憲法改正国民投票には、ネット広告の規制が必要じゃありませんか?

ネット動画をたくさんの人に見てもらう方法は、大きく分けて次の2つです。
● ネットの口コミで広がる(無料)
● 広告としてお金を払う(有料)
一般的に1億円の広告費をかけると、およそ1000万回以上見られると言われています。
また、広告がきっかけで、ネット口コミが広がることもあります。
通販生活では、「国民投票のテレビCMには資金力による不公平を防ぐルールが必要」と主張してきましたが、今なお規制はありません。
さらにネット広告についても、規制のない「無法地帯」の状態です。
このままでは、公平な憲法改正国民投票はできないと思うのですが…。
取材・構成/西岡千史(フロントラインプレス)

私はこう考える。

枝野幸男さん

枝野幸男さん

弁護士・前衆議院議員

ネット規制の放置は政治の怠慢。
国民投票の偽情報で被害を
受けるのは国民全員です。

2026年7月に成立した改正国民投票法は、投票立会人の要件緩和や、憲法改正案についての広報をFMラジオでも放送できるようにしたものです。改正の内容自体に異論はありません。問題は、本来議論すべき肝心な部分を積み残したことです。

2021年の同法改正時には、テレビやインターネットなどを利用した広告の規制について、施行後3年をメドに法制上の措置を講じるとの付則が明記されました。それが、今回の改正では何の進展もありませんでした。この付則が残されたことは、自民党などの与党もこの法律が不完全であることを認めているのに等しい。このような現状では、憲法改正のための国民投票は実施できないと言わざるをえません。

7月に公職選挙法や関連法が改正され、AIによる偽画像の表示義務やSNS運営会社による悪影響防止措置などが盛り込まれました。国民投票法においてもルール作りは進めるべきと考えます。

ネットを通じた政治広告の影響力が
圧倒的に強くなっている。

憲法改正国民投票の流れと広告規制

憲法改正国民投票の流れと広告規制

現行の国民投票法では、テレビCMについて投票日前2週間は「賛否の勧誘」が禁止されている。15日前までは資金力次第でいくらでも出稿可能である上、それ以降であっても「意見表明」であれば出稿が可能である。
ネット広告にはこのような期間制限すら存在しない。さらに、「広告」と「個人の意見」の区別がつきにくく、世論形成に不透明な影響を与える点も懸念されている。

国民投票法の問題点は、主に2つあります。

1つは、テレビCMについての規制がないことです。国民投票を実施する際には、最長日間という長い運動期間が設けられます。テレビCMの放送は投票日の14日前から禁止されますが、それ以前の期間については特段の定めはありません。政治家や政党に限らず、資金さえあればどの国民もCMを出せる。つまり、資金力のある個人や組織は無制限に広告を打つことが可能です。

07年に国民投票法が成立した際、日本民間放送連盟(民放連)は「業界で自らルールを定めて対応したい」と国会で説明していました。国会としても、表現の自由を守る観点から、業界団体の自主規制が望ましいと考えていたのです。しかし、民放連は18年に「自主規制はしない」という方針を明確にしました。そうなった以上は何らかの法的な制限が必要だろうという意見が出たのですが、具体的な規制方法は先送りされたままです。

もう1つの問題は、インターネット広告です。国民投票法ができた20年ほど前は、まだテレビメディアの影響力が大きい時代でした。しかし今では、SNSの普及やAI技術の発展で、ネットを通じた政治広告の影響力が圧倒的に強くなっています。

日本だけでなく世界の民主主義国はどこでも、ネットを通じた選挙への不当介入をどう防ぐかで頭を悩ませています。

議論が高まった大きな契機は、18年に発覚した「ケンブリッジ・アナリティカ事件」です。英国の政治コンサルティング会社が、SNSの一種、フェイスブックの利用者の個人情報を不正に入手したことから始まりました。そのデータから「不安や怒りを感じやすい人」を割り出し、2016年のアメリカ大統領選や英国のEU離脱を巡る国民投票で、不安や不満を煽る政治広告を集中的に配信して世論を誘導したのです。このように見る人に合わせた広告を表示する手法を「ターゲティング(狙い撃ち)広告」といいますが、AIの進化でさらに発展しており、政治広告における規制は急務となっています。

