
海へ流れ出たら600年は分解されない
廃棄漁網を回収・再生しているのが、4年前からご紹介してきた
「オーシャンナイロン」の服です。
今年ついに漁網率100%に進化した本品を根元から支えてくださっている
漁網回収の現場を、再生素材に関心を寄せる俳優の菊池亜希子さんに
訪ねていただきました。(2024年12月20日取材)
モデルとしてお仕事をスタートして服づくりにも携わってきましたが、いま環境の問題は待ったなし。新しい服をつくり出す責任についてぐるぐる考えてきたので、今回の取材はありがたいお話でした。
最初にうかがったのは、北海道南部の苫小牧漁港です。4年前から道内の漁網の回収再生を担当している鈴木商会(1953年創業)の生江勇次郎さんが、漁網が詰まった大袋と待っていてくれました。なんてカラフルな網なんだ!
「刺し網漁に使うナイロン漁網です。ニシンやホッケを獲る網で、掛かった魚を傷つけないように切ることも多いので、消費が早い漁網とも言われています。以前は浜に置いておいて、量がたまったら業者さんに依頼して廃棄していたそうですが、その間に時化で海へ流れ出てしまったらと心配していた漁師さんたちが漁協に掛け合ってくれて、いまでは道内の20の組合が回収に協力してくれるようになりました。この網、破けてボロボロですけど潮でベタベタしていないですよね?」
確かに海のにおいも魚のにおいもしません。
「漁師さんたちが洗ってくれるんです。とくに若い漁師さんは熱心で、海は無限に恵みをくれるものではなくて、守って育てるものと思っている。それに『リサイクルしたほうがカッコいいべ』って(笑)」
年間400トンの漁網を
人の手で1枚1枚選別していく。
次に向かったのは浜から車で5分ほどの鈴木商会の再生工場です。漁網再生の責任者、櫻山浩さんが漁網の持ち手や浮き子(網の上辺を浮かすEVA入りロープ)などナイロン以外の部分を切って取り除く選別場に案内してくれたのですが、1枚1枚をすべて手作業で選別していると聞いて驚きました。
「漁網には様々な素材が組み合されているので機械で判別できないんです。人の目と手の感覚が頼り。迷わず判るようになるまで半年はかかるかな。年間で400トンですから考えると気が遠くなりますね(笑)。選別した後は、機械で細かくカットして高熱で溶かし、長細く絞り出して冷やし固め、粒状にカットします。このペレットが糸の原料になります」
漁網が素材に還るまで。

①回収した漁網は手で仕分け。貝の欠片やカニの爪なども取り除く。

②高温で溶かした漁網を麺状に細く絞り出し、冷やし固める。

③粒状のペレットにカット。これを再び溶かして糸化する。
でき上がったペレットを手に取ってみると何色もの漁網が混ざりあった深緑色。何人もの漁師さんと、漁網を切り分ける職人さんの思いが重なった色のようでした。
リサイクルって、古い物から新品が自動でポンと生まれるわけじゃない。回収のしくみも再生する技術も、人の工夫と手が重なって成立していることを私たちはもっと知らなくちゃいけない。何より自分が食べた魚を獲った漁師さんの網が糸になっているかもしれないぞ、と思うと人ごとではなくなります。物から見える景色を含めて、自分に必要な物を真剣に選ぶ時代が来ているのだと感じました。