特別インタビュー

枝野幸男・衆議院憲法
審査会会長へ3つの質問

  1. ❶憲法審査会をどのように運営していきますか?
  2. ❷国民投票法の「テレビCM規制」はどうなりますか?
  3. ❸九条の議論はどうなりますか?

24年11月、衆議院憲法審査会の新会長に立憲民主党の枝野幸男さんが就任しました。通販生活が20年近く追い続ける「憲法改正国民投票法のテレビCM規制問題」の行方ほか、憲法審査会を今後どのように運営していくのか、伺いました。

聞き手/今井一(ジャーナリスト)

合意の形成に向けて──「中山方式」の継承。

──衆議院憲法審査会の会長就任、おめでとうございます。通常、憲法審査会の会長は与党から出るものだと思っていました。

枝野
基本的には議席数に応じて、各委員会や審査会の委員長職を「分け合う」ことになっていて、これまでは衆議院に三つある審査会はいずれも自民党が会長でした。しかし、(24年10月の)衆議院選挙で立憲民主党が50議席増え、自民党が56議席減らしたことから、審査会のうち一つは立憲から会長を出すことになったのです。民主党が与党だった時代に会長を出したことはありますが、野党議員としての憲法審査会会長就任は初めてだと思います。

──就任後、憲法調査会の初代会長を務めた自民党・中山太郎氏の「中山方式」を継承していくと発言されましたね。

枝野
憲法改正発議には衆参両院総議員の3分の2の賛成が必要なわけで、数の力で押し切れるようなものではありません。「改憲派」が3分の2を占めたなどとよく言われますが、たとえば同じように「改憲派」と言われていても、自民党と国民民主党、あるいは維新の会や公明党ではそれぞれに思惑も異なるでしょう。しかも、その後には国民投票が控えていますが、「やってみないとどうなるか分からない」くらいに意見が分かれているものを国民投票にかけるわけにはいかない。憲法改正とは、国民を含めた幅広い合意があって初めて発議ができるものなんです。そうした認識のもと、与野党が平等に意見を述べ合い、合意を形成していけるような議論を積み重ねていったのが中山調査会の時代だったと思います。
 その背景にあるのは、憲法とは公権力を縛るルールであって、権力の主体が交代しても変わらず縛り続けなくてはならないという考え方です。だから、政権を担い得る政党間で一致できるように進めていかないといけない。そうした「中山方式」の精神と手法に再び立ち帰ってやっていくべきだと考えています。

2007年3月、衆院憲法調査特別委員会で中山太郎委員長(中央)と枝野さん(左端)。写真提供/共同通信社

──そのためには、そうした本来的な議論をこれまで以上のペースで進めていくことになるのでしょうか。

枝野
それは会長の独断で決められるものではありませんから、今後各党から意見を出していただき、議論の進め方自体についても合意形成を図っていくことになるでしょう。ただ、憲法についての議論を深めていくのが憲法審査会の本来の役割だとは思っています。

国民投票法の「テレビCM規制」についての議論は?

──では、具体的な議論の内容に関してまずお聞きしたいのが、2021年6月に立憲民主党の改正案が通る形で成立した改正国民投票法についてです。この附則第4条には、国民投票に際してのテレビCMなど「広告放送」のあり方について、「施行後3年を目途に」必要な措置を講ずる、という文言が含まれています。ところが、実際にはこの点についてまったく議論がなされないまま「施行後3年」の期限が過ぎてしまいました。これについては、どう議論を進められるのでしょうか。

枝野
それは、かなり大変な議論になると考えています。なぜなら、これだけインターネット、とりわけSNSや動画サイトが発達した今、法律ができた3年前とは状況が決定的に違っていて、当時想定されていた議論がまったく役に立たなくなっているからです。立憲民主党でもCM規制についての党内の集約は図ってきていますが、それをそのまま出してもほとんど意味がないでしょう。
 ただ、あまりに状況が違いすぎて「どうしたらいいか困っている」のは、どの党も同じだと思います。ですから、立憲も含めてノーアイデアのところから勉強して、どうしたらいいかを一緒に考えていくしかないでしょう。その意味では中山方式のよさが生きる局面だと思いますし、そうした段取りについては、すぐにでも始めていかなくてはいけないと考えています。

──有識者や専門家を含めた勉強会などを開催されるのでしょうか。

枝野
そもそも、どういう人がこの問題における「有識者」なのかというところから話をしないといけませんよね。どうやって自分たちの知見を高めていけばいいのかというところから、各党で知恵を出し合っていく必要があると思います。

