3・11から12年──

私は原発再稼働・
新増設に反対します。

脱原発へ12人の声

再稼働や新増設など原発の積極活用に舵を切った日本。
福島の原発事故から12年、脱原発を訴える12人の声です。
(掲載は五十音順)

赤坂真理さん

加藤登紀子さん

木野龍逸さん

小泉純一郎さん

小出裕章さん

白崎映美さん

瀬戸山美咲さん

樋口英明さん

平野啓一郎さん

藤田早苗さん

松久保肇さん

森松明希子さん

私はこう考える

赤坂真理さん

作家

大手電力会社や大都市圏に住む政治家、官僚たちは安全なところから遠隔で「植民地」を支配しているかのような感覚なのでしょう。

 「私の家を知りませんか」
 この言葉を聞いたのは2年前のことです。福島県浪江町で焼肉店に入った際、60代くらいの女性が店に来ました。その女性が店の人に自分の家がどこにあるかを尋ねたのです。もともと自分が住んでいた家のはずなのに……。
 浪江町は2万1千人が住む町でしたが、原発事故で全域に避難指示が出されました。2017年に一部区域の避難指示が解除されたものの、住宅や店舗が解体されたのちも新たな建物はできず、更地が広がっていました。ここにどんな街並みがあったか、説明を聞かないと分からない。焼肉店に来た女性も、自分の家があった場所が分からなくなっていたということです。店の人は浪江町に住んでいた人ではなく、「分かりません」と答え、女性はがっかりしたように出ていきました。
 事故から数年後に私が富岡町を歩いたときも、街には誰もおらず、「いま地上にいるのは私一人では」という感覚になりました。
 それにしても福島のことって、どうしてこんなに伝わらないのかなと思います。(東北学を提唱した)民俗学者の赤坂憲雄さんの著作『災間に生かされて』(亜紀書房)に「植民地」という言葉が出てきます。電力の供給エリア外に原発を持つ東京電力にとって、福島は「植民地」。事故が起きたら立地地域の人たちは家を失い、長く苦しみますが、大手電力会社や大都市圏に住む政治家、官僚たちは安全なところから遠隔で「植民地」を支配しているかのような感覚です。日本は封建時代のままなのだと思います。

2022年6月17日、最高裁は福島第一原発事故損害賠償請求集団訴訟4件について国の責任を認めない判決を言い渡したが、4件のうちの1つ「千葉訴訟」は東京高裁で勝訴していた。写真は2021年2月19日、「千葉訴訟」の東京高裁判決時のもの(写真提供/木野龍逸)。

 2022年6月、最高裁は、福島第一原発事故損害賠償請求集団訴訟4件について、国の法的責任を認めない判決を言い渡しました。「国が東京電力に必要な措置を命じていたとしても事故は避けられなかった可能性が高いので責任はない」と。私はその法廷を傍聴し、原告側の人たちから魂が抜けていく様を見ました。私自身も呆然としました。怒りも出てきませんでした。無力感ですね。高裁までは「人間が人間のことを考えている」という感じがしていました。最高裁になっていきなり、「人間」ではなく「国」という顔のない機関が出てきて、それが「人間」の言うことも存在も、簡単につぶしていく。裁判所は最高裁になると御用機関になるんだと。司法が機能しないところでどうしていけばいいのか。
 政権が決めた原発の再稼働や新設方針に反対しています。ひとたび事故が起きたらどうなるのかを現場で見てきたからです。


あかさか・まり●東京都生まれ。作家、パフォーマー。天皇の戦争責任をアメリカで問われる少女を描いた『東京プリズン』(河出書房新社)は戦後論ブームの先駆けとなり、毎日出版文化賞、司馬遼太郎賞、紫式部文学賞を受賞。原発事故後、取材で福島第一原発の周辺地域を歩いている。

※3月11日に公開した当記事の中に、現在、提訴されている人物が映った写真を掲載しました。提訴された本人も訴えの内容を認めて謝罪文を公表していることから、その写真を掲載することは不適切と考え、写真を差し替えました。2023年3月14日 ウェブ通販生活編集部。

加藤登紀子さん

歌手

どんな状況であっても生きていこうとしていることを希望と呼ぶのです。未来の生き方をすぐ始めましょう。

 原発回帰はありえない決断だと思います。いま開会中の国会でも真面目そうな官僚が「311を学習して限りなく安全な原発を」と答弁し、また安全神話に逃げ込もうとしていました。片や南海トラフでは東京と大阪は壊滅するなど、地震災害に相当厳しい予測がたっているのに、あり得ない。この国は雪崩を打ってよくない方向にいっていると思います。国というものが機能停止しています。本当に困った状況です。
 福島で故郷をなくした人たちの現在に私はとても心を痛めています。政府が避難指示を解除するのに伴って県内外へ移住した人への支援が打ち切られること、それもすごく、とっても心配していまして。山形県や福島県で支援コンサートを行い、福島県二本松市の詩人・関久雄さんの詩の朗読もしてきました。関さんは家族が山形県米沢市に避難し、家族ばらばらの生活をしなければなりませんでした。

