サッカー界のレジェンド、澤穂希さん。出場数は205試合を誇り、男子も含めて日本代表史上最多。太陽と共にまばゆく戦ってきました。その勲章として、目元や頬には日焼けの名残りが…
「サッカーの先輩たちも『引退後、一気に肌にガタがくるよ』って。44歳になりましたし、今後のシミ・シワ、かなり気になります」
澤穂希さん
さわ・ほまれ●15歳で日本代表入り。オリンピック4大会、ワールドカップ6大会出場。2011年FIFA女子ワールドカップ優勝。同年度「FIFA女子年間最優秀選手」受賞。
小柳衣吏子さん
こやなぎ・えりこ●アオハルクリニック院長。日本皮膚科学会認定皮膚科専門医、日本美容皮膚科学会会員、日本抗加齢医学会専門医。著書に『美肌の王道』(日経BP)がある。
前編
- 小柳
- ワールドカップでゴールを決める澤さんのお姿、いまも鮮やかに思い出せます。選手を引退されてから8年経ったなんて驚きました。
- 澤
- あっという間でした。娘はこの春、小学生になります。現役時代の仲間とは今も会うのですが、必ず「肌の問題、気になるよね」という話になるんですよ。サッカー選手って、本っ当に日焼けがすごくって。短パンとソックスで隠れる部分はいいんですけど、膝は真っ黒に焼けてしまって、脱ぐと肌が白黒白のシマウマ柄(笑)。
- 小柳
- それはすごい。顔なんてもっと日差しが直撃するでしょう?
- 澤
- だから、シミやそばかすがすごく多い子もいれば、乾燥して口周りに「はたけ」ができている子もいます。サッカー選手の宿命ですね。
澤さんの紫外線ヒストリー❶
太陽の下、鬼ごっこやサッカーに熱中(写真提供 メイブリーズ)。
- 小柳
- 澤さんがサッカーを始められたのはいつですか?
- 澤
- 6歳からです。それまでも男の子に交じって外で元気に遊んでいたので、思えばずっと日に焼けていました。サッカーを始めてから37歳で引退するまで、ほぼ毎日、太陽の下でランニングや練習、試合に打ち込んでいました。
- 小柳
- 澤さんの肌が浴びてきた紫外線の量は、われわれとは比べものになりませんね。おそらく80歳の方がこれまでの人生で浴びた分を、すでに上回っているのではないかと思います。
- 澤
- それ、全部シミになりますか? 実はすでにこめかみや頬骨周りにシミがぽつぽつ出てきています。
- 小柳
- シミは、医学的には日光性色素斑といって、紫外線ダメージを防ぐための色素「メラニン」が生成されることでつくられます。メラニンが一定量溜まると、新たなシミが肌に浮き出てくる。つまり、肌の下には今はまだ見えていない「シミ予備軍」が控えています。
- 澤
- 私の予備軍、すごいかも……。
- 小柳
- 皮膚画像解析カメラ「VISIA」で確認してみましょう。私もクリニックの診察に取り入れている機器で、肌の表面のシミ・シワはもちろん、シミ予備軍の数もわかります。
- 澤
- 結果が怖いです(笑)。先生、よろしくお願いします。
澤さん「44歳の肌」を最新マシンで解析。気になるシミは……?
- 小柳
- 忖度なしでズバッと「肌の現状」をお伝えしますね。撮影した画像(下写真)を解析したところ、表面に浮き出ているシミは122個、シミ予備軍は313個。ちなみに目元のシワの本数は、右が70本、左が66本でした。
- 澤
- うわー、そんなに! 数字で聞くとズシッときますね。シミ予備軍は300個以上なんて……。
- 小柳
- いえ、ハッキリ言って拍子抜けです。私のクリニックの診察データに基づけば、300個は40代女性のごく平均値ですから。
- 澤
- えっ、そうなんですか?
表皮の下に眠る「シミ予備軍」をチェック。
皮膚画像解析システム『VISIA® Evolution』で2023年2月6日に撮影。
黒い点の一つ一つが、表面化の可能性がある「シミの種」(右上写真)。
- 小柳
- 表面シミも視認できるものは上下眼瞼や目尻に15点、頬や口周りには12点ほど。いずれも小さく薄いシミで、一般的な40代女性よりものすごく少ない。「あれだけ太陽を浴びてきた超一流選手の肌とは思えない」が正直な感想です。アスリートの患者さんも数多く診察してきましたが、この結果は例がありません。澤さん、もしかしてレーザー治療でシミを取っていらっしゃいます?
- 澤
- いえいえ、全然!
- 小柳
- セルフケアのみですか!? こうもシミを抑えられているということは、選手時代から日焼け止めをかなり塗っていらした?
