通販生活の疑問 そういえば、憲法改正国民投票のテレビCM規制問題はどうなったのだろう。

憲法を改正すべきかどうかは国民投票で決まります。投票日の15日前まで、改憲の是非を訴えるテレビCMを流せますが、今の法律ではお金のある側がテレビCMを流し放題。上の動画のように、とてつもなく不公平です。最近、テレビCM問題が報道されることは皆無ですが、どうなったのでしょうか。この問題に詳しい南部義典さん(国民投票総研代表)に伺いました。


南部義典さんプロフィール

南部義典さん

なんぶ・よしのり●1971年、岐阜県生まれ。衆議院議員政策担当秘書、慶應義塾大学大学院法学研究科講師(非常勤)などを経て、現在「国民投票総研」代表。専門は国民投票法制、国会法制など。著書に『改訂新版 超早わかり国民投票法入門』『教えて南部先生!18歳成人Q&A』(以上、C&R研究所)などがある。

『改訂新版 超早わかり国民投票法入門』
(C&R研究所)
税込2,013円

Q1Q2Q3

Q1

テレビCM規制の議論は
国会で進んでいるのですか?

A1

「まったく進んでいないと
言っていいでしょう」

 結論から言えば、まったく進んでいないと言っていいでしょう。
 国民投票法第105条では、投票日の14日前から改憲の是非を訴えるテレビCMを全面禁止していますが、これは逆に言えば投票日の15日前以前は、何の規制もないということ。つまり、資金さえあれば投票15日前までに大量のテレビCMを流し続けられることになります。それではとても公平、公正とはいえず、お金のない側にとって非常に不利な結果になることは間違いありません。通販生活が作成した動画「9条球場」は決して大げさな表現ではないのです。
 2007年に国民投票法が制定されてから16年経ちますが、この間テレビCM規制について何の進展もなかったわけではありません。2019年3月には日本民間放送連盟(民放連)が、「国民投票運動CMなどの取り扱いに関する考査ガイドライン」を発表しました。このガイドラインでは、国民投票法が規制する「(改正の是非を呼びかける)国民投票運動CM」だけでなく、投票を呼びかけずに自身の意見を表明する「意見表明CM」についても、14日前からは自主規制するという方針が示されています。しかしそれ以前については、やはり何の規制もないままで、根本的な問題解決にはなっていません。

2019年5月9日、衆院憲法審査会に出席した民放連の永原伸専務理事(写真左。写真提供/共同通信社)。

法律に明記された2024年9月までの「解決」。

 これまでに国民投票法は2度改正されていて、2021年9月18日に施行された改正法には「この法律の施行後3年を目途に、次に掲げる事項について検討を加え、必要な法制上の措置その他の措置を講ずるものとする」という文言が附則第4条として書き込まれました。そして、この「次に掲げる事項」の中に、テレビCMなどの「広告放送」についての項目も含まれているのです。
「附則」とは法律の一部であり、当然ながら国会や内閣はそれに従う義務があります。そこに「3年を目途に」必要な措置を講ずる、と書かれているのですから、本来であれば衆参両院の憲法審査会などで議論が行われ、3年後──2024年9月18日までに法改正などの措置が取られなくてはならないのです。しかし、その「3年」の半分以上を過ぎた現在に至るまで、テレビCMをめぐるまともな議論は国会でほとんど行われていません。
 自民党は、附則に書かれている内容はあくまで「検討した結果、必要であれば措置を講ずる」ということであって、今のままの法律でも改憲発議ができないわけではないと主張しています。2021年の法改正当時、党の幹事長を務めていた二階俊博議員などもそうした内容の発言をしていました。
 このままでは、「資金力のある側が圧倒的に有利」というテレビCMの問題がまったく解決されないまま、改憲案が発議され、「9条球場」のような状態のまま国民投票が行われる可能性もあります。

Q2

テレビCM問題以外にも
未解決の課題はあるのですか?

A2

「ネット広告規制や
運動資金規制など問題山積です」

 Q1で触れた改正国民投票法の附則第4条には、検討を加えるべき事項として「インターネット等を利用する方法による有料広告の制限」も挙げられています。
 実は、インターネット上に表示される広告(ネット広告)についての規制は、国民投票法には一切設けられていません。法が制定された2007年当時はまだスマートフォンもYouTubeも普及していないころで、ネット広告規制の必要性が認識されていませんでした。しかし現在では、多くの人がスマホを所有し、広告規模もネットがテレビをはるかに上回っています。
 規制がないのですから、現状では国民投票に関するネット広告は「流し放題」ということになり、テレビCMと同様、資金力のある側が圧倒的に有利になります。