囲い込まれ 見棄てられ 絶望し 
でも その中で 
懸命に生きようとしている者たちが いる 
その者たちも また 希望なのです

(関久雄「あなたがたは希望であり私たちも希望」より)

 どんな状況であっても、人の心が引き裂かれようとしても、みんな生きようとしていることを希望と呼ぶという詩に心惹かれました。
 昨年5月に出したウクライナ難民支援CDアルバム『果てなき大地の上に』に、この朗読も収録しました。チェルノブイリ原発事故で故郷をなくしてキエフ(首都キーウ)に移住した人たちが、戦争でさらにキエフを追われています。
 福島原発事故以降の12年は非常に貴重な12年だったと思います。みんなで原発に頼らずにいられるように、一生懸命、省エネして努力しました。代替電力がどうやったらできるか。送電線の開放で地域での発電を高める。農地とソーラーが共存するソーラーシェアリング……。(脱原発を)ずっとやってきた私自身からすると、やっと原発に頼らずに世の中がシフトしてくれたと思ったのですが。

ロシアのウクライナ侵攻で原発が攻撃対象になり、そのリスクが改めて注目された。写真は、ロシア軍撤退後のウクライナ北部のチェルノブイリ原発(写真提供/共同通信社)。

 私たちの国を包囲している原発とは、(攻撃されれば日本社会を破滅させ得る)「武器」です。簡単な攻撃で日本は壊滅する。そうさせないために、アメリカがどうであっても、「日本は戦争しない国だ」と言い続けないといけない。必死に言い続けないといけない。
 国を変える時間はもうないかもしれません。自分自身が変わって未来のある生き方をただちに今から始めないといけないと感じています。日本は豊かな自然が残されています。一定程度の食料、水、エネルギーを自給できるような体制や、田舎とつながって暮らす体制を自分で作らないと。今、本当に大事なときを迎えていると私は思います。


かとう・ときこ●1943年、旧満州(中国)ハルビン生まれ。1965年、東大在学中にデビュー。『百万本のバラ』『知床旅情』などで知られる。宮崎駿監督の『紅の豚』(1992年)では声優も務める。2012年、福島の子どもたちのためのアルバム『ふくしま・うた語り』を制作。昨年12月にハルビンから追われた人たちなどを描く『百万本のバラ物語』(光文社)を著した。同名のコンサートを5月26日に東京国際フォーラムで開く。

木野龍逸さん

ジャーナリスト

東電の記者会見に出続けて、「電力会社の体質は事故後も変わっておらず、原発を動かす資格はない」と確信しました。

 2011年3月の事故直後から2021年まで、私は東京電力の記者会見に出続けました。当初は「東京電力は変わるかな」と少しだけ期待したこともありますが、結局、全く変わっていません。福島第一原発事故の被災者による損害賠償請求訴訟では、東電の責任を認める判決がたくさん出ています。最高裁で確定したものもあります。甚大な被害を出した責任があると認定されている一方で、東電は例えば、柏崎刈羽原発(新潟県)で信じられないミスを繰り返しています。
 2020年9月には、自分のIDカードを紛失した運転員が他人のIDカードを盗んで使用し、原発の心臓部である「中央制御室」に不正に入るという事案が起きました。テロ対策上の重要な問題ですが、IDの不正使用は2015年にも起きています。

2021年5月13日、IDカード不正使用について陳謝する柏崎刈羽原発所長(写真提供/共同通信社)。

 また、運転開始から30年になる同原発3号機について、東電が原子力規制委員会に提出した審査資料に150ヵ所の誤りがあり、そのうち131ヵ所は2号機のデータを流用していた問題も今年1月に発覚しました。いわゆるコピペです。東電は機器の詳細が不明だったので流用したなどと説明していますが、原子力規制委員会の山中伸介委員長も「説明は納得できなかった」「小さな問題ではない」と厳しく批判しました。
こんな会社に原発を動かす資格があるとはとても思えません。あまりにも常識外れです。
 また関西電力では、会長、社長をはじめとする役員らが、高浜原発がある福井県高浜町の元助役側から、金の延べ棒など総額3億7000万円にのぼる金品を長年受け取っていました。同社は原発事故後にカットした役員報酬を補填していたことも指摘されています。 東電と関電の問題はいずれも、ガバナンス(統治・管理)が機能していないことや、独善的な企業姿勢を示しています。原発に絡む電力会社のこうした体質は、原発事故の前後で変わっていないのではないでしょうか。