- 澤
- 25歳までは一切塗っていなかったんです。先輩に薦められて、最初は「え、なんで?」って。黒く焼けた肌ってカッコいいじゃないですか。でも「後々、来るよ。本当にやった方がいいよ」と熱を込めて言われて、それから練習前に顔と手と首と膝、あと耳にも塗るのが習慣になりました。
日差しが当りやすい頬骨やこめかみは重点的に重ね塗りを。
- 小柳
- さすが、一度やると決めたら徹底されるんですね。最近は女子プロゴルファーの方も顔は真っ白になるまで日焼け止めを塗っていらっしゃいますが、たいてい「耳なし芳一」のように耳は塗り忘れています。澤さんは一歩先を行っていますね。塗り直しはどのくらいのタイミングでされていましたか?
- 澤
- 試合中はハーフタイムに入ったら、お手洗いのついでに塗り直していました。
- 小柳
- ワールドカップの時もですか?
- 澤
- はい。日焼け止めは海外遠征にも必ず持って行って、丸々1本を使い切る勢いで塗っていました。
- 小柳
- 素晴らしいとしか言いようがないです。なでしこメンバーも皆さん、紫外線ケアを徹底されていた?
- 澤
- 選手それぞれです。日焼け止め、化粧下地、ファンデーションの三段重ねでガードしていたのは私くらいかもしれません。試合で汗をかいても落ちないようにしたくて。
澤さんの紫外線ヒストリー❷
日焼け止めの成果で肌に明るさが復活(撮影 川窪隆一/アフロスポーツ)。
- 小柳
- スポーツ中はファンデーションを塗り重ねなくても大丈夫です。日焼け止めを塗り直す時にヨレてしまいますから。私もゴルフ中はノーファンデ。日焼け止めだけはグリーン上で鏡も見ずに小まめに塗り直しています(笑)。顔全体に塗った後、頬骨やこめかみを重点的に重ね塗りするのもおすすめです。シミの好発部位といって、とくに日差しが当りやすいんですよ。
- 澤
- なるほど。今も毎朝1時間ランニングしているので、さっそく実践してみます。マスクの下にも日焼け止めを塗った方がいいでしょうか?
- 小柳
- 不織布は紫外線を通しますからね。夏場は汗でムレてすぐに日焼け止めが落ちてしまうので、ランニング後は必ず塗り直してください。ランニングの時は腕にも塗っていらっしゃいますか?
- 澤
- 私、半袖はあまり着ないんです。それこそ日焼け止めを塗り始めた25歳以降は、真夏でもほとんど長袖でした。なぜか腕は日焼け止めを塗るとちょっと痒くなってしまうんです。
- 小柳
- 保湿不足かもしれません。肌の水分や皮脂が低下すると、乾いて敏感になりやすいのです。しかも日焼け止めの紫外線カット成分は、時間がたつときしむ、つまり乾燥しがち。保湿成分が豊富なものを選ぶか、日焼け止めを塗った上からボディローションで潤いを補うのもひとつの手です。
- 澤
- さっそくやってみます。
後編
「老け見え」の原因となる縦ジワ、たるみも紫外線ケアが左右する。
- 小柳
- そもそも日焼けは、脱水などにもつながるれっきとした「やけど」ですからね。肌のバリア機能を担う「角質層」がダメージを受けて、それを回復しようとターンオーバー(肌の生まれ変わり)を過剰に進めてしまう。その結果、ただでさえ加齢で減っている脂質まで排出されてしまうのです。夏場もぜひセラミドなどの保湿成分を積極的に補っていただきたいです。
肌老化の実に7割は紫外線が元凶。
蓄積したダメージがシミ・シワになる。
- 澤
- 目尻のシワにも効果がありますか? 今は化粧水と乳液を朝晩つけて、パックはごくたまにするくらいなんです。さっきの肌診断で、私、シワが70本もあったのでとても気になります。
- 小柳
- 澤さんのシワは乾燥というより、表情が豊かゆえだと思います。とはいえ、目元は皮膚の厚みが頬の約7割と薄く乾燥しやすいので、夜だけでもスキンケアの仕上げにアイクリームやシワ対策の保湿化粧品を塗り重ねてあげるといいですよ。「お手当」を意識して、手のひらで温めてからやさしくなじませると肌に浸透しやすくなります。
- 澤
- 今晩からやります(笑)。でも、表情が豊かって言ってもらえると、シワも「たくさん笑った人生の証明」みたいでうれしくなりますね。
- 小柳
- 横に走る笑いジワはチャームポイントですよ。問題は、老けて見えるほうれい線などの縦のシワ。澤さんは診断画像で目立っていなかったので大丈夫です。それに40代に入るとあご周りがダルっと緩むものですが、澤さんはフェイスラインも締まっていますよね。
- 澤
- やった! でも、たるみのケアは何もやっていないんですが。
- 小柳
- やはり、これまでの紫外線対策が功を奏したのだと思います。シワもたるみも紫外線の影響が大きくて、日光にたった5分、それも1日おきに当るだけで、肌の弾力をつくるコラーゲンやエラスチンを破壊する「MMP」酵素が増えるという研究報告もありますから。ベランダで洗濯物を干す、ちょっとコンビニに醤油を買いに行く時も日焼け止めを必ず塗っていただきたいです。
- 澤
- サッカーの練習と同じで、地道な積み重ねが実を結んだなら、とてもうれしいです。
- 小柳
- まさに、ですよ。澤さんの肌が浴びてきた紫外線ダメージの量を思えば「シミ、シワだらけ」が当然ですから。
〝体にいい〟は〝肌にいい〟。野菜は1日700グラム摂取を。
- 小柳
- 澤さん、何か悪いことはしていないんですか?
