みうらじゅんと安齋肇が選ぶ「老いるショック大賞」傑作選

読者の「老い体験」を笑いに昇華させる「老いるショック大賞」。認定するのは委員長のみうらじゅんさんと特別認定委員の安齋肇さん。 『月刊益軒さん』2024年1月号から26年2月号に掲載された309本の中から、たっぷり16本を選んでいただきました。

目次

ふたりがともに推した傑作3選


『スケジュール帳に
10時40分とだけ書かれていて、
なんの予定だったかさっぱり思い出せない。
その日が近づいてきてドキドキしている』
猫背・52歳

みうら
ふたりがともに選んだ作品は❶~❸の3本でした。意外にかぶらなかったねぇ。まず、1本目は猫背さん。
安齋
「40分」という時間を書いておく几帳面さと、肝心な内容を書いていない大雑把加減のギャップがいい。僕もアドレス帳に電話番号を追加するとき、本名でなく勝手にニックネームにしちゃう。「猫 〇×〇△‐〇×〇△」とか…。
みうら
それ、さらにわからなくなんないの?
安齋
電話がかかってくるとドキッとします。誰だったかなって。
みうら
でしょ? 昭和に流行った歌で、「私の電話番号が男名前で書いてある」というような歌詞がありましたけど、それの類いですか?(笑) それはさておき猫背さんの話は、そういうことではなさそうですよ。
安齋
いや、この人もきっと10時40分に何かがあったんですよ。
みうら
でしょ? ナマハゲが家にやって来る時間だったんですかね。わかったときは編集部に連絡してほしいです。

昭和の人って、なんでお菓子の粉
浴びてまで食べるんでしょう。


『お菓子のかけら
袋の底にたくさん残っていたので
天井を向き口の中に流し込もうとしたら、
あご先をかすめ足元に散らばってしまいました。
掃除が大変で悲しい』
(こりない)どじ子・75歳

みうら
2本目はどじ子さん。僕もやったことがあります。昭和の人って、なんでお菓子の粉を袋から浴びてまで食べようとするんですかねぇ(笑)。
安齋
粉は塩分が多いし、身体に悪い。
みうら
ですよね。「お菓子をあまり食べたらダメ」と親に止められた子ども時代の影響でしょうか?
安齋
「ご飯は最後の一粒まで食べなさい」みたいな。
みうら
たぶんどじ子さんは、老いるショックで口と袋の距離感を間違えているんですよ。
安齋
粉がスキーのジャンプ台みたいに飛び出してくるから結構難しい。どこかの科学者に、粉を正しく口に入れるための袋の開け方、傾ける角度、口で受ける位置を研究してほしい。

クラス会で同級生から
「安齋、お前いくつになった?」って。


『15年ぶりの中学校クラス会、
元親友から「お前いくつになった?」
と聞かれる。
確か君と同じだと思うが』
水戸黄門・85歳

みうら
次は水戸黄門さん。「そんなもん、君と同じじゃないか」とは言わない。この優しさがいいですよね。
安齋
僕、これと全く同じ体験がありました。クラス会で酔っ払った同級生から「安齋、お前いくつになった?」と聞かれた。
みうら
ひょっとして、その方の投稿かも(笑)。
安齋
そうだね、イワタかもしれない!
画像:安齋 肇さん
「僕も同じ体験がありました」と特別認定委員の安齋肇さん

調子が悪いから病院へ行けない⁉

『病院の待合室でおばちゃんたちの
会話を聞いて驚いた。
「今日は〇〇さん来てないね」
「ああ、具合が悪いらしいよ」
え? 具合が悪いから病院って来るんじゃないの?』
ねこさん・63歳

みうら
ここからは、それぞれが選んだ作品を合わせて見ていきます。まずはねこさん、みんなが共感する病院ネタ。
安齋
これ実話だよ。この間「今日、予約しているんですけど、調子が悪いので行けなくなりました」って、本当に病院に電話をかけました。
みうら
この投稿、安齋さんじゃないの?(笑)。

『行きつけの整形外科が
情報保護とやらで呼び出しを
名前から番号に変えたが、
気付かずけっきょく名前で呼ばれる人
続出。
あらあらと思っていたら自分も名前で
呼ばれていた』
人ごとではない・69歳

みうら
次は、人ごとではないさん。僕も先日、病院で受付番号の紙を渡されましたが、他人に番号を見られたら個人情報が漏れそうで怖いんですよね。
安齋
わかる。僕はカバンの中にしまって、時々ちらっとだけ見るようにしています。
みうら
結局は名前で呼ばれるのが一番わかりやすいけど、僕は本名で活動しているからフルネームで呼ばれるとちょっと恥ずかしい。ある雑誌のエッセイに「事務所名をMJJ(みうらじゅん事務所)にしておいたらよかった」なんて書いたら、ある銀行の窓口で「MJJ様~」と呼んでいただいたことがあってさ(笑)。
安齋
その雑誌を読んでいた可能性あるね。
みうら
粋な気遣いでしたが、それはそれで驚きました。