しかし、ネット特有の規制の難しさもあります。公職選挙法では選挙運動の主体が立候補者や政党に限られていますが、憲法改正の国民投票では主権者である国民全員が当事者です。テレビCMであれば広告主が誰であるかを情報公開させることはできますが、誰でも匿名で政治的な意見を発信できるのがネットの世界です。ここで規制を厳しくしすぎると、表現の自由を侵害する恐れが出てきます。

外国勢力による干渉を防ぐことも容易ではありません。すでに中国や北朝鮮、ロシアなどが外国の選挙や国民投票に介入した疑惑が報じられています。英国には外国勢力による選挙干渉を禁じた法律がありますが、「何をもって干渉とするのか」「現実的に規制が可能なのか」など、課題は山積しています。AIを使って瞬時に何万件という発信ができる今の時代、そのすべてを政府が取り締まることは不可能でしょう。

自民党がもっと積極的に
ネット規制に取り組んでほしい。

デマ情報の規制もまた困難です。国政選挙や地方選挙であれば、悪意あるデマによって被害を受けた候補者がいれば、公選法違反という犯罪が成立します。ところが国民投票の場合、政治的な意見に虚偽の情報が混ざっていたとしても、特定の被害者が存在しないため取り締まりが難しいのです。私は昨年9月、議員調査団の一人としてネット規制の先進国である英国やドイツなどを視察しました。各国で方針の違いはありますが、表現の自由を重んじるドイツでは「被害者のいないデマの規制はできない」と説明を受けました。

これだけのリスクがあるにもかかわらず、国会での議論は入り口にすら立っていません。私は国民投票法に関する規制について、国会内に特別に小委員会を設置し、与野党が協力して専門的かつ継続的に検討すべきだと考えています。

誤った情報が拡散して被害を受けるのは、自民党も同じです。もし、与党が主導して国会で憲法改正を発議した後に国民投票で否決される事態となれば、政治的な打撃は計り知れません。だからこそ、自民党がもっと積極的にこの問題に取り組んでほしいと思います。

国民投票の運動期間に大量の偽情報が流れ、結果が左右されたとしても、投票結果を覆すことはほぼ不可能です。その時に被害を受けるのは国民全員であることを忘れてはいけません。

佐野亜裕美さん

佐野亜裕美さん

ドラマプロデューサー

「見たい世界」しか見えない現状では、
よりよい社会をつくる
国民投票にはなりません。

テレビドラマ『銀河の一票』(フジテレビ系、2026年4〜6月)は、日本でも政治や選挙を通じて夢や希望、理想が実現できるはずだという思いで制作しました。東京都知事選を舞台に展開する物語です。

日本では選挙に関心がない人も多くて投票率も低い。それはよくないと私は思っているので、投票率が少しでも上がるようなドラマにしたいと考えていました。だから、できるだけ右や左の思想の対立にしないよう、どんな考えの人にもはじかれないよう気をつけました。

私には支持する政党や応援している政治家がいますが、ドラマには反映していません。それは放送法にある「不偏不党」や「政治的公平」を意識したからではなく、意見が異なる人、これまで出会ったことのない人たちと「対話すること」の大切さがこのドラマのテーマの1つだったからです。

ネット上には言葉があふれています。SNSでも言葉の応酬はたくさんあるけれど、対話にはなっていません。知りたい情報を得るにはすごく役立ちますが、対話がないのでやっぱり議論にはならない。私自身、脚本の打合せでも、LINEでやりとりをしていると意見がぶつかるんです。言葉が短く、気持ちが伝わらないから。時間をとって電話で話すとすぐに解決することも多くて、話すことが大事だというのは自分たちの経験から改めて学んだことでもあるんです。

ドラマでは、ネガティブな情報の拡散に
SNSを使わなかった。

ドラマの最終回では、「解釈改憲」をテーマの1つとして取り上げました。脚本をつくっているタイミングで、殺傷能力のある国産武器の輸出解禁が閣議決定だけで決められたことに、ほんとうに驚いたんです。脚本家の蛭田直美さんと状況を共有しながら議論を重ねて、ドラマの中に解釈改憲の問題を盛り込みました。

ドラマ『銀河の一票』が描いた理想の選挙戦

有力政治家の娘(黒木華)がスナックのママ(野呂佳代)をスカウトして都知事選に挑む「選挙エンターテインメント」。社会全体に政治への諦めが漂う中、素人陣営が手探りで奮闘する姿が冷めきった有権者の心を動かしていく。大政党のバックアップを受けて出馬した対立候補(松下洸平)もまた、最終話では党の思惑を超え「解釈改憲の違法性」という自らの政治信条に踏み込む演説を披露。双方の熱量がぶつかり合う選挙戦と演説が、深い余韻を残す。関西テレビで26年4月から6月まで放映。