きの・りゅういち●1966年、東京都生まれ。自動車問題や福島の原発事故を取材。「Yahoo!ニュース」や「スローニュース」などのネットメディアに記事を寄稿中。著書に『ハイブリッド』(文春新書)、『検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖』(岩波書店)など。

小泉純一郎さん

元首相

地震大国の日本では「核のゴミ」の最終処分場を造れないから、原発はやっちゃいかんよ。

 原発から出る「核のゴミ」(高レベル放射性廃棄物)は、本当に始末に負えないんです。第一に、いまだに最終処分場がない。「いつかできる」と言われてきたけど、できていない。
 2013年に当時世界で唯一、最終処分場を造っているフィンランドへ視察に行ったんですよ。フィンランドの国土は強固な岩盤でできていて、地震も津波もない。頑丈な国だよね。南西部の島に造られた「オンカロ」(洞窟)という最終処分場では、地下約450メートルの地点に10万年も核のゴミを埋設するためのトンネルを掘っていた。担当者が「あとひとつ審査がある」と言ってトンネルの壁を指差すので見たら、数メートルおきに黒いシミがある。「あれは水分、湿気だ。何年も経つと水が漏れ出る恐れがある。その審査が残っている」と言うんだよ。もし日本で同じことをやったら水どころじゃなくて、温泉が出てきちゃうよ。
 聞いたところでは、フィンランドには原発が4基あるけど、オンカロの処分場は2基分しかない。残りの2基分は島ではなく、フィンランドの本土に造らないとならないんだけれども、住民の反対でできない。フィンランド政府も困っているんだよ。それを聞いてね、「日本じゃ処分場はできないな」と思ったね。何より日本の国土はそんなに頑丈な岩盤でできていないし、日本にある原発54基分もの処分場を造るのは無理ですよ。

地下約450メートルの地点まで掘り下げられたフィンランドの最終処分場「オンカロ」(写真提供/共同通信社)。

 一般の産業廃棄物の場合、処分場を造れない限り都道府県知事は産廃業者に営業許可を出しません。電力会社は自分で処分場を造れないのに、なんで政府は原発を許可しているんだ? おかしいじゃないか。日本は地震もある、津波もある、火山もある。処分場なんか造れるわけがない。フィンランドで確信したよ。原発はやっちゃいかんと。
 国会事故調査委員会の報告書は福島の事故原因として、「規制の虜(とりこ)」を挙げました。規制する側の官庁が原発会社に篭絡(ろうらく)され、言いなりになってた、天災じゃなく人災だ、と。安全第一じゃなく、収益第一だったんです。ひっどいよなあ。私たちはもう騙されたらだめなんですよ。


こいずみ・じゅんいちろう●1942年、神奈川県生まれ。2001年~2006年、内閣総理大臣。東日本大震災を機に「脱原発」を主張。「原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟」を発足させ、自ら顧問に。著書に『原発ゼロ、やればできる』(太田出版)など。

小出裕章さん

元京都大学原子炉実験所助教

人間に放射能を消す力はない。これ以上、水の惑星を放射能で汚してはいけません。

 決して起きないはずだった原子力発電所で大きな事故が起き、大量の放射性物質が噴き出して東北、関東に降り注ぎました。広大な地域を放射線管理区域にし、住民を避難させなければならないほど汚しました。政府は「原子力緊急事態宣言」を発令し、被曝限度の基準を一気に20倍も緩和し、1年間で20ミリシーベルトまで人が住んでいいことにしてしまいました。そして12年経った今も緊急事態宣言は解除できないままです。
 岸田政権は、原発の60年超の長期運転を認めました。
 原子炉は運転中、中性子線でずっと被曝し、劣化していきます。脆くなった金属が壊れるのを事前に予測することは難しい。原子炉だけでなく、配管、電気ケーブル、計測制御系などあらゆる機械が経年劣化します。政府は点検するから大丈夫と言っていますが、点検していなかったため起きた事故は山ほどあります。関西電力の美浜原発では2004年、太いパイプが減肉(金属の厚みが減少すること)して熱湯が噴き出し、死者5人、重傷者6人という事故がありました。問題の箇所は1976年の運転開始から一度も点検されていなかった。関電は「点検リストから欠落していた」と釈明しましたが、原発はそんなことを言ってはいけない機械です。
 原発回帰を決めた新政策の中で、政府はコアキャッチャーと呼ばれる「炉心溶融物保持装置」を取り付けたものを「次世代革新炉」として新設すると言っています。しかし、これはすでにEPR(欧州加圧水型炉)として欧州で使われているものと同じ。しかも、経済性がなく、ほとんど動いていません。

