第3回
メイド・イン・アースの
オーガニックコットンプルオーバー
メイド・イン・アース
1995年に設立された、オーガニックコットンの専門ブランド。会社名はチーム・オースリー。
綿花の栽培方法だけでなく、加工方法までオーガニックに徹底的にこだわった製品づくりに定評がある。
カンボジアの地雷原を綿畑に変えるプロジェクトや国産の和綿を育てるプロジェクト、布ナプキンの普及活動などにも積極的に取り組んでいる。
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メイド・イン・アース/
チーム・オースリー代表
前田 剛さん
1989年にチーム・オースリーを創業。当初は広告関係の仕事をしていたが、設立5年めから、まだ日本ではほとんど知られていなかったオーガニックコットン製品の開発・販売をはじめる。2016年に日本オーガニックコットン協会の理事に就任、2019年からは理事長も務める。
初めて知って衝撃を受けた、コットンをめぐる“真実”
そもそも私がオーガニックコットンを知ったのは、90年代の始め頃のこと。当時はまだ知られていなかったオーガニックコットンを日本へ持ち込んだ、ある方との出会いがきっかけでした。
当時、私は広告関係の会社を始めて数年たった頃で、その方たちがオーガニックコットンを日本に広めるPRのお手伝いをしていたのですが、そのときに知ったコットンをめぐる“真実”に衝撃を受けました。
世界のコットンの約8割は、アジアやアフリカなど人件費の安い発展途上国で生産されていて、生産者の多くは貧困層とされる零細農家です。
近代の綿花栽培では、病害虫を防いだり発芽促進剤を使ったりなど、より効率よく大量生産できるように遺伝子組み換えされた種が主流になっています。自家採種ができないので、生産者は毎年、巨大メジャーと呼ばれるグローバル企業からその種を買い、さらに化学肥料や除草剤、殺虫剤、落葉剤(枯葉剤)といった農薬を使って栽培しているのが実状です。
世界のコットン生産を支える、発展途上国の綿畑。
かつては盛んに綿栽培が行われていた日本でも、いまや自給率はほぼ0%です。
農家の多くは資金を持っていないので、それらを買うために高い金利で借金をして栽培を始めることになります。春に種を植えて約半年をかけて育て、秋に収穫が終わると仲買人に売って、借金を差し引いたわずかな金額が収入です。
例えばインドでは、綿花農家の平均的な農地の広さと収穫量は、1ヘクタール(=およそ3000坪)で530kg程度ですが、売った時の平均単価は2021年の場合で1kgあたり2.78ドル。1ドル150円として計算すると、全部で22万円程度で買い叩かれます。
それでも無事に収穫できればまだいいですが、不作や天候不順で収穫が少ない年は大変です。借金が返せずに自殺してしまう農家の話も珍しくありません。
また、特に収穫時の綿摘みは大量の人手が必要なので、児童労働や強制労働の問題もこれまで繰り返し報告されています。
農薬による環境汚染や、農家の人たちへの健康被害の問題も深刻です。
直接口に入れる食べ物ではないということもあり、他の農作物に比べて綿花栽培では大量の農薬や殺虫剤が使われています。でも途上国では防護服を着るなどの対策もせずに、農家が素手で毒性の高い農薬や殺虫剤を散布していますから、体を壊すのは当たり前です。
秋にはじけた綿の実を手作業で収穫するのは、とても手間のかかる作業です。
一方、機械で効率よく収穫するために落葉剤を飛行機で空中散布するところでは、環境への影響が懸念されています。
こうした“真実”に衝撃を受けた私は、その後もPRの仕事を通じて深く学んでいくうちに、自分でもオーガニックコットン製品をつくり、世の中に広めたいと強く思うようになりました。
それで1995年にはじめたのがメイド・イン・アースです。
オーガニックコットンへの転換が、農家の暮しを変えていく
メイド・イン・アースは立ち上げた当初からオーガニック栽培された綿花だけを使うことはもちろん、糸や生地にするまでの製造工程、さらに縫製糸やネームタグに至るまで、すべてにおいて徹底的にオーガニックにこだわった「純オーガニックコットン」の製品をつくっています。
今回ご紹介する『オーガニックコットンプルオーバー』は、「bioRe(ビオリ)プロジェクト」がつくっている無農薬・無化学肥料のオーガニックコットンを使っています。ビオリプロジェクトは、スイスのリーメイ社が中心となって始めた、持続可能なオーガニックコットン生産のためのプロジェクトです。
その活動はまずインドとタンザニアの契約農家約5000軒に対して、農薬や化学肥料を使う従来の綿花栽培からオーガニック栽培へ転換するためのトレーニングに始まり、契約農家が育てた綿花を市場の相場に最低でも15%上乗せした価格で継続的に買い取る保証をしています。
さらにプロジェクトを通じて子どもたちへの教育、医療や水源のインフラ整備、就農への資金援助、女性の就労支援など、農家が貧困から脱して自立するための多方面にわたるサポートを提供している点も大きな特長です。
©︎Remei AG/Panoco Trading Co., Ltd.
