
読者の「老い体験」を笑いに昇華させる「老いるショック大賞」。認定するのは委員長のみうらじゅんさんと特別認定委員の安齋肇さん。『月刊益軒さん』2022年4月号以降に掲載された224本の中から、爆笑の10本を選んでいただきました。
みうらじゅんさん

1958年、京都府生まれ。武蔵野美術大学在学中に漫画家デビュー。その後、イラストレーター、エッセイスト、ミュージシャンなど幅広く活躍中。「マイブーム」「ゆるキャラ」の名付け親。著書に『「ない仕事」の作り方』(文藝春秋)など。
安齋 肇さん

あんざい・はじめ/1953年、東京都生まれ。イラストレーター、元ソラミミスト。2016年にはみうらじゅんさん原作による映画「変態だ」で監督を担当、韓国・富川国際ファンタスティック映画祭で特別表彰された。
目次
『毎月欠かさない主人の月命日の墓参り。たまたま一緒に行った娘に指摘され、隣の墓の掃除をしていたことに気付く』
渡辺ツギ子・80歳

- みうら
- お墓は基本的にどこの家のも似てるから、間違うことはあります。ただ、毎月ちゃんとお墓参りに行ってるのに間違っていたという、その「熱心さ」が素晴らしいと思います。いっそもう、積極的にお隣も掃除してみたらどうでしょう?
- 安齋
- どこの家のお墓も、きれいなのはいいことですから。
『家電売り場で店員さんと話が盛り上がった夫。 「クニはどこ?」と聞いて「え、日本です(怪訝顔)」と答えられていた。分かんないよねえ、若い人に「クニ=故郷」なんて』
ヘナ・64歳

- みうら
- 昭和の時代には確かに、ふるさとのことを「クニ」と言う人、いましたね。もしかしたら、日本が鎖国していたときから残っている風習かもしれません。
- 安齋
- たしかに「鎖国感」のある言い回しです。そのころはまさか、こんなグローバルでインターナショナルな世の中になるとは思ってなかったのかも。
『最近は手も握らなくなった夫婦だが、仲良く行動することといえば、お互いの背中に湿布を貼ること』
しずママ・71歳

- みうら
- いい光景が思い浮かびます。添えられたイラストがまたいいんです。投稿者だけじゃなく、これを描いて頂いたイラストレーターさんにも「老いるショック大賞」を差し上げたいくらいです。
- 安齋
- 僕もこのイラストレーターさんの絵はすごく好きなんですが、特にこれはいいですね。
『LINEを送った後ビックリ。「いつもありがとう!」と送ったつもりが「いつも月夜に米の飯!」という言葉に。変換間違いが頻繁になってきた』
みぃちゃん・72歳
- 安齋
- ここまですごい変換間違いは、なかなかないのでは?と思うんですが、すごくいいメッセージになっています。十五夜みたいだなと思いました。
- みうら
- ここまできれいに誤変換された例はないでしょうね。もしかしたら、神様から来たメールかもしれません。
『タイマーがなぜ鳴っているのか思い出せない』
わたしは誰?・52歳
- 安齋
- 「思い出せない」シリーズですね。僕は最近、お湯を沸かそうとやかんを火にかけていて忘れたことが……。そろそろIHヒーターにしたほうがいいかもしれません。
- みうら
- 「わたしは誰?」と、ならないうちにね。
『夫の寝息が長いこと聞こえてこないので近寄ってみるとまだ生きていた。今日は夫がこちらの顔をのぞきにやってきた。たぶん同じことを考えている』
タバちゃん・66歳

- 安齋
- お互いに確認し合うのは大切ですね。若いときは「いびきがうるさい」とかのほうが多かったでしょうけど、老いるショックが進んでくると「確認」が必要になる。多分、無呼吸症候群が気になったあたりから「確認」が出てくるんでしょう。
- みうら
- 「生きてるかな?」って心配になるんですね。イラストの見守る熊もいい。
『俳句コンクールにうっかり昨年と同じ句を投句したと気づき慌てていたら、事務局から「3年続けて同じ俳句を出されていますが?」と問い合わせがきた』
荏苒法師・62歳