福島第一原発の敷地内に並ぶ処理水の保管タンク。政府は2023年春から夏ごろに汚染水を海洋放出する方針を示している(写真提供/共同通信社)。

 人間に放射能を消す力はないのです。なるべく長い間閉じ込め、自然に減っていくのを待つしかない。国と東京電力は、福島第一原発に貯まり続けている汚染水を今年から放出するとしていますが、汚染水は130万トンもあり、日々増え続けています。 被曝は必ず実害を伴います。安全な被曝なんてないのです。放射能を海に流してはいけません。大型タンクを設置する、モルタルで固化するなど、現実的で容易に実行できる方策はさまざまにあります。それを実行して時間を稼ぐ。それが一番大切です。
 地球は水の惑星。その水を放射能で汚すことは究極の環境汚染です。


こいで・ひろあき●1949年、東京都生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業、同大学院修了。京都大学原子炉実験所助教として、原子力利用の危険性について研究し、追究し続けてきた熊取六人組の一人。2015年に定年退職。『原発のウソ』(扶桑社)、『原発事故は終わっていない』(毎日新聞出版)、『日本のエネルギー、これからどうすればいいの?』(平凡社)など著書多数。

白崎映美さん

歌手

この日本に人が住めない、生きていけない場所があることをもっと知って、もっと話さないといけないと思う。

 東日本大震災後の2013年に、バンド「白崎映美&東北6県ろ~るショー!!」を結成し、支援コンサートなどの活動を続けてきました。そのなかで福島のいろんな人たちと巡り会って、「ああ、原発事故は全然終わってないんだな」と感じました。けれど、私自身、福島のあちこちで見たり聞いたりしていなかったら、原発事故はなかったことのように過ごしていたかもしれない。
 普通に暮らしていると、事故のことは日常会話に出てきませんよね? 頭の隅にすら原発事故は存在しない感じで暮らしている人が大部分じゃないでしょうか。人間、生きていかないといけないから仕方ないところもありますけれど、福島県浪江町に行って実情を目の当たりにすると、「あーっ」てなります。「行かねばわがんねえなあ」って。
 人間が住めない、生きていけない場所が日本にある。浪江町に行くと、そのことが身に染みます。白い防護服を着せてもらって帰還困難区域の家に入ると、中はぐちゃぐちゃで、動物たちに荒らされて糞だらけ。表に出ると、太陽の光が降り注いで木々がさざめいて小川がきらきら、小鳥がさえずっている。一見、のどかで気持ちがいい。だけど、ここに住んでは、だめ。

2023年2月、福島県浪江町で。郵便ポストはビニールでぐるぐる巻きにされ、投函できなくされたままだった(写真提供/共同通信社)。

 私はその様子を決して忘れてはいけないと思い、『更地のうた』という歌にして、コンサートで歌い続けました。みなさん、泣きながら聞いてくださいました。『更地のうた』を聞いて、「知らなかった」「初めて福島の光景を自分で思い浮かべることができた」と言ってくれて。テレビも新聞もない時代は、芸能の者がいろんな所で起きたことを伝える役割を担っていたことを思い返しました。私の力は小さいですけども、悲しい思いをしている福島の方々がずっといる限り、つながっていきたいと思います。
 (原発回帰は)おっかないです。「原発やだよ」という人はたくさんいると思う。だけど、みんな声がちっちゃかったり、何をどうやって言えば分かんなかったりという人もたくさんいるはずです。私もその一人ですけど、みんなでつながって、ちょっとずつでも「やだ」って言っていきたい。それしかないなって思います。みんな、笑っている方がいいじゃん。でかい力にがーっと巻き込まれるのはやだって、みんなで声を出していきたいです。


しらさき・えみ●1962年、山形県生まれ。民族楽器やアジアの民謡を取り入れた多国籍音楽のバンド「上々颱風(シャンシャンタイフーン)」にボーカルとして参加。「上々颱風」の活動休止後は2013年にバンド「白崎映美&東北6県ろ~るショー!!」を結成、大震災後の東北を支援する活動を全国で展開している。原発周辺地域を歩いて書いた『更地のうた』のCDを2021年に発売。初のソロアルバム『うた』を3月25日に先行発売する。