ビオリプロジェクトは、2003年の世界環境サミットで国連の「持続可能な開発パートナーシップ賞」を受賞しているほか、2004年にフェアトレード認証のSA8000も取得しています。
契約農家はコンポストで堆肥を作ったり、ニンニクを使った虫除けを自作したり、指導員のアドバイスを受けながらオーガニック栽培のやり方を学んでいきます。従来より作業の手間はかかりますが、借金を抱えることもなく、農薬の害を受ける心配もありません。
秋の収穫期には綿花を1つ1つ手で摘んでゆきますが、近所の何軒かで助け合いながら大勢の人がワイワイ集まって摘んでいくようすは、昔の日本の稲刈りを思い出します。
適正な収入を安定して得られるようになった農家では、家を修繕し、服を買い、新鮮なミルクを得るための牛を飼い、子どもたちを学校に通わせることができます。日本人の生活から見たらまだまだ十分とは言えないかもしれませんが、プロジェクトの長年に渡る取り組みによって、地域全体の生活水準は着実に豊かになってきているそうです。
こうして栽培農家で1つ1つ、ていねいに手摘みで収穫された綿花は、各農家からジーニング工場(繊維と種を分ける工場)へ運ばれていきます。種を除去して圧縮されたコットンは、インドにあるビオリプロジェクトの紡績工場へ運ばれ、糸にしたものを日本に輸入して生地を織り上げます。オーガニックコットンならではのやわらかな風合いを損なわないように、生地づくりから製品化の工程でも化学薬品による糊づけや脱脂・漂白などは一切しないのが私たちのこだわりです。
メイド・イン・アースの『オーガニックコットンプルオーバー』。
無農薬・無化学肥料のオーガニックコットンを使うのはもちろん、縫製糸や商品タグに至るまで、徹底的にオーガニックにこだわってつくっています。
ビオリプロジェクトのような活動をしている団体は少しずつ増えてきてはいますが、それでもコットン全体の生産量におけるオーガニックの割合は、1~2%程度に過ぎません。
ここ2~3年はSDGs推進の高まりもあって大手企業がドッと参入し、オーガニックコットンを奪い合うような問題も起きています。この需要が今後も長く継続してくれればいいのですが、今の状況を見ていると一過性の流行で終わってしまいそうな危うさも感じます。
また、素材にオーガニックコットンを使っていても、それを化学薬品で漂白したり、化繊の糸で縫製されていたり、仕上げに合成洗剤を使ったりしている場合も多々あって、本当にオーガニックと呼べるのか疑問に思ってしまうようなケースもあるようです。
徹底してオーガニックにこだわっているコットン製品は、やはり肌に触れた時のやわらかさや風合いが違います。特にアレルギー体質の方やアトピーなどお肌がデリケートな方や、化学物質過敏症の方は微量の化学薬品でも肌荒れなどの反応が出てしまうことがあるので、ぜひ製造工程も含めてしっかり確認して選んでください。