「通販生活」で連載中の「こんなことを言っても、得することはないんですけども・・・」。気鋭の小説家、中村文則さんが誰に忖度することなく書き記していく時事エッセイです。憲法9条改定を目指す自民・維新の連立政権に対して、中村さんの考えを掲載します。
中村文則さんプロフィール
なかむら・ふみのり●1977年、愛知県生まれ。『土の中の子供』 で芥川賞、『掏摸』〈スリ〉で大江賞など 。2024年『列』で野間文芸賞。
今回は「なぜ憲法9条を変えたらこわいのか」を、僕がこれまで言われた反論等に答えるQ&A方式で、書いてみたい。
- Q
- 「日本は防衛してるだけ。武力で脅す中国等に文句言え」
- A
- 「仰る通り、武力威嚇は批判すべき。でもあっちも今の日本(と米国)は脅威と思ってる。なぜなら.....
- Q
- 「あなたの目の下のクマ、やばくない?」
- A
- 「仕方ないでしょ?中学時代からあるんだから。えっと、第二次大戦時、中国の死者数は1000万人以上ともいわれ、中国にとって日本は最も敏感に警戒する国」
- Q
- 「高市首相は戦争しない。防衛で戦力を上げようとしてる」
- A
- 「高市氏が危険な理由。一つは、靖国神社への態度。靖国は戦没者を追悼するだけでなく、彼らを英霊、つまり英雄として祀る場所。そこに、当時の戦争指導者、A級戦犯が合祀されてる。中国は、あの戦争は日本人は悪くない、よくない指導者達の責任、として国民の反日感情を抑え日本と条約を結んだ。死者の魂の慰霊ならいいけど、当時の指導者を英雄視してるようにうつる靖国にシンパシーをもつ政治家が首相。これは大変なこと」
- Q
- 「答え長い!髪の毛パサついてるくせに!」
- A
- 「ヘアオイルで大分改善したよ!」
- Q
- 「靖国については安倍氏も同じでしょ?」
- A
- 「同じ。でも安倍氏は国内では強気だったけど、中国は経済で重要なので協調路線を取った。高市氏は歴代首相の慣例を破る、あの存立危機事態発言で明確に中国を敵対化した」
憲法に自衛隊を明記すれば、自衛の名で戦争をしかける国になる。
- Q
- 「9条変えないと侵略される」
- A
- 「日本は現在のままでも、攻められたら戦える。自分達の命を守るのは人間の自然権なので、憲法に先立って認められる」
- Q
- 「9条に戦力を保持しない、とあるのに?自衛隊を明記すべき」
- A
- 「ここがポイントで、ほぼ全ての戦争は『自衛』の名で行われる。憲法の戦力の不保持は、他国がもつような、自衛と言いながら侵略する戦力はもたない、と解釈できる。やや複雑な言い方だけど、この複雑さこそが平和の智恵。憲法は国家の理想を語るものではなく、国民の権利を保障し、政治家を縛るためのもの。だからそもそも、憲法を変えたいと言う政治家はろくなものじゃない。この9条は、時の政治家に戦争をさせないためのもの。
私達は『他国のような自衛の名で侵略する戦力』はもたない。もっているのは、憲法には明記していない、自然権による、本当の自衛しかしない自衛隊のみ、ということ。自衛隊を明記すれば、他国と同様、自衛の名で戦争をしかける国になってしまう。だから明記しない方がいい。
国民の命を守る、たとえば消防士や医師等も憲法に明記されてない。自衛隊の味方みたいな言い方をする政治家ほど、逆に、自衛隊に危険なことをやらせようとする。自衛隊とそのご家族は、このことを意識した方がいい。今、最も自衛隊の心配をしてるのは反政権側。9条が変われば、文言はどうあれ、変わったという空気が広がって、米国も日本に戦争協力をさせやすくなる。近年の米国は自国の兵をなるべく使わず戦争する方針なので、私達の大切な自衛隊が米軍の二軍にされる」
- Q
- 「戦争の準備しないとやられる」
- A
- 「逆。敵対姿勢で急な軍拡に走ると、敵とされた国は、その国の準備が整う前に当然攻撃する。ロシアとウクライナの例で明らか。まずウクライナで革命が起き、親ロシア政権が倒れ親米政権ができた2014年、ロシアはウクライナからクリミア等を奪う(敵と認知)。ウクライナは欧米の支援を受け、対ロシアの軍拡を急激に進める。そして、これ以上ウクライナが強くなる(さらにNATOに入る)とまずい、というタイミングでロシアはウクライナに侵攻。
中国に置き換えると、日本が中国を「敵視したまま」急激な軍拡をすれば、中国はまず、日本の経済を攻撃。中国がレアアースの輸出を止めれば(日本自前の産業化はなかなか難しく、もし一部できても何年も先)凄まじい経済的打撃。抗生物質も中国に大依存なので、減らされれば(国産は限界があり)抗生物質や薬は高騰、金持ちしか手術等を受けられなくなる。それでも敵対し続け、北朝鮮みたいに国民が飢えても軍拡を進めれば、これ以上強くなられては困る、の段階で、理由をつけて中国は攻めてくる。今の政権がやってることは完全に平和と逆。凄まじく危ない」
9条を失えば、平和を愛するアイデンティティーを失う。
- Q
- 「なら核をもてば」
- A
- 「イランは核施設の攻撃を受けた。つまり核をもてば、まず最初にその核が攻撃対象。破壊されれば当然被爆。
本来、中国は台湾への軍事侵攻は最終手段で、政治的に台湾を併合しようとする。武力で征服しても、その後の統治が難しいから。台湾有事の最悪のシナリオはこう。米国は中国と敵対しないので、実際に米国の代わりに日本がいく(いかされる)。その時中国はまず日本に壊滅的打撃を与え、それを見せて台湾に降伏を迫る。そして『日本は中国の安全を脅かしたから攻めたけど、中国は台湾の皆さんを愛してるから、台湾を攻撃しなかった』と言う。中国は台湾を支配しやすくなる」
- Q
- 「中国と同じ武力をもてば」
- A
- 「国土の広さが違う。日本が核をもっても数が違う。日本は素晴らしい国だから、そんなことで張り合う必要はない。日本がやることは、どことも対立せず、中国と台湾の緊張を全力で和らげること」
- Q
- 「日本の憲法は外国の押しつけ」
- A
- 「デマ。日本の知識人達の憲法草案が元になってる。当時の世界の、平和への切望も体現。日本は戦争の悲惨を経験し、もう戦争はしたくないと死者達の前で誓った。9条を失えば、私達は祖先の想いも踏みにじり、平和を愛する日本人としての、決定的なアイデンティティーを失う。9条を変え、喜ぶのは自衛隊を利用したい米国だけ。
米国に負け、戦後米国の言いなりになり、憲法まで変え自衛隊を差し出す。それはさすがに、惨め過ぎませんか」
写真:本人提供