瀬戸山美咲さん

劇作家

正気の沙汰ではない原発回帰。「何も知らなかった」では、もう済まされません。

事故から12年たち、原発関連の報道も原発の問題を扱った演劇も減っていっています。とはいえ、作品にするのが難しいのも分かります。私も避難者や原発関係者の方々に取材してきましたが、作品にできていないものも多く、まだ納得できるものを作れていない。作りたいと思いながら、問題の難しさの前で立ちすくんでしまっている状況です。
 2014年に上白石萌音さん主演で舞台『みえない雲』を上演しました。小学6年のときに図書館で読んだドイツの作家グードルン・パウゼヴァングさんの小説が原作です。チェルノブイリ事故をテーマにした作品で、1ページ目には「何も知らなかったとはもう言えない」と書いてあります。
 福島の事故についても「知ること」が一番大事だと思います。いま原発周辺に住んでいる人、避難している人、地域と家のこと、原発そのもののこと……。私たちは、もっと知らなくてはいけない。福島第一原発の燃料デブリ(溶け落ちた燃料などが固まったもの)の取り出しは今年始まる予定ですが、いまだデブリの正確な状態もわからず、取り出す技術が確立しているわけでもない。未来に問題を先送りしているのです。

東京電力は2022年内に福島第一原発の燃料デブリを搬出するとしていたが、実現しなかった。写真はデブリの取り出しに使うロボットアーム(写真提供/共同通信社)。

 私は、倫理のことを話したほうがいいと思います。私たちの社会をこれからどう未来につなぐのか。自分が死んだ後のことをどうとらえるか。原発事故がひとたび起きたら、とてつもない影響を未来の人たちに与える。しかし、どうしても現在の経済のほうに話がいってしまう。原発は単なる技術の問題ではなく、倫理的な側面から考えなければならない危険な技術です。命に関わる問題です。その話し合いが圧倒的に私たちの社会に足りていない。12年たって、ますますその思いを強くしました。
 パウゼヴァングさんの原点は、彼女自身がドイツでナチスの青少年組織にいたことだと伺いました。戦争が終わったとき、大人たちに「なぜ反対しなかったの」と聞いたそうです。子どもに答えられるようなことを大人は選択していたのか、未来の人たちが自由に選べる社会を残しているのか、と。
 原発の新設は正気の沙汰じゃない。パウゼヴァングさんが書いたように「何も知らなかった」とはもう言えません。福島原発事故を受け、ドイツのメルケル首相は2011年4月に倫理委員会を作り、脱原発を決めました。日本も倫理委員会で検討することが必要です。市民のレベルでも、みんなで集まって話す機会を増やしていきたいです。


せとやま・みさき●1977年、東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。芸術選奨文部科学大臣新人賞、読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞多数。原発事故関連では東日本大震災後の自分自身を描いたドキュメンタリー演劇『ホットパーティクル』、『彼女を笑う人がいても』など。2022年3月から日本劇作家協会会長。

樋口英明さん

元裁判官

電力会社の「原発の敷地に限っては強い地震は来ない」という言い分を信用するかしないかが問われているのです。

 私は福井地裁の裁判長だった2014年5月、関西電力大飯原発3、4号機(福井県)の運転差し止め訴訟で、住民側の主張を認め、福島の事故後、初めて原発の運転差し止めを命じました。福島第一原発事故は停電しただけの話。それだけで、ああなるんです。暴れ出したら止めようがないゴジラ。日本の原発は即時ゼロにすべきです。原発の怖さが分かっていれば、間違いなくそういう結論になる。目先の経済利益や電気代が上がった、下がったという問題ではありません。日本はあのとき、本当に滅亡しかけた。東日本が壊滅すれば、日本は崩壊しちゃう。そういう危機にあった。
 昨年は目立った判決が2つありました。一つは6月、福島原発の事故で避難を強いられた住民らが国に損害賠償を求めた集団訴訟の最高裁判決ですが、国の責任を認めませんでした。もう一つは、東京電力の株主による株主代表訴訟で、7月、東京地裁は東電の勝俣恒久元会長ら旧経営陣4人に対し、連帯して13兆円超を東電に賠償するよう命じました。

2022年7月13日、東京地裁は株主代表訴訟の判決で東電旧経営陣に賠償を命じた。写真は地裁に向かう原告ら(写真提供/共同通信社)

