「人生に折り返し地点はありません」
「この年齢からでは無理かもしれない」――
そんな諦めを、私たちはどこかで抱えてはいないでしょうか。
スロワージュコスメの愛用者、フリーアナウンサーの久保純子さんは、50歳を機に幼稚園教諭という新しい道へ踏み出しました。
「人生100年とすれば50歳は後半の始まり。
でも人生に折り返し地点なんてありません」と語る久保さんに、年齢にとらわれず新しいことに挑戦できる秘訣を聞きました。
くぼ・じゅんこ 1994年NHK入局。「プロジェクトX」や「紅白歌合戦」などの人気番組を担当。2004年にフリーアナウンサーとなりメディア出演の傍ら、著作や絵本の翻訳なども手がける。現在はアナウンサーとして国内外で活動の場を広げ、家族とともに住むニューヨークで幼稚園教諭としても勤務。
「いくつになっても〝敏感期〟は訪れます」
朝5時、まだ暗いうちに目を覚まし、米麹水をぐいっと飲み干してラジオ体操。これが現在ニューヨーク在住の久保純子さんの朝の習慣です。
「7時半に家を出るまでの時間は、リラックスタイム。朝ごはんに干し芋とナッツ、あとはフルーツとパンや米飯を食べたり食べなかったり。夕飯用の玄米と小豆を水に漬けつつ、前日の残りで高校生の娘と私のお弁当を作って。小豆茶を飲みながらメールに返信したり、日本にいる両親や兄、友人とラインのやりとりをしたり」
小豆茶のおかわりを飲み終えたら身支度を整え、いざ勤め先の幼稚園へ。モンテッソーリ教育の教諭としての1日が始まります。
モンテッソーリ教育とは、イタリア発祥の幼児教育法。子どもがやりたい活動を選べる環境を整え、集中する時間を大切にする教育法です。久保さんが、この幼児教育に出合ったのは十数年前、次女を通わせる幼稚園を探していた頃のこと。幼児教育と言葉に関わることをライフワークと考えていた久保さんは、出合った瞬間「やりたかったのはこれだ」と感じ、資格をとるべく教師養成学校に通いました。そして子育てが一段落し、コロナ禍が明けたタイミングで、思い切って教師の道へ。50歳を迎えた年のことです。教師4年目の現在は、2歳から5歳までの18名が学ぶクラスを担当しています。
2.久保さん考案のオリジナル教具。紙飛行機の折り方を解説。
(写真は本人提供)
モンテッソーリ教育で重要視されるのが、「敏感期」という概念。幼少期に訪れる、感受性が高く物事に集中できる時期のことで、モンテッソーリ教育ではこの時期に言語活動や運動や手作業などの体験を重ね、生きる力を育みます。何をしたいかは子どもが選び、大人は見守ります。「2歳児でも鋭利なナイフを持たせるし、糸と針も使う。本物に触れさせて『危ないから人に向けてはいけない』『乱雑に扱ったら怪我をして痛い』と自ら学ぶんです」と、久保さん。
そう言う久保さん自身が敏感期のただなかにいる印象です。「毎日覚えることばかりで頭がパンクしそう」と言いつつ、教師のほかに干し芋づくりに器の金継ぎに絵本翻訳と、好きな世界に目を輝かせているのですから。
「あはは、そうかもしれませんね。私たち大人の敏感期って、ゆるやかに後退しながらも続いていくものだと思います。覚えたこともすぐに忘れるんですけれど、それでいい。この年齢になってひとつでも新しいことを覚えたときの達成感や喜びは格別ですから」
4.子どもたちもお寿司をよく知っている。個性的な巻きずしができた。
5.モンテッソーリ教育を学んでいた40代前半の実習風景。
(写真は本人提供)
大人にも「敏感期」は訪れるのですね?
「そう思います。だから好きなことに夢中になる時間は年齢を問わず大切です。インタビューの仕事をしていても、好きなことについての話題になると、みなさんとてつもないエネルギーが生まれて、とっても良い顔をなさるんですよね。幸せホルモン、セロトニンがどんどん出てきて、心身に潤いを与えているに違いないと思っています」
そんな敏感期を引き寄せるコツは「お金のかからない小さな喜びに気づくこと」だと言います。
「私が今はまっている干し芋づくりだってお芋ひとつでできます。目標を高くしすぎないことも大事。長続きさせようって構える気はまったくなくて、少しでも好きだと思うものを見つけたら、ちょっとやってみる。うまくいかなくてもがっかりせず『じゃあ、次何を見つけようかな』って」
7.朝は日本茶と干し芋が欠かせない。
8.抽選の格安チケットで足繁く観劇に。
9.おばあちゃん子だったためか、ぬか漬けにひじきに切り干し大根、と伝統食が好き。
(写真は本人提供)
「家族との関係も結び直し、後悔しないよう日々を生きたいと思います」
久保さんがもうひとつ大切にしていることが、心で思っていることは相手に直接言葉で伝える、ということ。「『目は口ほどにものを言う』ということわざはありますが、私は、目には言葉は語れないと思います」と久保さん。
「勤めている幼稚園の同僚は二十代から三十代が中心で、コロンビア人、韓国人、メキシコ人、インド人、スリランカ人、カナダ人、イギリス人、オーストラリア人……。あらゆるバックグラウンドの人がいますが、人間関係の根本に来るのはやっぱりやさしさ。推測に頼らず言葉にして、たくさんコミュニケーションを取るようにしています」
だから家族にも感謝や労わりの言葉はストレートに伝える。その姿勢は今後ますます大切になりそうです。
「子どもの独立が迫り、もうじき夫婦二人だけの暮しが始まります。これまでお互いに子育てや仕事に夢中で、平行線で歩いてきた気がするのですが、ここからは手をつないでいきたい。いろんなことを乗り越えながら一緒に来た相手への敬意と感謝というのでしょうか。夫婦といってももとは他人。放っておけば次第に離れていってしまうかもしれません」
互いの趣味を共有したりドラマを見て感想を言い合ったり。「他愛ない会話こそ、大切な気がします。散歩しながら『金木犀の香りがするね』とか。それと、相手に触れること。日々、当たり前に家族に会えることも、思えば『有難い』ことなのかもしれません。日本にいる両親とも、会うと手を繋いで散歩したり、食卓でそっと触れたりするようになりました。最初は戸惑っていた父もなんとなく嬉しそうですよ」
周囲や家族との関係を結び直し、毎日をあたたかく、一瞬一瞬を輝かせられたら……。
11.いつも持ち歩くコスメ。「黄金まゆの絹粉」を愛用。
(写真は本人提供)