富士山麓の鳴沢地区に大切に保管されてきた貞観大噴火由来の「富士山溶岩」が、肌着の繊維としてついに製品化された。
　貞観の大噴火によって噴出したマグマは冷えて固まり、その上に木々が芽吹いて青木ヶ原樹海となった。他の地域の溶岩に含まれている酸化鉄の量はわずか2〜8%なのに対して、富士山溶岩（玄武岩）には酸化鉄が10〜12%も含まれているのが特長だ（岩石学II―岩石の性質と分類―』/共立全書より）。
　遠赤外線研究の第一人者、尾谷賢さん（NPO法人北海道産業技術支援協会代表理事）は、その酸化鉄を高く評価しているお一人。 「人間の体の7割は水分が占めていますから遠赤外線を吸収しやすく、体表からおよそ0.2ミリの深さまで届いて熱エネルギーに変わります。他の鉱物の放射率が半分程度まで低下する2～5㎛の波長領域でも、富士山溶岩の遠赤外線放射率がほとんど低下しないのは、富士山溶岩に多く含まれる酸化鉄が影響しているからだと考えられます」
　この富士山溶岩の微粉末をレーヨンに練り込んだわたを糸（フジヒート）に仕上げているのは、わが国の紡績の名門、シキボウ（1892年創業）。 「肌着や靴下用なら、溶岩はレーヨンに混ぜるのがベストです。石油系のポリエステルやナイロンと比べて、植物由来のレーヨンは肌触りも柔らかく吸湿発熱性も高いので、富士山溶岩との相性は抜群でした」（シキボウ戦略素材企画推進室・中条洋子室長）