なぜ、あなたはその夢をみるのか?

イラスト/ひらのんさ

この連載では、臨床心理士の松田英子先生が『通販生活』読者がみた夢を分析します。今回取り上げるのは、尿意を抱えてやっとたどり着いたトイレが不完全で戸惑う夢。よくある筋書きの夢ではありますが、戸惑う気持ちを抱えながら排せつをするところに珍しさがあります。

1万人の夢を分析した

松田英子先生
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不完全なトイレに戸惑いながら
最後には排せつをする夢。

「ああ、こんなところで」と
思いながら用を足す。

今回分析するのは、
50代のパートの方がたまに見るという夢です。

私はこんな夢をみた

過去に実際に通った保育園から大学までの校舎をミックスしたような雰囲気の学校にいます。私のクラスや席はなく、訪問者のような感じです。私は階段を上がったり下りたり、渡り廊下を別の校舎まで移動したりして一所懸命トイレを探します。でも、男子トイレの中にしか女子トイレがないなど、入りにくい場所なのです。それでも尿意がたまらずに入ると、便器がとても大きくて跨げない、周りが水浸し、ものすごく汚いなどいろんな理由で、そこで用を足す気には到底なれません。ただ、だいたいは最後に排尿します。「ああこんな状況でしているなあ、あーあ」というふうに感じています。

(ばどさん、パート、52歳)

注目したいのは、
便器が大きすぎたり、不潔すぎたりする
不完全なトイレに戸惑いながらも、
最後には排泄をするに至っているところです。

爽快感と残念な感情を
同時に味わう。

ご本人は、夢をみた理由を以下のように
分析していらっしゃいます。

私がこの夢をみた理由

なんらかの欲求不満があるのだろうなあと思います。欲求を満たすことに対する罪悪感や不全感もあるかもしれません。私は集団の中で「ここは自分の場所ではない」といった孤立感を感じることが多いです。そうした感情も、夢に関係しているかもと思います。

夢の中で排尿しているときは、
「やっとできたな、すっきりするけれど、
こんな環境でしちゃっているのはまずいな」
と思ったそうです。

不完全なトイレに戸惑いを感じていたけれど、
最後にはふんぎりをつけて排尿し、
爽快感と残念な気持ちの両方を味わう。

そうしたところから、
欲求が完全に満たされない現状を嘆きつつ、
自分の心に折り合いをつけて
目の前の物事に向き合うような真面目なお人柄や、
そうした自分を許すような大らかさを感じます。

不完全なトイレには
理想と違う現実が表れている?

子育てにおいてトイレットトレーニングが
重要テーマの一つとみなされるように、
トイレで失敗せずに排せつができることは、
集団生活において誰もが求められる、
最低限の社会性ともいえます。
特に集団の和を重んじる日本では、
排せつの失敗を重く捉える人が多いようです。

つまり多くの日本人にとって、
トイレは生きるために欠かせない場である
だけでなく、社会性を試される場でもあるのです。

その排泄の場が
思い通りの環境でない時、どうするか。

そこに、
「社会の中でこんな風に生きたい」
「こうした役割を果たしたい」という自分の理想と、
理想と異なる現実をどう受け止めるかが
表れるようにも思えます。

撮影/大倉琢夫

例えば不完全なトイレに戸惑って
排せつをためらう夢をみる人は、
よく周りをみて自分の行動を調整するような、
順応性の高い方である可能性があります。
反対に、不完全なトイレでも
排せつをする夢をみる方は、
環境に関わらず自らのするべきことを
やり通す方である可能性がありそうです。

こうした見方は、
日本人は不完全なトイレの夢をみる人が多い一方、
実際に排せつまで至った夢をみる人が
少ないのはなぜかを考える上で、
大きなヒントとなるかもしれません。



まつだ・えいこ●東洋大学社会学部社会心理学科教授、博士(人文科学)。公認心理師・臨床心理士。主な研究テーマは、睡眠の改善から心の健康を高めること。『今すぐ眠りたくなる夢の話』(ワニブックス)、『はじめての明晰夢 夢をデザインする心理学』(朝日出版社)、『夢を読み解く心理学』(ディスカバー携書)など、夢に関する著書多数。

※次回は「50代の主婦がみた夜中の侵入者に怯える夢」を分析します。(2月12日公開)

(2月12日公開)

※読者の夢には、表記の変更や分析に関係のない部分の省略などの編集を加えています。

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