なぜ、あなたはその夢をみるのか?

イラスト/ひらのんさ

この連載では、臨床心理士の松田英子先生が『通販生活』読者がみた夢を分析します。今回分析するのは、乗り物に乗り遅れそうになって焦る夢。よくある筋書きの夢ではありますが、夢の中で匂いをかげるなど、夢みる体験の達人的な方のように思えます。

1万人の夢を分析した

松田英子先生
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50代の公務員がみた
乗り物に乗り遅れそうになる夢。

電車、船、飛行機と、
いろんな乗り物に乗り遅れそうになる。

今回分析する夢は、
50代の公務員の方がよくみるという夢です。

私はこんな夢をみた

急いで駅まで行き電車に乗ろうとするが、駅が混んでいたり、切符を買うことができなかったりして、「出発時刻が迫っているのに」ともがく夢をみます。たまに、ぎりぎりで間に合って乗れることもあります。時間は夜のことが多いです。年齢は現実の私と同じくらいかな。でもなぜか独身に戻っているような。実家近くの駅に向かっていることが多いのでそう思います。電車が多いですが、船や、なぜかパリ行きの飛行機のこともありました。船の時は、船着場からみえる水面が真っ黒で怖くて、船へ乗り移るのに苦労しました。飛行機の時はパスポートがなくて焦りました。

(エヌ子さん、公務員、50代)

仕事などで追いつめられるとこの夢をみやすいそうですが、
50代で働き盛りの世代ですから、
部下なども持つ責任ある立場として
日々忙しく過ごしているのかもしれません。

日々頑張っているからこそ、
間に合わなくて焦る夢をみているのかも。

仕事に限らず、
何かの締め切りに追われているときなどに
間に合わない夢をみるのは、割とよくあることです。

私たちは、間に合わなくて焦るといった危機的状況を
夢にみることで、現実にその状況が起こらないように
脳内で対応のシミュレーションしていると
考えられます。

切迫感や焦燥感を伴う夢ではありますが、
日々目の前にあることを頑張っているからこそ
みる夢ともいえます。

あまり重くとらえすぎず、
「また間に合わない夢をみたな」
「あのことが気になっているのかな」
くらいに受け流してもよさそうですね。

夢の中で匂いをかげる人は
とても珍しい。

他に気になったことに、
この方が夢の中で感じる感覚の豊かさがあります。

夢の中で感じた感覚

夢の中でとても気分が晴れやかになったり、いい匂いをかいだりすることがあり、不思議な気持になることがあります。

夢の中の感覚として多いのは視覚や聴覚です。
「夢をみる」と表現しますもんね。

人間の感覚にはこの他にも
皮膚感覚や味覚、嗅覚などがありますが、
これらを夢で感じられる人はそんなに多くない印象です。

この方は夢の中で嗅覚を体験できるようですね。

みなさんは、夢の中でどんな感覚を体験していますか。
過去に分析した夢の中には、
スカートのすそがひざに触れるといった触覚、
室内のじめじめとした湿度を感じるなどの
皮膚感覚があるという方もいらっしゃいました。

他にも、
夢の中で食べたものの風味や食感などを
リアルに感じる方もいるようです。
お肉の焼けるジューっという音や香ばしい匂い、
さらには歯ごたえや風味まで
実際の食事さながらに感じたという報告を
受けたこともあります。

夢見る体験の上級者は
夢の中で自分の行動を調整できる。

分析をしていて、もう一つ気になることがありました。

それは、この方が夢をみていると自覚しながら
夢の世界を楽しめる「明晰夢者」でもありそうだと
いうことです。
夢についての以下の記述からそう思いました。

私はこんな夢をみた

夢の中で何度も同じ場所を訪れます。あ、またここに来たと思います。実際に行ったことはないけれども、なんだか懐かしい場所です。電車に乗ると良くない気がして乗らないようにしたり、降りようとしたりすることもありました。途中から、なんとなく夢だとわかることがあるので。夢で見た景色を現実に見ることもあって、気のせいかとも思うのですが、不思議な気持になります。

夢の中で何度も同じ場所に行くと
「夢だ」と自覚しやすくなるため、
明晰夢によくある筋書きの一つといえます。

また、
「電車に乗るとよくない気がして乗らないようにした」
というところから、
夢だと気づいた後で
夢の中の自分の行動を変えることもできるようです。
まるで夢の穏やかな雰囲気や不穏な雰囲気が、
行動調整に先行しているようですね。

匂いをかぐことができたり、
夢の中の自分のふるまいを意識的に調整できたりと、
夢みる体験の上級者といった印象を受けました。
全体的にこの方は、夢みる体験を楽しむ技術に
長けた方のようですね。

「これは予知夢だ」と
思ってしまうメカニズムとは。

先ほどの記述には、
「夢にみた景色を現実にもみることがある」
という箇所がありました。

夢でみた風景と現実にみたものを重ねて
既視感(デジャビュー)のようなものを覚える体験に、
心当たりのある方もいらっしゃるでしょう。
人によっては、夢が先回りして未来を教えてくれる
「予知夢」と捉えるかもしれません。

撮影/大倉琢夫

私は、夢を予知夢と受け取ってしまう原因の一つには、
認知の偏りがあると考えています。

たとえば災害国の日本では、
多発する災害へのおそれや、
その日にみた災害のニュースなどが引き金となって、
地震の夢をよくみる方もいると考えられます。

地震の夢をみた後、
実際に地震が起きると「予知夢」と捉える方も
いらっしゃるかもしれません。

ただ、ごく小規模なものも含めると
地震は日本各地で毎日のように発生しています。

地震の夢をみた日もそうでない日も、
地震が起きている可能性が高いのです。

それでも、地震の夢をみなかった日に起きた地震より、
地震の夢をみた日に地震が起きたという事実の方が
印象に残りやすいですよね。
こうした認知のかたよりが、
「これは現実を予知する夢ではないか」
と思う理由ではないかと考えられます。

夢を予知夢と受け取ること自体には、それほど問題はありません。

ただ、悪夢を予知夢と捉えたために現実の思考や行動が
ネガティブになってしまうのはもったいないです。
「この夢をみた日もそうでない日も、
良くないことが起きる可能性はあるものだ」
という風に、少し受け止め方を変えてみるのはどうでしょうか。

夢によって自分を縛るのではなく、
より健やかに生きるために夢を活用する。
そうした意識をもって、
できるだけ軽やかに夢を受け止めてみてくださいね。



まつだ・えいこ●東洋大学社会学部社会心理学科教授、博士(人文科学)。公認心理師・臨床心理士。主な研究テーマは、睡眠の改善から心の健康を高めること。『今すぐ眠りたくなる夢の話』(ワニブックス)、『はじめての明晰夢 夢をデザインする心理学』(朝日出版社)、『夢を読み解く心理学』(ディスカバー携書)など、夢に関する著書多数。

※次回は「50代の読者がみた、一生懸命トイレを探す夢」を分析します。(12月25日公開)

(12月25日公開)

※読者の夢には、表記の変更や分析に関係のない部分の省略などの編集を加えています。