- 澤
- えっ⁉
- 小柳
- あ、「肌に」です。
- 澤
- びっくりしました(笑)。タバコは吸いませんし、お酒はたしなむ程度です。ワインのポリフェノールは抗酸化作用があるっていいますよね?
- 小柳
- 確かに含まれますが、アルコールを分解する際に発生する毒性物質の「アセトアルデヒド」が人体に及ぼす悪影響が非常に大きいので、現在の医学界では「どのお酒も健康に悪い」が定説です。と言いながら、私はお酒が大好きなのですが。
- 澤
- なのに、どうして肌がおきれいなんですか?
- 小柳
- 食事はかなり気を付けています。毎日クリニックに野菜弁当を持って行っていて、キャベツとピーマンの千切りとカットトマトを大盛り。
- 澤
- すごい、ヘルシーですね。
- 小柳
- 夏の緑黄色野菜には、紫外線から身を守るためにつくり出したポリフェノールやカロテノイドが豊富に蓄えられているので、その恩恵はぜひ取り入れたいです。抗酸化力にすぐれたビタミンCや肌の代謝を促すビタミンB群もいいですね。
図/農民イラスト
- 澤
- うちの食卓も野菜中心です。娘に「お弁当で一番好きなのはトマト」と言われたときは「あら〜。ママの手料理は?」と思いましたけど(笑)。肌のためには一日どれくらいのお野菜を摂るのが理想ですか?
- 小柳
- 厚生労働省の推奨量は一日当り「野菜350グラム」と「ビタミンCは100ミリグラム」ですが、私は野菜はその2倍、ビタミンCはサプリも併用して1000ミリグラム以上摂っています。
- 澤
- 選手時代から痛感していましたけど、やっぱり食が体をつくる。肌もそうなんですね。
- 小柳
- 仰るとおりです。肌は人体最大の臓器ですから、体にいいものは、肌にもいい。
睡眠は、紫外線による肌へのダメージを修復してくれる。
- 澤
- 私、引退後にスポーツ栄養プランナーの資格をとって、今は食生活アドバイザーの資格取得に向けて勉強中なんです。家族の健康のために勉強したことを毎日の食卓に取り入れています。これからは自分へのご褒美で、美容のエッセンスも食事に入れてみようかな。
- 小柳
- 美容は楽しまないと続かないですからね。生活習慣では、睡眠も重要です。睡眠時に分泌される成長ホルモンは、紫外線による皮膚細胞のダメージを修復してくれますし、シミのもと、メラニンの排出も後押ししてくれます。
- 澤
- よし、たっぷり寝て私のシミ予備軍も眠らせます(笑)。それでも目覚めてしまったシミは、レーザーで取るしかないんでしょうか?
- 小柳
- レーザーで取ることはできますが、術後に日焼け止めや保湿をおこたれば、3〜5年で同じ場所によみがえりますから、やはりケアが大事。
- 澤
- ちゃんとケアしていれば、一生、シミの表面化を防げますか?
- 小柳
- もちろんです。肌は人生の履歴で、努力した分だけ成果が表れる。澤さんの肌はまさにその証明です。
- 澤
- うれしいです。外のスポーツをやっている子たちにも「ちゃんとケアすれば、太陽を怖がらなくていいんだよ」と自信をもって伝えられます。
- 小柳
- 忙しくて日焼け止めなんて塗る暇がないと言う患者さんが多いんですが、これからは、「あの澤穂希選手だってハーフタイムに塗り直していたんだから、できます!」って指導します。
- 澤
- あはは!
撮影/高橋マナミ、VISIA撮影協力/ソララクリニック