歳を取ったら、「ファンタジー」
ならぬ「ファンタ爺」

画像:みうらじゅんさん
老いるショック認定委員長のみうらさんも数々の老いるショック体験が…

『川岸でプードルを連れて
散歩してるおじさんを発見。
近づいたら手にしていたのは
シュロの箒だった』
千笑・68歳

みうら
次はガラリと雰囲気を変えて、ロマンを感じる千笑さんの作品です。
安齋
詩的だし、映像が浮かびます。
みうら
うちの向かいのマンションの屋上にも、洗濯物を干しているといつも顔を出してくる猫がいてね。手を振ったりしていたんだけど、白内障の手術をしてはっきりと物が見えるようになったら、猫じゃなくて箒が立ててあっただけとわかったんです。でもなんだかファンタジーが消えたような気がしてちょっと寂しかった。この人も、近づかないほうがファンタジーのままで良かったかもね。

『鉢植えの枯れ葉を
拾おうとしたらなめくじだった。
水道メーターのボックスの泥を
はらおうとしたらガマガエルだった。
そのうち蛇を見間違えそうで怖い』
啓蟄に三すくみ・68歳

みうら
啓蟄に三すくみさんは、泥がガマガエルに…。よりによってガマガエルってところがいいと思いました。
安齋
本当に泥みたいな色をしている。この方は、白雪姫みたいに森中の生き物が寄ってくる人なのかもしれない。
みうら
これもファンタジーだよね。男性なら「ファンタ爺」ってことになります(笑)。若い頃は、ファンタジーが嫌いだったけど、歳を取るとなぜかフィットしてくるっていうね。
安齋
確かに。ファンシーよりはファンタジーになってきます。

僕も同じ間違いをやりました。
ある歌手のコンサートで…。

『有名なヴァイオリニストのコンサートで
やっと手に入れた入場券2枚、
妻とワクワク出かけたが、
会場にそんな雰囲気が全くない。
入場券をよくよく見れば
一週間前に開催済みだった』
テラチャン・84歳

みうら
安齋さんも飲み屋で話すことは、だいたいファンタ爺話ですけどね(笑)。このテラチャンさんの時間間違いネタ、実は僕もやりました。昔、ある歌手の方のコンサートにご招待いただいて、開演前に花束を持って楽屋へ伺ったんです。
安齋
そりゃ、ご挨拶しなくちゃねぇ。
みうら
ご本人がいなかったんで、「帰りに渡そう」と花束を抱えたまま後ろの方の席でコンサートを見ていたんですけど、でも声とか歌い方とか、なんか感じが違う。知っているヒット曲とか歌わないし。“なんか感じが違うなぁ”って。その頃、白内障だしよく見えなかったんですよ。で、よくよく招待券を見たらね、日にちが違ってて…全く知らない人のコンサートだった。
安齋
花持ってたから入場できちゃったんだ。
みうら
思い込みってスゴイでしょ(笑)。テラチャンさんもすごい楽しみにしていただろうにね。次は、カールおじさん。

『帰省前、空き巣用心で通帳を隠した。
忘れて大捜索、部屋がぐちゃぐちゃ。
「これじゃ自分がドロボーだ」と
がっかり。その後机の引き出しからあっさり出てくる。
隠し場所の普通さにもがっかり』
カールおじさん・53歳

安齋
気持ちはわかる。僕もこの間現金を隠したんだよ。知恵を絞って、空き巣も簡単に見つけられないような場所にね。でも、どこに隠したかわからなくなって、いまだ見つからない。
みうら
その現金はおろしたんですか?
安齋
自分で銀行からおろしたから、なおさら隠したかったわけです。
みうら
ひょっとして安齋さんはおろしてないんじゃないですか? おろしたと思い込んでいるだけで。
安齋
アハハハ、確かに、そうかもしれない(笑)。家に帰ったらちょっと通帳を見てみるわ…。
みうら
銀行の近くまで行ったけど、何しに来たのかわからなくなったとか?(笑)

ポケットに歯ブラシで、好感度アップ⁉

『家に帰りワイシャツをハンガーに
かけたそのとき、わが目を疑った。
ポケットから歯ブラシが顔を出している!
昼休みに使った後は
ずっとこのファッション。
喫茶店にも行ってしまった』
まころんだ・65歳

みうら
次はまころんださん。
安齋
周りの人には「このおじさん、お昼ご飯を食べた後にちゃんと歯を磨いているんだ」って思われて、すごく好感度が上がります。
みうら
ですよね。それ、「ちゃんと歯を磨いています」という証明だもの。でも、歯ブラシはきれいに洗ってから差したほうがいいね。
安齋
意外に青のりとか付いているからね。
みうら
歯磨き関連でもう1本。切手貼ったの世界さん。

