夏に浴びた紫外線ダメージで、肌の下の
隠れジミは増殖中。秋に表面化させないための
正しいスキンケアを、アンチエイジング医療の第一人者、
日比野佐和子先生(医学博士)に伺いました。
教えてくれる人
日比野佐和子先生
(医学博士)
日比野佐和子先生
ひびの・さわこ●医師・医学博士。医療法人社団康梓会SAWAKO CLINICxYS統括院長。アンチエイジングドクター(日本抗加齢医学会認定医)。
「シミは、保湿・美白・インナーケアで防ぎましょう」
秋にシミが増える3つの理由
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紫外線の蓄積※1
夏の紫外線によって肌の内部に発生した過剰なメラニンが蓄積。秋ごろになって肌の表面に押し上げられる。
※1:国立環境研究所所有紫外線モニタリングネットワーク事務局2018年つくば局観測データ -
寒暖差
季節の変わり目特有の寒暖差で自律神経が乱れる。バリア機能が低下することで肌荒れにつながる。
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気温と湿度※2
9月を過ぎたころから気温と湿度が急降下。乾燥と気温低下による血行不良でターンオーバーが遅れて肌がくすむ。
※2:東京の過去30年間の気温・湿度の平均値(気象庁)
厳しい日差しがやわらぎ、ほっと一息つきたくなる秋。でも、スキンケアはいっそう丁寧に行う必要がある季節です。
秋になれば紫外線の量は徐々に少なくなってきますが、まだまだ油断は禁物です。肌老化の原因の約8割は「光老化」。紫外線によって細胞がダメージを受けるだけでなく、紫外線が肌に当ることで活性酸素が増え、酸化ストレスにより老化の進行が高まります。エイジングケアのためには、1年を通して紫外線対策が欠かせません。
この季節に多くの女性を悩ませるシミも、大きな要因は紫外線です。肌は紫外線に当ると、メラノサイト(色素細胞)からメラニン色素が生成され、しばらくの間、皮膚の細胞に蓄積されます。健康な肌では4~6週間でターンオーバー(皮膚の生まれ変わり)が行われ、メラニン色素は古い角質とともに皮膚の表面に押し上げられて排出されます。
ところが、紫外線を浴び続けて過剰にメラニン色素が生成されたり、加齢によってターンオーバーのサイクルが長くなったりすると、このサイクルが乱れて、皮膚の生まれ変わりが追いつかなくなります。強烈な夏の紫外線が蓄積している秋は、ターンオーバーを促すお手入れをしっかりしないと、蓄積されていた「隠れジミ」がどんどん表面化して、「目に見えるシミ」になってしまうのです。
隠れジミが表面化するまで
紫外線を浴びたメラニンが過剰に生成されて、隠れジミが増加。
秋はまた、季節の変わり目特有の寒暖差によって自律神経が乱れがちです。自律神経が乱れると、バリア機能が低下して肌荒れが起こる原因に。肌荒れで炎症が起こるとメラニン色素が過剰に生成され、色素が沈着しやすくなります。
では、シミの定着と表面化を防ぐためにはどうすべきか。紫外線対策を徹底し、次で紹介する「保湿」「美白」「インナーケア」の3つのアプローチで、シミのできない肌を育てましょう。シミ対策には、保湿や美白といった肌の外側から働きかけるアウターケアと、生活習慣を改善して体の内側から健康になるインナーケアが必要です。
隠れジミを撃退するための
3つの鍵
洗顔、保湿、食事、睡眠……。誰もが毎日行っているルーティンの質をいかに高めるか。それこそが隠れジミを撃退し、美肌をつくるためのポイントです。ここではシミ対策に焦点を当て、ターンオーバーを促す「最低でもこれだけはやるべき」美容効果の高い日比野メソッドを紹介します。
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1.保湿
「洗顔後の保湿を徹底的に行うと、
驚くほど肌がみずみずしくなります」化粧水を数回に分けて重ねづけすることで、肌の奥まで浸透し、潤いがアップします。徹底してこすらないようにしましょう。