──過去の選挙や住民投票を見ていると、CMだけではなく「討論」が行われることが非常に重要ではないかと思います。たとえば(24年11月の)兵庫県知事選も、きちんと公開討論会などが行われていれば違う結果になっていたかもしれません。国民投票についても、もちろん各テレビ局は賛成派、反対派の討論会を企画すると思いますが、国の広報協議会もそこに関与していくべきでは? たとえば、国が番組の「枠」を買い取って、内容についてはテレビ局に任せるという形であれば、喜んで放送するテレビ局はあるのではないでしょうか。

枝野
それは、今の制度上も可能だと思います。ただ、どういう形で討論会ができるかは、発議される改正案がどのような内容かによって全然違ってくるでしょうね。たとえば、それこそ「全会一致」で改正案が可決された場合、誰が反対の論陣を張るのかという話にもなってくる。また、今後発議される可能性が高いものとしては「臨時国会の招集期限」についての改憲案などがあると思いますが、国民的な関心はあまり高くないでしょうから、討論会をやってもほとんど盛り上がらないのではないでしょうか。
 そのあたりも含めて、実際に発議されたときの広報協議会で決めていくしかないと思います。

2024年12月19日、衆院憲法審査会に臨む枝野さん(写真提供/共同通信社)。

憲法を「不磨の大典」にはしない。

──枝野さんは以前から、憲法を「不磨の大典」にする気はないとおっしゃっていました。改悪はすべきでないけれど、必要があったら改正したらいいんだ、と。今もそのスタンスは変わらないのでしょうか。

枝野
まったく変わりません。

──一方で、一部には「憲法についての議論に乗ること自体、改憲の手助けをすることになるから、議論自体も拒むべきだ」という議員もいます。憲法審査会で改憲派の野党議員が発言すると、野次が飛んできて混乱状態になるようなこともありました。個人的には、「そこまで言うのだったら、憲法審査会からも外れればいいのでは」と思ったりもするのですが、枝野さんはそういう意見も含めて包摂していこうというお立場ですか。

枝野
少なくとも、国会に議席を持っているすべての会派は憲法審査会で発言する権利を持つべきだと思います。それを会長がどうかできるという話ではありません。ただ、議論を妨害するような傍聴席からの不規則発言などは、厳しく規制していきます。

──では、今の野田代表のもとの立憲民主党が、自民党や国民民主党、維新の会なども含めて、できるだけ議論を進めていくという方針は間違いないですね。

枝野
ただそれは、各党の見解次第というところもあります。つまり、どのテーマを議題にするかで一致しなければ、議論はできないということです。たとえば、緊急事態条項について立憲民主党は「議論の必要がない」という立場ですから、そのテーマに限って言えば当然議論は進みません。やる必要がないと考えるからです。

──では、今各党で一致できるテーマはどういうものがあるとお考えでしょう。

枝野
想定しているものはありますが、基本的には各党の意見をうかがってから、ということになりますね。ただ、先ほどご指摘いただいた国民投票法附則の件については、法律上の義務ですから議論しなくてはいけないと考えています。

──第九条についてはいかがですか。枝野さんは11年前、2013年に『文藝春秋』に「憲法九条 私ならこう変える 改憲私案発表」と題した論文を発表されています。九条のあり方についても議論を深めるべきだというスタンスは、やはり変わってらっしゃらないのでしょうか。

枝野
会長に就任するまで言ってきたことは、何も変わっていません。ただ、合意形成できるあてもないのに審議会で議論しても仕方ない面があるとは思っています。つまり、合意形成のリアリティがあるものから優先して議論していくべきであって、九条については今、残念ながらその可能性が高いとは言えないのではないでしょうか。

インタビューは衆議院会館の枝野さんの部屋で行われた。

国民に関心を持ってもらえる議論の場に。

──最後に、主権者が憲法に、そして憲法審査会での議論や国民投票法についてももっと関心を持ってもらえるよう、憲法審査会会長としての意気込みをお聞かせください。

枝野
まず、関心を持っていただくに値するような議論になるよう、会長としてうまく進めていきたいと考えています。
 憲法審査会での「自由討議」は、中山会長時代からのいい慣習だと思うのですが、結果的に各議員が個人としての意見を「言いっぱなし」にして終わっている面がありました。これでは「国民の皆さん、関心を持ってください」といってもあまり説得力がないと思うのです。