 2つの訴訟は争点が似ています。政府の地震調査研究推進本部という、日本で一番権威のある機関が2002年に出した地震推定の信頼性が問われたのです。
 避難者らによる集団訴訟で、最高裁は実際に起きた地震は同本部の推定よりはるかに規模が大きく、対策を取っても防ぎようがなかったと棄却しました。一方、株主代表訴訟は全く逆の判決で、推定に基づき対策を取るべきだったのに取らなかったと判断しました。かなり思い切った判決です。最高裁判決が出た後だから、最高裁にならった結論を出すのが普通とみられるんだけど、逆の判断をしたんですね。株主代表訴訟を担当した東京地裁の朝倉佳秀裁判長は(裁判官としての経歴から内部では)超エリートと言われていた人です。なぜ、そういう判断になったか。「国土の広範な地域、国民全体に甚大な被害を及ぼし、我が国の崩壊にもつながりかねない」と判決にはっきり書いてある。国の存続に関わる事業に携わる経営陣が重い責任を持つのは当然でしょうと、そういう発想なんです。
 最高裁は本質が分かっていませんが、東京地裁は“原発は国を滅ぼし得る”という正しい認識があったために正しい結論に至りました。原発は、電気と水で冷やし続けなければ大事故になる。人が管理し損なって停電・断水したとき、ゴジラのように暴れるということを知っているか、知らないかです。原発の本質が分かっているかどうかです。
 大飯原発差し止め判決のポイントは、「原発は非常に危ない」ということなんです。被害規模がでかい。しかも、耐震性が低く、事故の発生確率が高い。「この原発の敷地に限っては強い地震は来ないから安心してください」という電力会社の言い分を信用するか、しないか、それが原発差し止め訴訟の本質です。地震の予知予測はできませんから、理性的な人なら結論がすぐ出ると思います。しかし、法律家を含む多くの人がその本質に気づかずに、原発差し止め訴訟は難解な専門技術訴訟であると思い込んでしまっているのです。


ひぐち・ひであき●1952年、三重県生まれ。京都大学法学部卒業。大阪地裁判事、大阪高裁判事などを経て福井地裁判事。2017年8月、名古屋家裁判事で定年退官。著書に『私が原発を止めた理由』(旬報社)。自らも出演するドキュメンタリー映画『原発をとめた裁判長 そして原発をとめる農家たち』は各地で上映中。

平野啓一郎さん

小説家

原発回帰は既得権益を守るため。原発は古い産業であり、時代の大きな流れにも反しています。

 岸田政権が原発回帰を決めたことに、強く反対しています。
 あれだけの大事故を起こして、いまだに事故の処理がいつ終わるか、めどもつかず、技術的に可能かどうかの見通しも立っていない。原発があれだけ自然災害に弱く、危険なものであると分かり、これだけ多くの被害者を出し、今も住めない場所があるにもかかわらず再稼働するということに対して、非常に強い不信感を持っています。
 原発しか発電の方法がなければ、やむを得ないことかもしれないですが、世界は完全に再生可能エネルギーへのシフトが進んでいる。安全基準を満たそうと思えば、原発に経済的合理性がないことははっきりしていて、原発は決して安い電力ではなくなっている。温暖化防止に取り組まなければならない以上、再生可能エネルギーの普及を急ぐことが重要であって、原発回帰はあってはなりません。
 原発回帰が進むのは、既得権益以外の何ものでもありません。産業は、参入障壁が低ければ低いほど競争が起き、価格は低下し、技術革新も進んでいく。原発は参入障壁が高過ぎて既得権益が保護される一方、より多くの人の知恵を結集した技術革新が起こりにくい。時代の大きな流れにも反しています。
 再生可能エネルギーでは、地域ごとに電力を融通することによって安定を図ることが一般化しています。(太陽光や風力の発電では)ある地方が晴れでもある地方は曇りとか、風が吹く地方と風が止まっている地方とか、そういうなかで融通し合う。日本でも再エネで安定的な電力を得られるにもかかわらず、「原発はベースロード電源」という20世紀的な考えに固執して「再エネは不安定」という時代遅れの認識を振りまかれている。日本の停滞の象徴を見るようで、やりきれないものを感じます。

2022年12月、原発の積極活用を決めた会議であいさつする岸田首相(写真提供/共同通信社)。

 自民党という政権がそういった古い産業の仕組みと分かちがたく一体型をしているので、停滞を抜け出るには端的に言うと政権交代しかない。昨今、「安全保障環境が厳しさを増し」と機械的に繰り返されていますが、いつとどう比較してのことなのか根拠がない。逆に日本経済は数字上、明らかに厳しさを増している。そのなかで、多くの企業は生き残りをかけてますます政権との癒着を進め、一種のネポティズム(縁故主義)としか言いようがない状況が生まれている。オリンピックで露呈したような腐敗はその典型です。財界と政治の不健全な関係を断ち切ることなしに、イノベーション、さらには新しい時代の発展もないと思います。