シミ対策をはじめ、エイジングケアに保湿は欠かせません。私はここ数年、スキンケアのルーティンのなかでも、保湿にはとくに時間をかけるようにしています。もともと洗顔後の保湿は、化粧水と美容液がひとつになったオールインワンタイプのアイテムで、ササッと済ませていたのですが、あるとき、徹底的に保湿をしてみたところ、自分でも驚くほど肌がみずみずしく変わったのです。
目元にできやすい乾燥による小ジワ対策にも保湿がマスト。セラミド配合の化粧水やクリームでたっぷり潤して、肌の保水力を回復させましょう。一方、加齢によるしわやたるみには、弾力アップが期待できるコラーゲンやスクワラン配合の基礎化粧品がおすすめです。
化粧水のつけ方には重要なポイントがあります。肌にしっかりなじませるためには、コットンより「手のひら」か「指」がおすすめです。顔全体に化粧水をなじませたら両手のひら全体で顔を包み込むようにします。その後、ハンドプレスで肌を優しくプッシュし、化粧水を肌の奥までじっくり浸透させていきましょう。手を温めてからハンドプレスすると、血行促進の効果も期待できます。 -
2.美白
「シミへの有効成分が配合されている
美白化粧品を積極的に使いましょう」紫外線によるシミやくすみは、ビタミンC誘導体やアルブチン、プラセンタエキスなど美白有効成分を含む化粧品でケアすると、メラニンの過剰な生成を抑え、シミの定着を防ぐことが期待できます。
ビタミンC誘導体はビタミンCの安定性を高め効果を発揮しやすくしたものです。皮脂の過剰分泌を抑え、コラーゲンの生成を促すとともに、乾燥を防ぐ働きも。毛穴の黒ずみや肌のたるみも目立たなくします。
プラセンタエキスは、動物の胎盤に含まれる成分が原料です。ダメージを受けた肌細胞の修復や再生を後押ししてくれます。保湿ケアやエイジングケアに加えて、美白コスメを積極的に使いましょう。 -
3.インナーケア
「シミを防ぐには外側からだけでなく、
体の内側からのケアが不可欠です」人の腸内細菌は「善玉菌」「悪玉菌」「日和見菌」の3種類。理想のバランスは、善玉菌が2割、悪玉菌が1割、日和見菌が7割といわれています。できるだけ多くの種類の腸内細菌を摂ることが推奨されています。
シミのできない肌をつくるには毎日のスキンケアが大切ですが、それだけでは不十分です。スキンケアは主に「表皮」へアプローチする美容法。肌のハリや弾力を支える「真皮」や、エネルギーの貯蔵や代謝をコントロールする「皮下組織」には、食事や睡眠など体の内側から美肌をつくるインナーケアが必要です。
その代表格が食生活の改善です。肌が美しくなる食事の基本は、腸内環境を整えるような毎日の食生活。腸内の善玉菌を増やす発酵食品と、善玉菌を活性化する食物繊維の両方を積極的に摂り込むことで、ターンオーバーが正しく行われ、トラブル知らずのピカピカの肌がつくられることになります。
私が実践している肌活のひとつが夕食後に「ヨーグルトを食べる」こと。常温に戻して食べるようにしています。冷やして食べるより乳酸菌が活性化した状態で腸に届けることができるからです。腸の修復や再生が行われるのは、起床して15~19時間後。この時間帯に乳酸菌を腸に届けることで効率よく腸内環境を整えることができます。
もっと教えて、
日比野先生!
美肌へプラスワンケア
保湿ケアは丁寧な
クレンジングから。
どんなにいい基礎化粧品を使っても、毎日のクレンジングがおざなりだと浸透しません。肌にクレンジング剤が残っていると、乾燥、シミ、くすみなどの原因になることも。こめかみや髪の生え際まで、しっかりすすいでください。丁寧なクレンジング習慣がエイジングケアのはじめの一歩です。
洗浄力の強いクレンジング剤は肌の潤い成分セラミドを減少させます。セラミドを減らさないためにも、クレンジング剤選びは意識したいところです。オイルタイプはメイクがよく落ちる反面、一般的に界面活性剤の配合量が多く、肌への刺激が強め。保湿成分がしっかり入ったものや、刺激の少ないものを選びましょう。
スキンケアの効果を
高めるには?