フェイクニュースがネット上で拡散される危険性も。

 さらに、インターネットという媒体の特質上、ネット広告にはテレビCMにはない問題点がいくつもあります。まず、テレビCMは「この番組を見よう」とチャンネルを合わせたときだけ、それも番組本編の間の決まったタイミングにだけ目に入ります。ところがネット広告は、インターネットを眺めていればいつでも目に飛び込んでくる。興味のある動画を見ようとしたら、勝手に広告が再生されて、どこを押せば閉じられるのかすぐには分からない……なんてこともよくありますよね。
 しかも、不特定多数をターゲットにしたテレビCMとは違い、ネット広告なら、ふだん検索しているキーワードなどを元に、個人の年齢や居住地、関心事項などを特定したうえで広告を表示させることができます。たとえば、政治に関心のある人をターゲットに、国民投票CMをどんどん流すこともできてしまうわけです。テレビ局の審査を経ているテレビCMとは違って、どこの誰が出している広告なのかさえよく分からないことがあるのも怖いところです。
 さらには、今はAI(人工知能)がフェイクニュースをつくり出してしまう時代です。発議された改憲案の内容などがねじ曲げられたり、一部だけを切り取ったりして拡散される危険性もあります。ネットについては、テレビに対する放送法のような管轄の法律がなく、民放連のような力のある業界団体も存在しないので非常に規制が難しいのが現実です。

ネット上では、出所の分からない情報が拡散されやすい(写真はイメージ)。

アメリカや中国が日本の国民投票に介入することも可能。

 さらに言えば、国民投票法に「国民投票運動の資金」についての規定がまったくないのも問題です。
 通常の選挙なら、候補者が使える資金の上限は決まっていますし、当落を問わず選挙が終わったら、一定期間内に選挙管理委員会に収支報告を出すことが義務づけられています。ところが国民投票については、賛否を訴える国民投票運動をする個人や団体が使える資金に上限はなく、資金の出所や使い道について、一切報告義務はないのです。
 ということは、どこから資金提供を受けていても、どんな資金の使い方をしても、有権者がそれを確認する方法はありません。たとえば九条改正を進めたいアメリカが、あるいは押しとどめたい中国が、政府レベルで多額の資金を投入し、膨大なテレビCMやネット広告を流して世論を形成する……なんていうこともできてしまうのです。
 こうしたことを防ぐためには、海外の法制度に見られるように、国民投票運動に投入する資金に上限を設け、使い道などの報告を義務づける必要があります。たとえばイギリスが2016年に実施したEU離脱の是非を問う国民投票では、国民投票運動のために日本円で約140万円(当時のレート)を超える資金を投入した個人・団体には、収支報告が義務づけられました。そして、投入できる資金に上限が設けられていました。日本も、同様の制度を設けるべきです。

Q3

問題山積なのに、なぜ
国会では議論が進まないのですか?

A3

「自民党は本気で改憲する意欲がなく、
立憲民主党は憲法の議論を止める
口実ばかり探しているからです」

 自民党はQ1のところで触れたように、テレビCM問題をはじめ国民投票法は現状のままでよい、それでも改憲発議も問題なくできるという立場です。国民投票法改正の議論に深入りすると、改憲の中身についての議論が遅れてしまうという考えもあるのでしょう。
 また、それが良いか悪いかは別にして、改憲に意欲的な姿勢を示していた安倍政権と違って、その後の菅政権、そして現在の岸田政権は、改憲そのものにそれほど意欲的には見えません。その意味でも、国民投票法についての議論を進める気はないのだと思います。
 一方の野党ですが、立憲民主党はすでに国民投票法の改正案を作成しており、その中ではテレビCMについて「全面禁止」の方向性を示しています。しかし、現在のところ、この法案が国会に提出される見込みは立っていません。提出することが「憲法審査会を開いて審議を進めよう」というメッセージとして受け止められ、憲法論議そのものを嫌う一部の支持層が離れていくことを警戒しているのだと思います。いわば、「アクセルとブレーキを同時に踏んでいる」ために、なかなか前に進まない状況だと言えるでしょう。

憲法審査会での議論をめぐって、立憲民主党の小西洋之氏は「審査会の毎週開催はサルがやることで、蛮族の行為だ」と述べ、物議を醸した(写真提供/共同通信社)。

どんな投票結果でも、国民の多くが納得できない事態に。

 仮に、このまま改正国民投票法の「施行後3年」の24年9月18日までに何の措置も取られなければ、自民党は再度国民投票法を改正して、自分たちにとって邪魔な「附則第4条」を削除しようとするかもしれません。そして、先に述べたように、テレビCMの問題が解決しないままでも、国民投票に向けた改憲案発議が「できない」というわけではありません。しかし、問題未解決のまま国民投票を実施すれば、どんな結果になったとしても国民の多くの納得を得られません。附則第4条は、国会が国会に自分で課した「宿題」であり、国会の責任において、正面からしっかりと取り組むべき問題です。
 国民投票をめぐる現状は、どういうリングの上で闘うか、ルールがちゃんと決まっていないのに、赤コーナーと青コーナーのどちらの選手が勝つかという話ばかりがされているような状況です。「9条球場」のような事態を防ぐためにも、主権者である私たち国民は今こそ、「ちゃんとリングを整えろ!」と声をあげるべきではないでしょうか。

取材・構成/仲藤里美