タレントの麻木久仁子さんが伊豆高原で
ファスティング(断食)を体験ルポ。
まずは施設を主宰する
石原結實先生とファスティングの
心構えや実際の効果などについて、
特別対談をお届けします。
麻木久仁子さん
タレント/国際薬膳師
石原結實先生
医学博士/ヒポクラティック・
サナトリウム主宰
麻木久仁子さん
あさぎ・くにこ●タレント。1962年東京都生まれ。知性派タレントとしてテレビやラジオで大活躍。50代で脳梗塞と乳がんを患ったことにより、健康な生活、特に食に興味を持ち、東洋医学に依拠した国際薬膳師の資格を取得。
石原結實先生
いしはら・ゆうみ●医学博士/ヒポクラティック・サナトリウム主宰。1948年長崎県生まれ。長崎大学医学部及び同大学院博士課程修了。自ら超小食(1日1食)生活を実践。『65歳からは、空腹が最高の薬です』(PHP新書)など著書多数。
- 麻木
- 2022年に還暦を迎えたのですが、最近、なんとなく心が晴れずにクヨクヨしたり、気が滅入ってしまうことがありました。消化器系の不調も感じていて、心と体を良い方向にリセットしたくて、今回ファスティング(断食)に挑戦してみようと思ったんです。
- 石原
- 年齢とともに誰もが体温が下がり、代謝が悪くなるものです。体型や顔色から判断すると、麻木さんは冷え性でしょう。体が冷えていて良いことは一つもありません。心身の不調に、ファスティングは有効です。この機会に疲れた内臓を休ませて、体を正常なリズムに戻してあげてください(ファスティングの効果について)。
- 麻木
- ファスティングも今日で2日めですが、想像していたよりも辛くはないですね。もちろん、お腹は空いていますが、苦しくはありません。
- 石原
- 水しか飲めない水断食に比べれば、ニンジンリンゴジュースが飲めるファスティングはずいぶん楽だと思いますよ。麻木さんのように細身な方は、体を冷やさないために、ジュースではなく温かなニンジンポタージュに変更することもできます。ご自身の感覚で「冷える」と思ったら、無理せずスタッフに相談してください。
- 麻木
- ありがとうございます。でも、ジュースも常温ですし、ゆっくりゆっくり噛むように飲んでいるので大丈夫です。
- 石原
- もしお腹が空いて我慢できなければ、部屋にある生姜湯や黒砂糖をいくらでも摂って大丈夫です。黒砂糖はビタミンとミネラルが豊富で、体を温める作用もあります。
- 麻木
- 生姜湯は、到着後すぐにいただきました。少しピリッとしましたが、おいしくて1日でポット1本分を飲み干すほど気に入りました。これまでも薬膳料理に生姜を使うことはしていましたが、こんなにたっぷりの生姜湯をいただくのは初めて。生姜湯に黒砂糖を入れてもそれほど甘く感じないですね。
- 石原
- 種子島産の黒砂糖で優しい甘みがあります。種子島は長寿の方が多いのですが、皆さん、お茶請けに黒砂糖を食べています。黒砂糖にはビタミンが約30種、ミネラルが約100種含まれていて栄養がとても豊富です。
- 麻木
- 黒砂糖を入れた生姜湯にちょっと飽きたら、今度は塩を入れて飲んでみました。
- 石原
- 塩を摂るのもとてもいいです。そのように体が欲していることに素直に耳を傾けてください。欲しいと思ったら摂っていいんです。自然と便秘も解消され、体も温まります。
- 麻木
- 私は東洋医学に基づいた薬膳を勉強しているんですが、自分の体に耳を傾けることは大切ですね。ホームページなど拝見すると、9泊10日などかなり長期にわたるファスティングもあるようですが、4日間は短いでしょうか。
- 石原
- いやいや4日でも胃腸が休まることで活力が増します。4日後には十分に効果が実感できると思いますよ。
血のめぐりを良くする、つま先立ちや両手運動を石原先生自ら実践。
養生体験ルポ
麻木久仁子さんが3泊4日のファスティングを体験!
