り廊下でつながっています。私が実際に通っていた中高一貫の学校と、だいたいの雰囲気は似ています。でも、屋上にドーム状の施設があったり、やたらと階段が多いです。ごくごく普通の外装でクリーム色の壁です。廊下は灰色で、木材の廊下もあります。