ひらの・けいいちろう●1975年、愛知県生まれ。1999年、京都大学法学部在学中に文芸誌「新潮」に投稿した『日蝕』(新潮社)で芥川賞を受賞。映画化された『マチネの終わりに』、『ある男』など著書多数。最新作は長編小説『本心』(いずれも文藝春秋)。

藤田早苗さん

英エセックス大学人権センターフェロー

人権と直結する原発問題。日本政府は国連の勧告や報告に背を向け続けていいのでしょうか。

 人生で何も問題なく過ごせると宣言できる人はいません。そういう視点で、「自分もいつか当事者になるかもしれない」という問題意識を持ち、どういう社会を望むかという姿勢が大切だと思います。私は原発事故の問題を人権の観点から見てきました。
 日本では本来の人権教育がされていない、これが大きな問題です。例えば、政府広報で「子供の貧困 あなたにできる支援があります。」という広告が出されました。義務として政府のやるべきことが「思いやり」という言葉にすり替えられ、自己責任ばかり強調される。貧困は人権問題であり、思いやりと人権は別物です。日本の人権問題は国連に繰り返し指摘されてきましたが、勧告や特別報告者の報告を受ける度、日本政府は抗議するなどして受け入れを拒んでいます。2013年6月には国連・拷問禁止委員会の勧告に対し、当時の安倍内閣が「条約機関の勧告には法的拘束力がなく、従う義務がない」という内容の閣議決定をしました。このような態度は先進国では日本だけ。どれだけ恥ずかしいことをしているか認識するべきだと思います。
 国連に対するこうした姿勢は、福島原発の事故に関しても同様です。2013年には国連・特別報告者のアナンド・グローバーさんが年間の被曝線量に関し、最も影響を受けやすい人に配慮し、健康被害を防ぐための抜本的な政策転換を求めました。特別報告者のバスクト・トゥンジャクさんは年間被曝線量20ミリシーベルト以下で避難指示を解除していることを批判しました。しかし、日本政府はまともに対応していません。
 昨年秋には「国内避難民の人権に関する国連特別報告者」のセシリア・ヒメネス=ダマリーさんの訪日調査があり、日本政府が避難指示を出した地域と出していない地域の避難者たちの支援の差をなくすように求めました。住宅の提供打ち切りや賠償額など支援に大きな差があったためです。ところが、日本政府はその後、国連自由権規約委員会の定期審査で「区別せず支援をしている」と答弁したのです。

2022年10月7日、日本記者クラブで避難民の人権に関して報告するセシリア・ヒメネス=ダマリーさん(写真提供/共同通信社)。

 特別報告者が世直しするわけではありません。報告や国連の勧告は、世直しを望むみなさんのために書かれているんです。表向きは政府への勧告。本質的にはそれを使って運動する人のためです。野党、メディア、市民の人たちは、勧告を真剣に使ってきたでしょうか。まだまだ、私たちにはやれることはあるんじゃないでしょうか。時間がかかるとしても。


ふじた・さなえ●英エセックス大学人権センターフェロー。同大学で国際人権法学修士号、博士号を取得。大阪府出身、英国在住。写真家。特定秘密保護法案(2013年)、共謀罪法案(2017年)を英訳して国連に通報し、その危険性を周知したほか、2016年には国連特別報告者(表現の自由)日本調査実現に尽力した。著書に『武器としての国際人権 日本の貧困・報道・差別』(集英社)。

松久保肇さん

原子力資料情報室事務局長

原発の建設費は1基1兆円以上。維持費も高く、経済的合理性は全くありません。

 2023年2月10日、岸田政権が「原発建て替え」推進を閣議決定しました。建て替えとは新設のことですが、原発の新設には経済的合理性が全く存在しません。福島第一原発の事故を受けて安全基準が以前より厳しくなり、世界的に建設費は高騰しました。事故前は原発1基当たり4、5千億円だったのに、今や1兆~2兆円です。米国エネルギー情報局(EIA)なども原発のコストが高くなったというデータを出している。電力会社はこのコストを自前で負担する気はないので、政府は電気代に上乗せして消費者に負担させるスキームをいくつか考えています。つまり、新設すればその分、電気代は上がることになるんです。
 岸田政権は今回、原発の運転期間を60年超にすることも認めましたが、本来の設計寿命が40年のものを60年以上も動かすのです。検査するから大丈夫と言いますが、検査時点で大丈夫だったからといって、その後の安全が保証されるわけではありません。