『不安もありましたが気分良く過ごせました』
麻木さんが今回体験した
3泊4日のスケジュール
1日め
- 16:00 チェックイン
- 17:45 ニンジンリンゴジュース
- 18:30 瞑想
2日め
- 7:00 一碧湖ウォーキング
- 8:00 ニンジンリンゴジュース
- 9:30 ストレッチ
- 10:00 具なし味噌汁
- 12:00 ニンジンリンゴジュース
- 13:00 ティータイム
- 17:45 ニンジンリンゴジュース
3日め
- 7:00 診察
- 8:00 ニンジンリンゴジュース
- 10:00 具なし味噌汁
- 12:00 ニンジンリンゴジュース
- 13:00 ティータイム
- 17:00 重湯
- 18:30 ヨガ
4日め
- 8:00 ニンジンリンゴジュース(1杯)
- 10:00 お粥
- 11:00 チェックアウト
1日め
日常のせわしなさを逃れ
ゆったりとした時を過ごす。
伊豆高原(静岡県)のファスティング施設『ヒポクラティック・サナトリウム』で、3泊4日のファスティングに挑戦する麻木さん。
客室には、生姜湯の大きなポットと黒砂糖、天然塩、紅茶のティーバッグが常備されています。
「さっそく、生姜湯で淹れた紅茶に黒砂糖をたっぷり入れて飲むと、体がぽかぽかと温まるのが分かります。ファスティングへの不安や気負いがするすると解け、これなら4日間続けられそうだと感じました」(麻木さん)
生姜湯
黒砂糖・塩
部屋には生姜湯と黒砂糖、無精製の塩、紅茶のティーバッグが常備される。
17時になると食堂に移動して、ニンジンリンゴジュースを摂る時間です。トレーに3杯のジュースとレモンが乗せられて提供されます。カウンターに置かれた薬草茶と生姜、梅干しはセルフサービス。いくらでも摂ってかまいません。
「ジュースをゆっくりと噛み締めるように味わうと、ほのかな甘さが体内に沁みわたるようです。ニンジンは嫌いではないし、おいしいですよ」
ニンジンリンゴ
ジュース(3杯)
「朝、起き抜けの1杯が本当においしい」と麻木さん。自然な甘みを感じながら、噛むようにゆっくりといただきます。
「ニンジンリンゴジュース」の作り方
【材料】ニンジン大3〜4本または小5〜6本、リンゴ1/2個、レモン適宜
ニンジンとリンゴそれぞれを適当な大きさに切ってジューサーで搾ります。ニンジンは頭と先だけ切り落として、皮は剥かずに使います。リンゴも茎の部分は取り除きますが、皮とタネはそのまま使います。レモンを絞るとさっぱり爽やかに。
飲み終わったあとは瞑想の時間(約30分・希望者のみ参加)。キャンドルの揺らめきを感じながら、講師の落ち着いた声に従いゆっくりと目を閉じます。
「雑念を払い、何も考えないことに集中すると、日頃いかにせわしなく思考が行き来し、脳がマルチタスク状態であったかを実感します。瞑想の後は心地よく穏やかに眠りにつくことができました」
瞑想
「雑念をなくして集中することは難しい。でも、終わった後はとてもリラックスできました」
2日め
まずは体から出して
そのあとに吸収する。
一碧湖
ウォーキング
「道が平坦なので歩きやすいです」と麻木さん。ガイドさんが水鳥や季節の野花の名前を教えてくれます。
2日めの朝は、早起きしてガイドさんとともに一碧湖(いっぺきこ)の周りをウォーキング(約1時間・要予約)。この日は快晴にも恵まれました。
「ガイドさんから伊豆の自然について説明を受けながら、約1時間の散策は、良い気分転換にもなりました」
戻ったらジュースをいただき、その後はストレッチ(希望者のみ参加)。
「ハードに身体を伸ばすのではなく、自分で自分をほぐすように、無理なく身体を動かすストレッチで血が巡り、身体はぽかぽかと温まってきました」
