なぜ、あなたはその夢をみるのか?

イラスト/ひらのんさ

この連載では、臨床心理士の松田英子先生が『通販生活』読者がみた夢を分析します。今回分析するのは、トイレが登場する夢。故障していたり、汚れていたりするためにトイレに行けず困る夢は、日本人がよくみる夢の一つです。背景にはどんな心理状況があるのでしょうか。

1万人の夢を分析した

松田英子先生
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トイレに行きたいのに行けず、
途方に暮れる夢。

やっとみつけたトイレが
全て使用中で用を足せない。

今回から三回続けて、トイレの夢を分析します。

間に合わない夢や空を飛ぶ夢など、
国や世代に関わらず、
多くの人がよくみる夢のテーマは複数あります。
トイレの夢も、典型的な夢のテーマの一つです。

ただ、世界各国の夢に関する調査をみると、
日本人は他の国の人よりも
トイレの夢をみることが多いようです。

夢の中で思いっきり用を足せれば気分爽快なのですが、
残念なことに、故障していたり異常に汚れていたりと、
トイレが不完全な状態であるために用を足せない夢が
圧倒的に多いのです。たとえば次のような夢です。

私はこんな夢をみた

50代のときによくみたが、20代から現在まで繰り返しみる夢のひとつ。トイレに行きたいのにみつからない。やっとみつけても、全部使用中。もしくは、ドアの鍵が壊れている、扉が壊れて外から見える、紙がない、詰まっている、汚い、扉がそもそもない、などの理由で使えない。夢の舞台は学校だったり、商業施設か何かだったり、実際の私が知っているはずの場所らしいのだが、よくわからなくて探し回る。結局みつからず用を足さない、もしくは壊れた扉のトイレに入って用を足そうとするが人が来てしまい諦める。

(くろやぎスミさん、自由業、61歳)

日本人は潜在意識の中でも
トイレを大切な場とみている。

全て使用中、扉が壊れている、紙がないなど、
トイレの夢でよくある筋書きのオンパレードです。
同じような夢をみたことがある方も
多いのではないでしょうか。

この方は、
夢をみた理由の自己分析もユニークです。

夢をみた理由を私はこう分析する

トイレにはうるさい方かもしれません。外出先では、どこに100点満点に近いトイレがあるかを常にチェックし、記憶に留めます。チェック項目は、清掃は行き届いてるか、トイレットペーパーの質、水の流れ具合、壁に触れずに用を足せる程度の広さはあるか、男女兼用は不可、手洗いにハンドソープがあるか、手を洗った後で触りたくないので、出入口は扉が無い方が好ましいなど。普段そこまで意識しているつもりはないのですが、こうして書き出してみると、トイレは私のなかで潜在的に大きな位置を占めているのかもしれません。

冒頭の「トイレにはうるさい方かもしれません」
という表現がなんとも面白くて、
思わずフフッと笑ってしまいました。

トイレをチェックする多彩な項目をお持ちのこの方は、
トイレをみる厳しい目をお持ちのようですね。

ただ程度の差はあれ、
トイレの設備や清掃度合に求める自分なりの水準を
もっている方は多いのではないでしょうか。

実際この方がおっしゃるように、
トイレは多くの日本人の潜在意識の中で
大きな位置を占めているのだと思われます。

ウォシュレットなど、
日本のトイレ文化は世界に誇るものですものね。

また日本では、良い悪いは別にして、
ある種の精神修養の一環として
トイレ掃除が励行されることもあります。
大成したスポーツ選手が、下積み時代には
率先してトイレ掃除を行っていたなどという
エピソードも好まれますよね。

トイレは日本人にとって、
単なる排せつの場である以上に、
何らかの精神的な意味合いを強く持つ場と言えます。

撮影/大倉琢夫

トイレは集団社会で
生きていけるかを試される場所。

日本人がみるトイレの夢について考えるとき、
見落とせないのが‶恥の感覚〟です。

トイレには「はばかり」という別名があるくらい、
人目をはばかって行く場所という意識が日本にはあります。
トイレと恥の感覚が結びつくのは、
ある意味で社会性を試される場所でもあるから
ではないでしょうか。連れだってトイレに行くことも、
仲良しのイメージがありますよね。

トイレに行って用を足すことは、
集団社会の一員としての最低限のルール。
そのため失敗すれば、社会の一員としての適性を疑われ、
社会的信頼も低下します。

集団の和を重んじる日本には、
周りに合わせられないことを恥と捉える見方もあります。
その見方からすると、自分の居場所や社会的信頼を
失うリスクを高める排せつの失敗は恥なのです。

社会に適応したいという
思いがトイレの夢に表れている。

これらを踏まえると、
トイレで用を足したいのに
何らかの不備があって叶わないという夢は、
社会に適応して生きていきたいという思いと
密接に関わっているように思えます。

家庭や学校、職場などで自らの役割を果たしたいのに、
それを阻もうとする要因があって、うまく遂行できない。
そうしたときに抱く焦りや苦しみなどが、
トイレの夢をみる理由と考えることができます。

とても人間らしい夢ですし、
社会生活を送るうえで
切っても切り離せない悩みと地続きの夢でもあります。

ですからトイレの夢をみたときには、
日々を頑張っている証と前向きにとらえてみてくださいね。



まつだ・えいこ●東洋大学社会学部社会心理学科教授、博士(人文科学)。公認心理師・臨床心理士。主な研究テーマは、睡眠の改善から心の健康を高めること。『今すぐ眠りたくなる夢の話』(ワニブックス)、『はじめての明晰夢 夢をデザインする心理学』(朝日出版社)、『夢を読み解く心理学』(ディスカバー携書)など、夢に関する著書多数。

※次回は「立派すぎるトイレに案内され、用を足すのをためらう夢。」を分析します。(1月9日公開)

(1月9日公開)

※読者の夢には、表記の変更や分析に関係のない部分の省略などの編集を加えています。

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