武器輸出のような安全保障に関する政策について、賛成する人、反対する人がいるのは当然です。問題は、時の政権の〝解釈〟によって憲法を実質的に変えてしまうこと。私たちの知らないところで、一部の人たちだけで勝手に決められるのは、どう考えてもおかしいと思うんです。

でも、もし憲法改正の国民投票が行なわれるなら、SNSを規制してからにしてほしい。テレビやラジオは放送法で縛られ、選挙のビラやポスター一枚一枚も公職選挙法の細かなルールで公平を保とうとしているのに、影響力の点で現在最大のメディアとなっているインターネットに、なぜほとんど規制がないのでしょうか。

今や若者だけでなく、高齢者も含めてSNSしか見ない人が増えています。たとえばX(旧・ツイッター)のホーム画面を見ると、それぞれがフォローしている投稿の表示はもちろん、「おすすめ」や「トレンド」に出てくる情報が人によってまったく違います。自分がスマホで見ている情報世界はまったくフラット(中立)ではなくて、「自分のためだけの世界」になっているんです。

私たちが生きている現実社会は、SNSのように「パーソナライズ(一人ひとりの好みに合わせた情報が提供されること)」されていません。知りたくなかったことや耳の痛い情報も含めて「耳に入ってしまう」ことで、私たちは世界や社会と対峙してきたはずです。現在のSNSの状況で憲法改正の国民投票を実施したら、多くの人が「自分の見たい世界」しか見ないまま投票することになり、よりよい社会をつくるための投票にはなりません。

ドラマでも、選挙でSNSをどう使うのかは、すごく難しかった。悩み抜いた末にたどり着いた結論が、「SNSをネガティブな情報の拡散に使わない」ということでした。

現実では、相手候補の評判を落とすためにネガティブな情報をSNSで発信することが多く見られます。でも、それはやらない。ネガティブな情報に対してもポジティブな情報をたくさん発信することで、政治や選挙を明るい話にしたい。理想論といわれるかもしれませんが、フィクションだからこそ、理想を描くことを徹底しました。

ネット広告を使わずに圧勝した
杉並区長選挙に希望を感じた。

インターネット広告についてお金があるほうが有利になることもおかしいと考えています。でも、大きな政党に所属していれば政党交付金などお金が集まるから、自分たちにとって有利な状況を規制するのは難しいんじゃないでしょうか。

ただ、2026年6月の東京都杉並区長選の際には、現職の岸本聡子さんが、「資金力の不平等につながる」としてネット広告を一切使わない活動を展開して、逆にネット広告をバンバン使った対立候補に圧勝しました。あの結果には希望を感じました。

もちろん一地域の話ですが、社会の意思を選挙結果という形で見せたわけで、こういう選挙が国政にも広がっていくことを期待しています。結果がルールを変えていくことはあると考えているので、憲法改正の国民投票が実施されるまでに、SNSとネット広告についてよりよい規制を考えていく必要があると思います。

水谷瑛嗣郎さん

水谷瑛嗣郎さん

慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所准教授

ネットによる世論誘導を防ぐには、
広告の透明性を確保し、
収益構造を変えることが必要です。

選挙や国民投票といった有権者の投票行動に関して、どのような形でインターネット広告を規制すればいいのか。これは日本だけでなく、世界中の国が頭を悩ませながら対策を進めている課題です。

規制が先行しているのはヨーロッパです。EU(欧州連合)には「デジタルサービス法」という法律があります。この法律では、インターネット広告の透明性を確保する各種の義務を巨大プラットフォーム企業(SNSやネット通販などの「場」を運営する会社)に課しています。違反した場合には、全世界の売上高の最大6%という多額の制裁金を支払わなければなりません。

日本にも、「情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)」がありますが、EUのような仕組みにはなっていません。

しかし、国民投票という重大な意思決定の公正性を確保するには、「広告の透明性」の確保が必要です。どのような意見広告が、どれくらい出稿され、誰がその資金を提供したのかを追跡できるようにするのです。

これには、主に2つのアプローチがあります。1つは、広告を表示する際に、広告主の情報をユーザーに明示させること。2つ目は、出稿された広告の記録をデータベースに残し、公開すること。問題のある広告が見つかった際に、メディアや市民がすぐ事実関係を検証し、不正を暴けるようにするのです。「日光は最良の消毒剤」という言葉があるように、追跡可能にしておくことは不正の抑止につながります。