次は具なしの味噌汁をいただきます。ていねいに昆布と鰹節で出汁をひき、さらに数種類の野菜を煮込んで作った味噌汁は、深い味わいで空腹を癒してくれます。
「最初は、滞在中にこれほど塩分を摂っていいのだろうかと思いましたが、石原先生が『頭で考えず、本能に従うこと。そして、施設内のサウナや温泉で先に汗をかき、その後、塩を取り入れること。呼吸もそうですが、何事も出すのが先で入れるのはあと』とおっしゃっていた言葉に安心しました」
具なし味噌汁
昆布と鰹節で出汁をひき、玉ねぎや白菜、ニンジンなどの野菜を煮込んでざるで濾した汁に信州味噌を溶いている。
午後にはティータイムがあり、毎回登場するローズヒップティーのほか、オリーブ茶やごぼう茶、カモミール、延命茶(野草ブレンド茶)などが食堂に並びます。生姜湯や生姜紅茶以外の飲み物が欲しくなっても安心です。
「ニンジンリンゴジュース、生姜湯、黒砂糖や塩と、摂っていいものがたくさんあって、それほど辛くはありません。ファスティングのイメージに反し、ひっきりなしに何かしらを口にしている気がします(笑)」
ハーブティ
ティータイムには数種類のハーブティがスタンバイ。
3日め
頭と体が澄み切って
クリアな感覚が甦る。
早朝、石原先生の診察を受けた麻木さん。国際薬膳師の資格を持つ麻木さんは東洋医学にも精通しています。
「私は持病があるわけではありませんが、石原先生に診てもらえるので、仮に体調を崩しても安心してファスティングに臨めます」
診察後、石原先生から『半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)』を処方されました。
「半夏厚朴湯は喉のつかえを取り、気の巡りをよくするお薬なので声を使う仕事が多い私にピッタリです」(麻木さん)
「お通じがよくない」という麻木さんの悩みには、便秘に効くマグネシウムを錠剤ではなく天然塩や黒砂糖から摂ることを石原先生は勧めます。天然塩や黒砂糖にはマグネシウムの他にもミネラルやビタミンが豊富で、体を温める作用が期待できるといいます。
「帰ったら、食事はきんぴらごぼうやお赤飯、わかめの味噌汁、ひじき煮など、食物繊維が豊富で温かいものを意識して食べましょう。生姜はたっぷり摂ってください」と、石原先生は体を温めることの重要性を説きます。便秘気味の方は腹巻でお腹を冷やさないことも大切だそうです。
さてファスティングも3日めとなり、「心なしか集中力が増してきました」と麻木さん。頭や体が澄み切ってクリアになったところで、夕食は回復食として玄米の重湯を食べます。
玄米の重湯
(3日めの夕食)
3日めの夕食から回復食がスタート。30分炒ってから炊く玄米の重湯は食欲をそそる香ばしさ。具なしの味噌汁、大根おろし、梅干しがセットに。
「とってもおいしい! 舌が敏感になっているのがわかります。普段、重湯を好んで食べることはありませんが、一口ひとくちを味わっていただきます。久しぶりに口にする固形物に胃腸がびっくりしないよう、ゆっくりと口に運びました」
夕方からの陰ヨガ(1つのポーズを長く保ちながら身体の深部を刺激していくヨガ)に参加(希望者のみ)。
「難しいポーズがほとんどなく、内なる声に耳を傾ける安らぎのひと時です。“自分の体をパワースポットにしましょう”という講師の言葉が心に響く、充実した時間になりました」
ヨガと
ストレッチ
「身体が硬いため少し不安でしたが、ストレッチは気持ちが良かったですし、陰陽五行思想による陰ヨガで身体も心もゆったりと解放できた気がします」
4日め
ファスティングで
体内センサーの錆落とし。
早朝に小鳥のさえずりで心地よく目覚め、体調が万全なことを確認できた麻木さん。