- 安齋
- しかも、こういう問い合わせが来るということは、多分毎回落選してるんじゃないでしょうか。コンクール落選も3年連続……。
- みうら
- それをわざわざ問い合わせてくれるコンクール事務局も丁寧で、信頼できます。
『コミュニティバスに乗ってきたおばあさん。運転手に「このバスは極楽へ行きますか?」と聞くとあっさり「行きませんよ」。極楽湯というスーパー銭湯のことだと後から分かった』
メーコちゃん・70歳
- 安齋
- ずっと「地獄には行かないで済むようにしたい」と思って生きてきたんですが、これを読んで「極楽へ行けるかもしれない」という夢を感じました。もういっそ、スーパー銭湯だと知らなかったほうがよかったかもしれません。
- みうら
- でもそれじゃ、投稿されたメーコさんが不安になるんじゃない?
『自転車にぶつけられ転倒、周りの人が携帯電話で救急車を呼んでくれる。「年代ですか?40代くらいです」と伝える声が聞こえ、痛いが口元は微笑んでいた』
ユヅマユ・66歳
- 安齋
- 「この後」のことを考えると、すごいドラマを感じます。救急車が来た、痛いのに思わず若いふりをしてしまう、でももちろん救急隊員には60代だとわかってしまって……と想像すると、結局はつかの間の喜びだったんだなということに。お大事に、としか言えません。
- みうら
- そうですね。すべてのことは生きてこそですから。
『娘が俺の前で着替えるようになった』
内橋弘文・64歳

- みうら
- 父親はもう「男」ではなく、石像くらいの扱いになっちゃったんですね。とても哀愁を感じます。このタイトルで本を書けば、絶対に売れると思いますよ(笑)。
- 安齋
- 共感を呼ぶタイトルですね。映画化を希望します!
「老いるショック!」とやれば、
老いがおかしくなってくる。
- 安齋
- 過去の「老いるショック大賞」を読みました。なんだか「ショック」というより楽しんでいる人が多いなと思いました。
- みうら
- それがこの連載の主旨でもありますから(笑)。 膝や腰が痛いとすぐ「老いたなあ」と嘆きがちだけど、その痛いとこを指さして「老いるショッ~ク!」とやる。クイズ『タイムショック』風にね。そうすると、まず、やってる自分がおかしくなって笑えてくるんじゃないかと。
- 安齋
- 他人から見てもおかしいよ(笑)。
- みうら
- しかも年を取ると、そこに「病気自慢」も加わるでしょ? そういうのをやめて全部「老いるショック!」で済ませたらいいんじゃないかなと思ってさ。
- 安齋
- 読みながら、共感する老いるショックもたくさんあったね。
- みうら
- でしょ(笑)。だって、みなさんの投稿ネタは、実際に「老いるショック」を体験したからこそ出る味だから。今回の傑作選では、後世まで語り継がれるようなネタを選びたいと思います。

白熱した審査会の様子。
- 安齋
- 僕の「老いる」の話をすると、最近は「忘れる前にそもそも覚えてない」ことがよくある。若いときは、嫌なことを忘れるためにお酒を飲んでたけど、その必要がなくなってきた。
- みうら
- いい老いるショックです。「健忘症」というけど、そもそも「症」って何なんだろうね。「やまいだれ」の中は「正」だから、“年相応で正しい”ことだったりして。
- 安齋
- たしかに、病院に行ってもお医者さんに「年だから仕方ないです」って言われる。
- みうら
- まるで自分も同じことを経験したようにね。歯医者さんも歯を削る前に「ちょっと痛みます」と言うでしょ?
- 安齋
- 歯医者といえば、よく「痛かったら左手をあげてください」って言われるけど、最近は左右どっちの手をあげたらいいのかとっさに分からなくて。右だと女医さんのおっぱい触っちゃいそうだし、左だとうがいコップにぶつかるし……とかいろいろ考えちゃう。
- みうら
- ほんとはボケたふりして右手をあげてんじゃないの?
- 安齋
- だからあげてないって。
- みうら
- そんな人はすべての免許を返上してくださいよ(笑)。
- 安齋
- そう。取るより先に返上しなきゃ。
- みうら
- そもそも免許って何か持ってるんですか?
- 安齋
- みうらくんと一緒に草津温泉に行ったときにもらった「湯もみ免許」くらいかな。
- みうら
- あれは誰でももらえるやつでしょ!
- 安齋
- でも、「免許」とか「認定」って何でも嬉しいよね。
「キレる高齢者」には、みんなで
よってたかって褒め称えよう。