『財布にたまったレシートの整理。
「やわらか股間ブラシ」というのを
見つけて焦る。正解は歯間ブラシ。
文字が何もかも小さすぎる!』
切手貼ったの世界・65歳

安齋
股間を常に意識している人の話です。絶対にどこかで言ってると思う。「股間ブラシ買ってきて」とか。
みうら
僕もデパートの物産展で温泉の入浴剤を買ったことあるんですが、そのとき、領収書をお願いしたら店員さんが手書きのものを持ってきてくれて、帰って見たら入浴剤が「入欲剤」になってました。
安齋
その店員さんも「入欲」と思い込んでいるね。どんな欲に入るんだか。
画像:みうらじゅんさん、安齋 肇さん
老いるショック話で盛り上がる安齋さんとみうらさん

葬式は人生のフィナーレだし、
いっそモーニングで参加したら。

『知人の葬儀で斎場へ。
ついつい旧友4人と会って
話し込んでしまい、
焼香を忘れて帰ってきたことに気づく。
香典は出したからいっか』
じいじ・75歳

みうら
次は、じいじさん。
安齋
知り合いと会った喜びで。
みうら
悲しみが吹っ飛んだんでしょうね。ま、逆に、吹っ飛ばせたから良かったかもね。
安齋
亡くなられた方もきっと喜んでいますよ。斎場では昔の仲間と集合した気になって「次どこに行く?」と言ってるうちに焼香を忘れて居酒屋に流れること、あるよね。
みうら
あるね(笑)。居酒屋ではまず故人の話は出ないもんね。
安齋
げん直し。「逆に出ないほうが、あいつも喜ぶだろう」みたいな勢いでね。

『父が亡くなり出棺のため
大切にしていたモーニングを
着せてあげた……はずが、
クローゼットに父のモーニングが残り、
夫の喪服がないことに告別式当日
気付く。斎場の目の前に某紳士服
チェーン店があって助かった』
昔からあわてんぼう・67歳

みうら
お葬式関連でもう1本。昔からあわてんぼうさん。これ、いっそのこと、おやじのモーニングで行った方が良かったんじゃないかと思いました。
安齋
人生のフィナーレなんだからさ、もうモーニングでいいと僕も思うんだ。
みうら
そういや、安齋さん、この間お葬式で会ったとき、普段着でしたよね。でもそれ、いいと思いました。故人を思う気持ちは変わらないわけだし。僕もそのとき、ネクタイはしてないし、靴もスニーカーだったから。次、きな子さんの老いるショック報告。

『ほぼ寝たきりの父の枕元で
バードコール(小鳥のさえずり音が出る玩具)を鳴らしてあげた。
一緒に登山した頃が懐かしく
「お父さん、鳥が鳴いてるよ」と
涙声で囁くと 「それがどうした!」
と返してきた』
きな子・70歳

安齋
人生の最期で「鳥が鳴いているよ」と言われても、もう必死な人にしてみれば「いまそれどころじゃないんだよ」って思うよね。

おじさん? それともおばさん?
どっちなの?

『小学校に勤めていた頃、
白髪まじりの頭を見て
「先生っておばさん? それとも
おばあさん? どっちなの?」と
子どもたちが聞いてきて
心中かなりショック。
「その真ん中かな」と答えました』
コムラッチ・63歳

安齋
コムラッチさんの投稿を読んで思い出したよ。若い頃、みうら君と一緒に旅行したときに入った温泉で言われたことがあったよね。
みうら
あったね(笑)。後から来た男性2人組が、洗い場に座っていた僕たちの背中を見て「あっ、女湯かよ!」ってドアを閉めて帰って行ったよね。きっとおばさんと間違えられたんだろうな。
安齋
大人だって間違えるんだから、子どもが間違えてもしょうがない。
みうら
最後はあちこち打撲さん。

『眉毛を描くとき左右対称でなくても、
ま、いいか、と思うようになってきた』
あちこち打撲・52歳

安齋
眉毛が左右非対称くらいのことは、もういいじゃないかって思えてきませんか?
みうら
「これくらい別にいいよね」となったのは、特別異性を意識しなくなったということでもあるのでは?
安齋
僕も髭を半分剃り残したときにまあいいか、と思ったな。誰かの恋愛対象になることを自ら外したんです。外されたのではなく(笑)。
みうら
その考え、賛成(笑)。僕も還暦すぎたあたりから、自ら外してますんで。
安齋
若者時代は、恋愛対象にされたいという欲望がすっごく強かったけど。
みうら
その欲望が長引くと体にも良くないですからね(笑)。と、いうことで今回はおしまい。今後も毎月募集しますから、皆さんとっておきの「老いるショック」をお待ちしています。

『月刊益軒さん』の人気連載「老いるショック大賞」が本になりました。

「老いるショック大賞」書影

『老いるショック大賞』

みうらじゅん 編
筑摩書房 予価1,540円(税込)
2020年3月号から2025年11月号までの掲載作品から、約330本を収録。5月上旬発売予定。

『月刊益軒さん』とは…

テーマは「食」と「笑い」で養生する。小社の食品を継続コースで購入している方へ毎月無料でお届けしているミニマガジンです。脳ドリル、食のエッセイ、漫画など、たっぷり楽しめる内容です。

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