「不思議なもので、石原先生に“好きなだけ食べていいですよ”と言われた黒砂糖も、ある程度摂った後は満足して、自然に手が止まりました。
これまで、健康になるためには“食べなくてはならない”という固定概念が強すぎたり、漫然と若い頃と同じ量を食べていたことに気づきました。そんな食生活が体の内にある、健康を保つためのセンサーを錆びつかせていたのかもしれません。ファスティングはそのセンサーの錆落としに有効だった気がします」
石原先生が提唱される「本能の赴くままに好きなだけ」は、健康な心身であれば自ずとリミットがあり、“足るを知る”ものになるのかもしれません。
朝食はいよいよお粥です。普段ならさもない量と感じる食事でも、ファスティング明けの身には大変なごちそうです。施設責任者で石原先生の奥様エレナさんから「玄米のお粥は36回噛むことを意識してみてください」と言われ、麻木さんは口の中に何もなくなっても噛み続けるほどの気持ちで、意識的にゆっくりと口を動かします。
湯豆腐やお粥
(4日めの朝食)
4日めの朝食は湯豆腐や納豆、しらすおろし、具入りの味噌汁と漬物にお粥。
「お粥を一口食べてみて、『あ、空腹だったんだ』と気づきました。慌てず急がず、心からおいしさを感じながら、ゆっくりと食事を終えました。ファスティング後の食事も大切なので、帰宅してからも気をつけます」
チェックアウトでは、すっかり顔見知りになったスタッフが笑顔で麻木さんを見送ります。
「東洋医学を背景にした石原先生の理論に加え、数時間おきのニンジンリンゴジュースや具なしの味噌汁、日替わりで行われるさまざまなアクティビティ(体験)、部屋に常備された生姜湯や黒砂糖、天然塩などがあったので、ファスティングをそれほど苦労なく続けることができ、心身のリセットになりました」(麻木さん)
4日間お疲れ様でした!
「身体の錆落としができました」とスタッフに笑顔で別れを告げる麻木さん。
麻木さん、4日間のファスティング体験後の日常食の変化
ファスティング体験後は、1日1.5食を続けています。朝はファスティング中にも飲んでいたニンジンリンゴジュースをレシピ通りに作って飲んでいます。
昼はしっかり食べて(写真参照)、夜は具沢山の味噌汁をお椀に一杯という生活を続けています。「昼ではなく、夜にしっかり食べるのでもいいですよ」と石原先生はおっしゃっていましたが、私はお昼にしっかり食べたほうが、リズムがいいのでそのようにしています。それと、生姜湯も体がポカポカと温まるので、今でも自分で作って飲んでいます。
「オーガニックの生姜パウダーを購入して、毎日生姜湯を飲んでいます」
4日間の滞在で得たものは、自分の体の声をちゃんと聞くということ。現代の生活では「時間が来たから」とか「小腹が空いたから」と、体の声を無視した食事をしてしまいがちです。
1.5食生活は、簡単ではありませんが、小腹が空いたら黒砂糖や小粒のチョコレートをつまむなどして継続しています。このスタイルを40日程度続ければ効果が出てくると伺いました。
せっかくファスティングでリセットする機会を得たので、健康維持のためにも続けていきたいと思っています。
ファスティング後の自炊メニュー。ブロッコリーの茎と葉の味噌汁やプルーンとセロリ入りのキャロットラペ、鯖の塩焼。
ファスティングを体験した施設
ヒポクラティック・サナトリウム
静岡県伊豆高原にある温泉断食道場。医学博士の石原結實氏により1985年に設立。石原医師の指導のもと伊豆の自然のなかで心身のデトックスを行うことができる。
お問合せ先:0557-44-0161
URL:http://www.h-sanatorium.com
取材・文●朝比奈 綾 撮影●倉持真純(ケイプラン)