
国境なき医師団とは、1971年にフランスで設立された、紛争地や災害地、貧困地域など世界約70の国と地域で医療・援助活動を行なっている非営利団体です。
通販生活では21年から、みなさんが通販生活で購入した商品の売上の1%分を、この国境なき医師団に寄附しています。この寄附金がワクチンや薬、包帯、食料、水などになり、医療を必要としている世界中の人たちに届きます。
10年ちかく、国境なき医師団の活動を取材してきた作家のいとうせいこうさんと、国境なき医師団日本・会長の中嶋優子さんを小社セミナーホールにお招きし、対談を開催しました(24年12月4日)。
パレスチナのガザ地区にある病院に赴任していた中嶋さんに、国境なき医師団の活動と、当時のガザ地区の状況について、いとうさんがお聞きしました。
いとう・せいこう●1961年、東京都生まれ。編集者を経て、活字・映像・音楽・舞台など多方面で活躍。2016年から、パレスチナやロヒンギャ難民キャンプなどを訪れ「国境なき医師団」の活動を取材する。
なかじま・ゆうこ●日本の病院勤務を経てUSMLE(米国医師国家試験)合格。米国救急専門医を取得。2010年からシリアなど7つの国と地域で8回の医療・人道援助活動を経験。2022年3月から現職。
「ガザの状況は、どんな現場よりも桁違いに酷かったです」
いとう人道支援を行なっている団体は数多くありますが、「国境なき医師団(MSF)」の特長を教えてください。
中嶋国際的な人道援助団体の中でも「国境なき医師団」は異端児的な存在だと思います。特長的なのは、活動資金の9割以上を民間からの寄附で賄っていて「独立性」を担保していること。また、ただ黙って医療行為だけをしていることが「中立」ではないと、活動を通じて見たこと、知ったことを広く伝える「証言活動」に力を入れていることもユニークな点だと思います。
いとう中嶋さんは、そのMSFの活動でパレスチナ・ガザに入られたんですね。

中嶋さんが赴任したガザ地区南部ハンユニスにあるナセル病院。「爆弾の破片による重症やけどや、皮膚や手足の欠損など日本では到底見ない症例が多々見られました」(中嶋さん)
中嶋はい。ガザでの戦闘が激化した2023年10月7日以降、初めてガザ入りした緊急医療援助対応チームの一員でした。ガザの状況は、これまで見てきたどんな現場よりも桁違いに酷かったです。空爆のたびに、何十人もの重傷者が運ばれてくる。家族全員が亡くなってしまった子どももたくさんいて、その一人の子が自分も手足を失って大手術を受けた後、麻酔から覚めて「家族はどこ?」と尋ねるのを聞いたときは本当に辛かったです。無力感にさいなまれ、精神的にあんなに追いつめられたのもガザが初めてでした。
いとう僕がMSFの活動を見せていただくためガザに行ったのは19年ですが、そのときもあちこちでドローン(無人機)の音が聞こえていました。病院に行くと、「後ろから足を撃たれてけがをした」という人がたくさんいて、「殺すことよりも、治療にお金や労力がかかる状態にして、国力を削ぐのが狙いなんだな」と感じたことも覚えています。僕らが見過ごしていただけで、ハマスによる攻撃のずっと以前から、すでにそうして「戦争」は続いていたんですよね。
中嶋1年間で1万人以上の子どもが犠牲になっても、各国政府は政治的なしがらみなどでなかなか動けない。そんな中、23年12月に南アフリカがイスラエルを国際司法裁判所に提訴したというニュースがあって、「南アフリカ、格好いいな」と思いました。
いとう最高に格好いいです。
中嶋アメリカでも、SNSなどでガザの惨状を知った学生たちが声をあげたことで、政府のパレスチナに対する姿勢が少し変わりましたよね。日本でも、「なんとかしろ」とわーわー言う人が増えれば、少しは変化が起きるんじゃないでしょうか。そのためにも、証言活動が重要だと改めて感じているところです。
「『消費』も一つの意思表示の手段になると思います」
いとう「声をあげる」やり方はたくさんあります。僕は以前、ミャンマーの軍事政権に抗議するTシャツを知人のデザイナーと作って、通販生活で販売してもらったんです。その売上の一部を現地の民主活動家らに寄附したことがありますが、そんなふうに支援につながる商品を買うなど、「消費」も一つの意思表示の手段になります。メディアに「ガザのことをもっと知りたいから報道して」と意見を送るのもいい。批判だけではなく、現地で平和運動をしている人、優れた記事を書いてくれたジャーナリストなど、「いいな」と思う人を応援することも大事だと感じています。一人で世界を変えることはできないけれど、「僕たちにできることなんて何もない」わけではないと思うんです。

ガザ地区にある国境なき医師団の倉庫。食料や水をはじめ、手術用モニター、滅菌機器、鎮痛剤、麻酔薬などつねに足りない状況が続いていた。
これまでの小社からの寄附実績。

※25年1月31日現在。21年4月~22年6月までは「新型コロナ関連商品」の売上5%分を寄附しました。
あなたが通販生活で購入した商品の売上の1%が、国境なき医師団を通じて医療品や食料、水になり支援が必要な人へ届きます。
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