──たしかに、これまで審査会を傍聴していても、言いたいことをそれぞれ一方的に言い合っているだけで、議論になっていないと感じることがよくありました。

枝野
そこを変えて、何らかの結論に結び付く建設的な議論をしていけるよう努力したい。結論を出し得る合意形成可能なテーマから進めるべきだというのは、そういう意味でもあります。
 そのために、いわゆる自由討議は減らして、各党が責任ある発言をしてください、それに対する意見を述べ合ってください、という形にしたいと考えています。ちゃんとテーマを絞って各党にきちんと準備をさせ、たとえば「まだ党内で議論中だから結論は出せません」でもいいから「このテーマについてのわが党の到達点はここです」ということをしっかりと述べてもらう。そして、それに対しての質疑を重ねるような形での議論ができないと、審査会の意味がないと思うのです。
 もちろん、先ほどの国民投票法に関するインターネット利用についての議論などは、本当にゼロベースで話していかないとどうにもならないので、そこはまた別の話になるでしょう。そういうところをちゃんとメリハリ付けて、テーマごとに一番建設的なやり方を提示して各党にご理解いただきながら議論を進めていくのが、私の仕事だと思っています。

───明快ですね。

枝野
あとは、メディアとの関係を大事にしていきたいと思っています。各メディアの憲法担当の記者と定期的に懇談をしたり、必要に応じて正式な会見を開いたり、これまでよりも頻度を上げてやっていくつもりです。もちろん、こうした個別のインタビューもお受けしていきます。

──ありがとうございます。今後の審査会での議論を楽しみにしています。

24年12月、都内にて。
構成/仲藤里美 撮影/在津完哉

えだの・ゆきお
1964年、栃木県生まれ。東北大学法学部卒業。91年に弁護士登録。93年、日本新党から立候補し衆議院議員に初当選。新党さきがけを経て民主党結成に参画。民主党政権で官房長官、経済産業大臣等を歴任。2017年、立憲民主党を設立。『枝野ビジョン 支え合う日本』(文春新書)、『素志を貫く 枝野幸男インタビュー集』(共著、現代書館)ほか著書多数。

枝野会長の”初陣”衆議院憲法審査会を傍聴した

文/今井一

新会長に就任した枝野幸男さんから「所信、意気込み」を伺った約2週間後の12月19日、衆院選後初めての憲法審査会が開かれたので、その傍聴に赴きました。
 憲法審査会は、衆議院議員の紹介で会長の了承を得れば誰でも傍聴することができ、傍聴の申し込みは衆議院議員を通じて行います。この日の開会時間は午前10時でしたが、午前9時半には(傍聴者の入口となっている)「衆議院議員面会所受付」に40人を超す傍聴者が来ていました。
 行列の先頭にいたのは市民グループ「コクミンテキギロン☆しよう!」のメンバー数人で、彼女たちは毎回衆参の憲法審査会に足を運んでいます。そのほかにも共産党議員の紹介で傍聴券を手にしている人たちもいて、彼らも同じく毎回傍聴に赴いているようです。

24年12月19日に開かれた衆院憲法審査会。傍聴席からの風景(写真提供/共同通信社)。

衆院憲法審査会のメンバーは、枝野幸男(立憲)、船田元(自民)ら与野党の議員50人で構成されています。
 この日はそのうち9割以上の委員が出席していました。憲法審査会では、議員が手にする当日の資料・文書と同じものが、傍聴席の入口においてあり、傍聴者は自由にそれを手にすることができます。
 これは、当日、衆議院法制局の橘幸信法制局長が会議の冒頭で「衆議院憲法審査会における憲法論議の経過」について報告した際、使った資料です。
 枝野新会長は私とのやり取りの際、個々の議員(委員)が一方的に言いたいことを言って終わるのではなく、きちんとした議論が行われる憲法審査会にしたいといった話をしていました。それはどうだったか。各会派の代表者の意見陳述が終わった後の2まわり目の自由討議では「発言者は必ず誰か他の委員あるいは会派に質問する形で意見を述べる」というルールを履行し、功を奏したように思えました。それが定着すればいいのですが。
 もう一つ、国民投票法のCM規制について早急に議論を進め何らかの結論を出すという件についても、自民、立憲、維新、国民の議員(委員)に異議はなく、期待できそうだと感じました。
 なお、12月19日当日の出席議員の発言、やりとりはすべてここで視聴できます。
 それから、今後の審議についてもすべてインターネット中継で視聴できます。