電気代高騰を理由にした原発推進論に騙されてはいけない。写真は2022年7月、商品宣伝用のモニターが消されたスーパーの食品売り場(写真提供/共同通信社)。

 原子力にかかる費用は高いんです。特に原発には使用済み核燃料の再処理費用や放射性廃棄物の処分費など他の発電にない費用がかかっていますし、動かない原発の維持にも巨額の資金が注がれています。加えて原発には年4000億~5000億円の税金も投じられています。仮に今後電気代が安くなることがあったとしても騙されてはなりません。原発を維持すればするほど、私たちの負担は重くなっていくのです。
 ひとたび事故が起きたときの負担も計り知れません。政府は福島の事故処理費用を21.5兆円と見込んでいますが、賠償額の見直しが決まり、当初予定していなかった帰還困難区域の除染も国費負担で行われています。21.5兆円では足りなくなるのは明らかで、日本経済研究センターは2050年までの処理費用が35兆~81兆円になると試算しています。
 問題は、金銭的な損失だけではありません。福島の事故では、場合によっては東京を含む250キロ圏内が任意避難対象となり得ました。日本が滅ぶほどのリスクです。原発推進を主張する人たちは国が滅ぶリスクを背負う覚悟があるのか、私は非常に疑わしいと思っています。


まつくぼ・はじめ●1979年、兵庫県生まれ。法政大学大学院公共政策研究科修士課程修了。金融機関勤務を経て2012年より原子力資料情報室スタッフ。2017年から事務局長。経産省原子力小委員会の委員、原子力市民委員会委員を務める。

森松明希子さん

原発賠償関西訴訟原告団代表

避難生活がどれほど過酷か。原発をどうするかについては、まず私たち避難者の声を聞いてほしい。

 復興庁のまとめでは2022年12月現在、原発事故の避難者は福島県の内外で31,438人となっていますが、政府や県が本人に無断で避難者から除いている人たちも数多く、本当は何万人が避難しているのか、分かりません。私も長く数えられていませんでした。事故当時、私は原発から約60㎞離れた福島県郡山市に住んでいました。生後5ヵ月だった娘に母乳をあげるため、水道水を必死で飲みました。3月23日に東京で水の汚染が検出され、「乳児に飲ませないように」とテレビが伝えていたんですね。「東京がだめならこっちもだめだろう」と思って……。
 実際にはその前日に郡山市でも放射性ヨウ素が検出され、水を飲ませないように報道されていたそうですが、私はそのニュースを見ていませんでした。コンビニもスーパーも閉まっていて、ペットボトルの水や粉ミルクは入手できません。だから汚れた水を飲み、母乳をあげるしかなかった。私が背負った十字架はあまりにも重い。
 2018年3月に国連人権理事会でスピーチし、この思いを訴えました。「私たちに情報は知らされず、無用な被ばくを重ねました。空気、水、土壌がひどく汚染されるなか、私は汚染した水を飲むしかなく、赤ん坊に母乳を与えてしまいました」と。

原発事故直後、多くの人は大量に流される情報を自ら判断するしかなかった。写真は2011年3月15日、放射性物質漏れを伝える号外を読む女性(写真提供/共同通信社)。

 いまテレビでは、有識者とされる人たちの中には「原発を動かさなければ電気料金が値上げされてしまう」と語る人もいます。でも、事故が起きたら一般市民がどれだけの被害を受けるのか、その実態を知らなさ過ぎます。避難者は生活全部を奪われ続けているのです。私の夫は福島県で働き、私と2人の子どもたちの避難生活費用を捻出しています。わが家は10年以上も二重生活で、たいへんな負担です。政府と福島県が住宅提供を打ち切ったために避難先から帰らざるを得なくなった人や、経済的負担と将来の展望を失って心身を病んだ方、そして行き詰って自死された方もいます。
 そんななか、日本中で原発が動かされようとしていますが、考えてほしいのです。近くの原発が爆発したとき、どれだけ汚染が広がるのか。逃げられるのか。避難先の土地勘がなく、知り合いもいなければ、現実にはなかなか被災地からは出られません。国は守ってくれない。健康被害が出ても「因果関係を裁判で証明せよ」と言われ続けます。
 原発をどうするかについては、私たち原発避難者の声にこそ耳を傾けてほしいです。


もりまつ・あきこ●1973年、兵庫県生まれ。原発事故で大阪市へ母子避難。原発賠償関西訴訟原告団代表、および原発被害者訴訟原告団全国連絡会共同代表を務める。阪神・淡路大震災などで被災者支援に尽力した故・黒田裕子さんの思いをつなぐ「黒田裕子賞」を2019年に受賞。著書に『災害からの命の守り方』(文芸社)など。

取材・文/青木美希 取材協力/フロントラインプレス