- みうら
- 年を取ると誰かに褒めてもらったり、認めてもらうことがうんと減るから。突然街中でキレて怒り出す人も、周囲からとんと褒めてもらってないんじゃないのかな。よってたかってみんなで褒めちぎれば少しは落ち着いたりしないかな。
- 安齋
- 大声出してる人がいたら、「うわー、すごい声出ますね~、顔も真っ赤で血流ばっちりですね~」とか?
- みうら
- そうそう(笑)。ちなみに、そんなふうに怒り出したりしない「理想の老人像」ってあるでしょ。昔話でいうと「こぶとりじいさん」とか。でも、よくよく考えたら「じいさん」とは思えないんだよね。
- 安齋
- そうなの!?
- みうら
- だって「こぶとりじいさん」には、鬼の宴会で「鬼の前で朝まで踊りました」って書かれているんです。オールナイトダンシングは流石にじいさんには無理でしょ。花咲かじいさんだってはしごでスタスタ桜の木に登るし、ポチの「ここほれワンワン」にもついて行ける。そんなの、40代がギリじゃない?
- 安齋
- そうか、昔は40代でも「おじいさん」だったんだ……。
- みうら
- そういえば、安齋さんはもう古希(数えで70歳)超えてるじゃないですか。
- 安齋
- そう、コキコキ。
- みうら
- そんなコキコキ安齋さん、ちょっと前に階段から落ちて骨折ったって聞いたけど、どうしたの?
- 安齋
- 駅の階段を下りる途中でちょっと休憩したくなって、手すりにもたれて目を閉じてたんだよね。
- みうら
- いや、待って。それ、危なすぎるから!
- 安齋
- そしたら、お酒が入ってたこともあって一瞬寝ちゃって。気がついたら、顔から床に叩きつけられてました。まあ、落ちたのは2~3段くらいだったんだけど。
- みうら
- 残りがそのくらいだったら、フツーは最後まで下りきるでしょ。
- 安齋
- そのときはなんとか起きて帰ったんだけど、後から痛くて動けなくなって。病院に行ったら肋骨が6ヵ所折れてた。「年で折れやすくなってるから気を付けて」と言われたけど、どう気を付けたらいいんだろう。
- みうら
- そんなこと聞かれても……。ただ、年を取るとやっぱりつまずくことは増えるよね。頭でイメージしてる高さと、実際に上がってる足の高さが違うんでしょ。まさに「段差ー・イン・ザ・ダーク」ってやつでさ(笑)。

- 安齋
- こないだも京都の町を歩いてたとき、靴ひもがほどけたから結ぼうと思って、ビルの陰に入ったの。
- みうら
- いやいや安齋さん、この場でいくら自分のネタ出しても「老いるショック」大賞はあげないからね(笑)。
- 安齋
- そうなの? それで、かがもうとしたら足が絡まって、後ろにゴローンとお尻をついちゃった。もう全然起き上がれなくて、結局、横に転がって荷物も放り出して、四つん這いになってからやっと立ち上がれた。
- みうら
- それって、グラビアアイドルがやる「女豹(めひょう)のポーズ」じゃん。
- 安齋
- そのセクシーポーズを、通りがかりの外国人がじっと見てた。助けるべきか迷ったんだろうね。
- みうら
- その話、まだ続くの? 何でも「短くまとめる」癖がある僕とは逆に、安齋さんはいつも話が遠回りしてなかなか結論に行き着かないんですけど。それも「老いるショック」のひとつかもしれない。
面白勝負の「老いるショック」は
実は平和運動でもあったんだ。
- みうら
- 投稿作の中には、ちょっと大げさに「盛ってる」方もおられるのでしょうが、それはそれでいいと思うんです。マイナスイメージの「老い」をプラスに変えてらっしゃるわけですから。
- 安齋
- それが「老いるショック」の特権だもんね。深夜のラジオ番組にいろんなネタを投稿する「ハガキ職人」がいるみたいに、このコーナーにどんどん老いるネタを投稿する「老いる職人」がいても面白い。
- みうら
- やっぱ、何だって面白勝負のほうがいいじゃないですか。そういう世界になっていけば、本当に平和ですからね。
- 安齋
- そうか、「老いるショック」は実は、平和運動でもあったんだ。
『月刊益軒さん』とは…

テーマは“「食」と「笑い」で養生する”。通販生活の食品を継続コースで購入している方へ毎月無料でお届けしているミニマガジンです。脳ドリル、料理レシピ、介護インタビュー、漫画など、暮しに笑いと元気をお届けします。
「老いるショック」大募集
「歳をとったなぁ」「時代が変わったなぁ」と感じた出来事を教えてください。みうら委員長が、独断と偏見で「老いるショック」を認定します。どしどしご応募ください!