なぜ、あなたはその夢をみるのか?

イラスト/ひらのんさ

この連載では、臨床心理士の松田英子先生が『通販生活』読者がみた夢を分析します。今回取り上げるのは、50代の保健師の方がみた、川を眺める夢です。穏やかな川を眺める夢の描写からは、中高年の夢らしい落ち着きや静寂感がみてとれます。

1万人の夢を分析した

松田英子先生
20

深くて流れのない川を
誰かと一緒に眺める夢。

黄昏時のような情景で
崖の上から川を見下ろす。

今回分析するのは現在50代の読者の方が、
10年以上前からみるという夢です。

私はこんな夢をみた

10年以上前から、深くて流れのない深緑色の川の夢をみます。10メートル以上ある崖の上から見下ろしていることが多いです。一緒にいるのは父親だったり、自分の子供だったりしますが、友人や他人のときもあります。そうした同伴者と川を眺めていることが多いです。時間は午後で、晴れの夕暮れのような黄色っぽい景色です。怖くはないのですが、目が醒めると不快な印象が残っています。

(くんくんさん、保健師、50代)

夢の中の時間は黄昏時くらいでしょうか。
その時に、流れのない川をただ眺めている状況が、
中年期の心のありように重なるように思えます。

中年期ならではの感情が
夢に表れることもある。

中年期に入って人生の後半にさしかかると、
自分の人生の全体像をなんとなく
把握できるようになります。
そのとき、一通りの選択を終えたことへの安堵感や、
人生の分岐点で選択しなかった可能性に思いを巡らせ、
一抹の寂しさを感じる方もいらっしゃるでしょう。

夢の中で10メートル以上の高さがある
崖から川を眺める情景は、
この方が自分の人生を俯瞰して眺めている
心持ちを表しているのかもしれません。

川は深くて流れがない、
穏やかな様子だそうですから、
これまでの人生はご自身にとって
納得のいくものだったのではないでしょうか。
何か不満があったりする場合、
夢の中に流れの激しい川が登場する可能性も
考えられるからです。

いつも同伴者と一緒に川を眺めていることも
ポイントだと思いました。
様々な形で人生を共に歩む同伴者の存在を
強く意識することも、中年期の特徴だからです。
さらに言えばこの夢からは、
男性性より女性性をより強く感じます。
身近な他者とコミュニケーションをとる夢は、
男性より女性がより多くみる傾向があるのです。

以前、この連載の第8回で、
読者の方が50~60代の頃にみたという、
一人で上空500メートルほどを飛び回って
日本を一周する夢を紹介しました。

高齢期にさしかかると、
中年期よりもさらに距離のあるところから
自分の人生を俯瞰し、総決算するような夢をみる方も
いらっしゃるようです。この方の夢もまた、
自分の人生への納得感や達成感を感じさせる内容でした。

10~20代の若者の夢は
時間の流れが速い。

次に紹介するのは、20代の読者の方がみた夢です。

私はこんな夢をみた

飛行機に乗り、何度も墜落する夢を見ます。墜落していく際の浮遊感や緊張感はあるものの、自分や周囲の人が怪我をすることはありません。一度墜落した後にはすぐに飛行機に乗っている場面に変わり、再び墜落します。

(ぽんさん、大学院生、20代)

この方は以前勉強のために海外に行ったとき、
強い緊張や不安を感じたそうです。

現在は大学院生とのことです。もしかしたら、
日本の高等教育とキャリアの問題として
よく報道されているように、
将来への不安を感じているのかもしれません。
みなさんも日頃、博士号の取得者の就職難に
関するニュースなどを目にすることも
あるのではないでしょうか。

そうした不安感が海外生活で味わった
不安感を呼び起こし、
「何度も飛行機が墜落する」という夢の筋書きが
脳内で固定化された可能性が考えられます。

この方が、目の前の課題や研究に
一生懸命取り組んでいるからこそ
みる夢ともいえそうですね。

撮影/大倉琢夫

飛行機に乗っては墜落して、
また乗って……という状況は、
なんともスリリングでスピード感があります。
こうした情景は、
自力ではどうにもできないような
環境に身を置きながらめまぐるしい日々を
必死に過ごすような、若者らしい心持ちに
通じるようにも思えます。

先ほど紹介した穏やかな川を眺める夢とは、
夢の中の時間の速さが全く違いますよね。

他にも、読者のみなさんから寄せられた夢には、
カーチェイスをする夢や、
前方にかすかな光を感じながら海や山の中に
吸い込まれるといったものがありました。
いずれも10~20代の若いときにみた夢の報告です。

どうやら人生の発達段階に応じて、
夢に表れる人生への向き合い方や、
夢の中の時間の流れ方が異なる可能性が
ありそうです。
これは私にとっても面白い発見でした。



まつだ・えいこ●東洋大学社会学部社会心理学科教授、博士(人文科学)。公認心理師・臨床心理士。主な研究テーマは、睡眠の改善から心の健康を高めること。『今すぐ眠りたくなる夢の話』(ワニブックス)、『はじめての明晰夢 夢をデザインする心理学』(朝日出版社)、『夢を読み解く心理学』(ディスカバー携書)など、夢に関する著書多数。

※次回は「65歳の主婦が入籍前にみた、亡くなった母の夢」を分析します。(3月25日公開)

(3月25日公開)

※読者の夢には、表記の変更や分析に関係のない部分の省略などの編集を加えています。

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