高価な化粧品を使っても効果がない? 美容液やクリームを効果的に浸透させるには「ランゲルライン」(皮膚割線)を意識しましょう。ランゲルラインは細胞分裂を繰り返す過程で生じる細胞膜の跡。全身にくまなくありますが、おでこは左右に、目元はぐるりと目の周りを囲むように、鼻筋から頬はほうれい線に沿って下方向に走っています。イラストの矢印の流れに沿ってシワを伸ばすようにマッサージをしながら、化粧品を塗り込んでください。より肌の奥深くまで美容成分を浸透させることができます。
なお、洗顔後は乾燥が急速に進むので、5分以内に化粧水で保水、乳液で保湿しましょう。
ランゲルラインに沿って下から上、中心から外にマッサージするとリンパの流れもスムーズに。
肌の老化を防ぐ
強い味方「ビタミンACE」
紫外線やストレス、加齢などから体内に活性酸素が生成され、肌の酸化が進むと、シミやしわ、たるみやくすみなど、肌の老化が進行します。活性酸素を抑制する「抗酸化物質」は加齢とともに低下するので、抗酸化作用のあるビタミンA、C、Eを積極的に摂ってください。
ビタミンA(βカロテン)はニンジンなどの緑黄色野菜などから摂りやすく、皮膚や粘膜を強くします。肌や血管、筋肉を丈夫にするビタミンCはフルーツなどから摂取できます。ゴマなどに含まれるビタミンEは、血行を促進して細胞一つひとつを若返らせてくれます。「ビタミンACE(エース)」とも呼ばれる3つのビタミンを組み合わせて摂ることで、さらに抗酸化パワーが高まります。
幹細胞を活性化し
肌細胞を若返らせる。
再生医療で研究されている「幹細胞」は、自分とまったく同じ細胞に分裂する機能と、別の細胞をつくる機能を兼ね備えています。最近は美容の領域でも活用され、幹細胞が元気になれば肌の弾力をアップさせたり、ターンオーバーの乱れを回復させたりできると考えられています。幹細胞を活性化させるには、1日1時間のウォーキングが効果的。早歩きで1時間に1万歩を目指しましょう。年齢とともに幹細胞の数は減っていきますが、ウォーキングで外から刺激を与えることで細胞が若返ると言われています。
また、ストレッチでからだの血行を促すと、幹細胞が活性化し、ひいては肌細胞も元気になります。下図で紹介した2つのストレッチや、「肩甲骨をほぐす」ストレッチもおすすめ。力を入れず、ゆっくり息を吐きながら筋肉を伸ばすのがコツです。毎晩、寝る前のルーティンとして取り入れてみてください。
脚上げ:
❶あおむけになり、片脚ずつ膝を曲げて伸ばす。これを1分間ずつ左右行う。
❷あおむけのまま天井に向かって両脚を上げる。1分キープしたらゆっくり下ろす。つらければ膝が曲がっていてもOK。
チャイルドポーズ:
正座になってから、ゆっくりと両手を前に伸ばす。肩や首の力を抜いて、そのまま深呼吸。
朝のタンパク質が
良質の睡眠をもたらす。
ダメージを受けた肌は睡眠中に修復されます。美肌のためにも質のよい睡眠を得たいものですが、そこには食生活が大きく関わっています。
自然な眠気を誘発するホルモン「メラトニン」をつくるためには、朝食にタンパク質を摂ることが大事です。朝のタンパク質は約15時間かけてメラトニンに変わる性質があり、質の良い眠りをもたらします。
肉や魚はもちろんですが、忙しい朝には卵がおすすめです。卵は食物繊維とビタミンC以外の栄養素を含む完全栄養食品。私は毎朝2個食べています。手軽にタンパク質を摂れるだけでなく、コラーゲン生成や抗酸化作用、紫外線への抵抗力を高める作用もあります。