海外のSNSでは政治広告の
情報が公開されている

殺傷能力のある武器の輸出解禁についてのアンケート結果

上の画像はイギリスの SNS 運営会社の広告データベースに格納された政治広告。以下の情報を見ることができる。
❶出稿者(労働党)
❷出資者(労働党)
❸配信開始日(26年8月10日
❹出稿された SNS(フェイスブック、インスタグラム)
❺配信されたおよその人数(100万人)
❻支出額(1500~2000ポンド)
❼ユーザーの画面に表示された回数(20~25万回)
出典:Meta 広告ライブラリ  
https://www.facebook.com/ads/library/

広告枠が増えていくと、
虚偽の情報や詐欺的な広告も増えていく。

現在のインターネット空間では、私たちの「アテンション(注目)」の苛烈な奪い合いが生じています。インスタグラムやティックトック、ユーチューブなどを舞台にした動画広告も、表示回数やクリック数が増えるほど、運営会社の広告収入が増えます。この仕組みが、偽情報や過激な意見など、感情を刺激し、注目を引きやすい情報の発信・拡散を後押ししています。こうした仕組みそのものの改革も必要です。

インターネット広告の良いところは、誰でも手軽に広告を出せることです。テレビCMなどと比べて、はるかに参入障壁が低い。一方で、テレビやラジオであればCMの放送時間に上限がありますが、インターネットでは広告枠を大量に作り出せます。結果として、枠の単価が安くなることで、偽情報や詐欺のような犯罪などに不正利用されやすくなっています。

さらに、広告効果を最大化する「アルゴリズム(利用者の属性や興味のあり方を自動分析する仕組み)」を用いて、関心がありそうな人に的を絞って広告を流すことができます。この仕組みによって広告主ははるかに効率的に広告を出せるようになりました。しかしそれは同時に、相応の資金を投じれば、広告に含まれる意見が「刺さりそうな」相手にピンポイントで送り届けることが可能であることを意味します。

憲法改正の国民投票という国家的な大イベントになれば、悪意を持った集団がこうした仕組みを悪用し、世論誘導を狙った意見広告を大量に投下する危険性があります。

そもそも人間の「注目」という資源は有限で、処理できる情報量には限界があります。偽情報や問題のある広告が大量に流れれば、信頼性の高い情報を探すこと自体の障害になります。生成AIでコンテンツ制作のハードルが下がっていることで、この危険性はさらに高まるかもしれません。

そして、残念ながら現在の情プラ法では、国民投票運動の期間中に憲法改正に関する問題のある投稿・広告が大量に投下されたとしても、SNSなどの運営会社に直接的な削除義務を負わせることはできません。

情プラ法で運営会社に課せられているのは、権利侵害の疑いがある情報に対して被害者らが削除の申し出をした場合に、権利侵害の有無を調査・判断し、原則7日以内にその結果を通知するだけで、いわば「申し出をほったらかしにしない」という義務なのです。今年7月の改正で、運営会社に選挙時などの偽情報対策に取り組むことも義務付けられましたが、罰則はなく、運営会社がどこまで対応するのかは未知数です。

では、法律によって規制をもっと厳しくすればいいかというと、それも簡単な話ではありません。法規制を強め過ぎれば、「過剰な表現規制」に陥る危険があります。2024年の兵庫県知事選では、ある候補者の後援会のSNSアカウントが凍結される事態が起きました。不特定多数の人々が嫌がらせで運営会社に大量の通報を行なったことが影響したのではないかと指摘されています。運営会社へ規制を厳しくすれば、このような「エラー」が引き起こされやすくなる危険性があります。

量から質へ、
インターネット収益構造の根本改革。

憲法改正の国民投票でこうした事態が起きないようにするには、インターネットのエコシステム(収益構造)そのものに変化をもたらすような取り組みが必要でしょう。

一つの制度案として、国がネットの運営会社に対して「適正な広告配信量」の上限を定め、それを超過した分に対して課税する『デジタル広告課税』のような仕組みを導入してはどうでしょうか。運営会社は、定められた枠の中で広告の質と効果を高める方向へシフトするはずです。こうした制度設計ができれば、詐欺などの粗悪な広告は自然と排除されます。国民投票だけでなく、長期的に見れば、良質なSNSの運営にも利点があります。

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