なぜ、あなたはその夢をみるのか?

イラスト/ひらのんさ

この連載では、臨床心理士の松田英子先生が『通販生活』読者がみた夢を分析します。今回取り上げるのは、夜中、自宅に侵入する何者かの気配に恐怖を感じる夢。投稿者は身体を全く動かせず声も出せないという、典型的な金縛りの状態にあったようです。

1万人の夢を分析した

松田英子先生
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夜中、自宅の寝室で
侵入者に怯える夢。

「これは夢だ」と気づくと
金縛りが解けた。

今回は、50代の主婦の方が
金縛りにあいながらみた夢を紹介します。

私はこんな夢をみた

夜寝ていると、誰かが家に入って来る気配がします。姿ははっきり見えませんが、侵入者は若い男性のようです。すぐに逃げたいのに起き上がれないし、隣で寝ている夫を起こしたいのに助けを呼ぼうにも声が出ません。「どうしよう、殺される!怖い!」という気持ちでいっぱいです。そして「あっ、でもこれは夢かも」と気づくとホッとして夢から覚めます

(まるこさん、専業主婦、53歳)

侵入者がいると気づいているのに、
逃げることも声を出して助けを呼ぶことも
できないのはとても怖いですよね。

寝ているときに身体の自由がきかなくなる
この状況は、典型的な金縛りと考えられます。
この方は同じ夢を繰り返しみているようで、
「これは夢だ」と自覚すると
ほっとして目が覚めたそうです。

ただこの方のように
「夢だ」あるいは「金縛りだ」と気づいても、
すぐに目覚められない方もいるでしょう。

そういう方は、
まずは眼や指先などを小さく動かすことを
意識してみてください。
身体の一部を動かせれば、
それをきっかけに金縛りが解けることが多いのです。
ゆっくり呼吸をしてみたり、
小さく声を出したりするのもいいです。

疲れているときは
金縛りが起こりやすい。

金縛りは、心身が疲れているときに
起きやすい現象です。

本来は脳と身体の両方を休める
ノンレム睡眠から始まる睡眠リズムが、
疲れなどによってレム睡眠から始まることで
睡眠麻痺、俗にいう金縛りが起きると
考えられています。
このとき、脳は覚醒していますが、
身体は脱力していて動かすことができません。

眠ってすぐ、
身体が何かに押さえつけられて
落下するような感覚を味わったことはないでしょうか。
入眠時からいきなりレム睡眠が始まると、
こうした体感を覚えることがあります。

そして何かに押さえつけられるような
体感にひっぱられて、
脳は様々なイメージをつくりだします。
怖い夢をみる人も多く、
その内容は何者かに身体の上に乗られる、
逃げたいのに体が動かないなど、様々です。

こうしたメカニズムを知っておくことも、
金縛りにあったときに慌てないための
心のお守りとなるかもしれません。

とうもろこしの実が
こぼれるように歯が抜ける夢。

他にも恐怖を感じた夢として、
次のような投稿がありました。

私はこんな夢をみた

はじめは別のストーリーの夢なのですが、ストーリーの途中で1、2本歯がグラついてきます。それを指でふれて「ん?」なんて確かめているうちに、ボロッと、いとも簡単に抜けてしまいます。するとあれよというまに、奥歯も前歯も上の歯も下の歯も、とうもろこしの実がこぼれおちるように一気に抜けるのです。抜けた歯を両手のひらいっぱいに受け止める。「どうしよう。歯がこんなに抜けちゃった。うええええっ」と怖くて目覚め、夢だとわかって安堵します

(にしきさん、パート、50代)

歯が抜ける夢は、
世代を問わず多くの人がみる夢の一つです。
他の読者からも多くの投稿があったのですが、
この方の夢は
「とうもろこしの実がこぼれ落ちるように」
という表現がユニークで印象に残りました。

撮影/大倉琢夫

夢の中で味覚を感じる方は少ないのですが、
歯の抜ける夢をみたときには
血の味がするという方もおられます。

なぜ歯が抜ける夢をみるかは、
もう少し詳しくお話を伺ってみなければ
分析できません。
ただ様々な研究を踏まえると、
何らかの健康不安を抱えているときに
歯が抜ける夢をみる方が多いようです。

歯と全身の健康は結びついているといった
イメージを持つ方が多いからなのかもしれません。

また、アナウンサーのような
人前で話す職業の方にも、
歯の抜ける夢をみる方が多いようです。

私が以前お仕事でご一緒したアナウンサーの方は「噛まずに原稿を読まなくては」
といった緊張感からか、
歯が抜けて口の中がジャリジャリして
うまく話せないという夢をみていました。

歯が抜けて原稿が読めなくなるという
危機的状況を夢でシミュレーションすることで、
それが現実になることを
避けようとしていたのでしょう。
そうした、仕事に懸命に向き合う気持ちが
夢に表れたのだと思います。



まつだ・えいこ●東洋大学社会学部社会心理学科教授、博士(人文科学)。公認心理師・臨床心理士。主な研究テーマは、睡眠の改善から心の健康を高めること。『今すぐ眠りたくなる夢の話』(ワニブックス)、『はじめての明晰夢 夢をデザインする心理学』(朝日出版社)、『夢を読み解く心理学』(ディスカバー携書)など、夢に関する著書多数。

※次回は「50代保健師がみた、川を眺める夢」を分析します。(2月26日公開)

(2月26日公開)

※読者の夢には、表記の変更や分析に関係のない部分の省略などの編集を加えています。

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