松本さんと中井さんの「腸内フローラ」をいざ拝見。
- 中井
- ヨーグルトとか乳酸菌飲料の宣伝で、よく「腸内フローラ」という言葉を聞きますよね。
- 辨野
- 正しくは「腸内細菌叢(そう)」と言うんですが、堅苦しくて親しみが持てないでしょう? 多種多様な細菌が密集している様子がお花畑(フローラ)に見えるぞ、と言うんでわれわれの研究グループがひねり出した愛称が「腸内フローラ」。今回はせっかくお目にかかれるということで、お二人にもあらかじめ腸内フローラの検査を受けていただきました。
松本さんと中井さんの腸内フローラは
自宅検査用「マイキンソー」で測定。
検査キットを購入後、自宅で採便して郵送。ネットで生活習慣に関する質問に答えると、約1ヵ月で腸内細菌叢と改善のアドバイスを教えてくれる。
- 中井
- この場で結果をうかがうんですね?
- 松本
- ドキドキ。お腹の調子がわるい頃から辨野先生には便を見てもらっていますから。
- 辨野
- (検査レポートを見ながら)松本さん、前に比べるとすごくいいですよ。お通じはどうですか?
- 松本
- いまは出なくても2日くらい。
- 辨野
- 2日なら大丈夫。努力されましたね。
- 松本
- 便秘外来へ行った最初だけ酸化マグネシウムやビフィズス菌を飲んで、お腹に溜まっていた便が出たあとは、毎日同じ時間にトイレに座りましょうとか、発酵食品を摂りましょうとか、ウォーキングをしましょうとかで、ゆっくりゆっくり改善していきました。
- 辨野
- ただ、ビフィズス菌の割合はまだ少ないですね。ビフィズス菌を増やすために、オリゴ糖を摂るべきでしょう。
- 松本
- 摂ります! 私、便秘が改善してから本当に人生が変わって、睡眠障害や更年期障害も軽くなったし、肩こりも冷えも改善して、性格も明るくなった。便秘時代はネガディブで息子を泣くまで叱っていましたけど、便秘が治ったら放任主義になって息子が拍子抜けしているくらいです(笑)。
- 辨野
- 腸内環境が整ったことで体調が改善して前向きになれたんですね。人間は食物繊維を食べたりして細菌をコントロールしているつもりでいますが、逆に言えば、細菌たちに私たちの方が体と心をコントロールされているのかもしれませんよ。
「自分のお腹に合う食べ物を摂り続けて、体のお便りに耳を澄ませることが健康長寿の第一歩です」辨野さん
- 辨野
- 中井さんは……そうですね、腸内細菌のバランスはわりといい。タイプ的には松本さんと同じで、バクテロイデス属の割合が腸の中で優勢なタイプ。日本人の多くがこのタイプですが、松本さんと違ってファーミキューテス門の割合が高いな。わかりやすく言うと、肥満菌。
- 中井
- 肥満菌?!
- 辨野
- 肥満者に多くいる菌で、増加するとエネルギー吸収を上昇させて肥満症の一因になると考えられています。まあ、バランスの問題です。
- 中井
- 肥満菌を増やさない対抗馬の菌がいたらいいわけですね。
- 辨野
- そうです。いまのところ中井さんのお腹では、肥満菌がやや優勢。
- 中井
- そうです、私、いまどんどん太っていってます……。
- 辨野
- 酪酸産生菌が多いといいけど、これも少ないなあ。酪酸は脂肪の吸収を抑制する機能を持っているから。
- 中井
- すごくいい菌じゃないですか。
- 辨野
- 私も注目している菌です。昔は培養が難しくて「その他大勢」の日和見菌の扱いだったのですが、近年DNA解析で存在が明確になって健康長寿者の腸内に多いことも分かってきた。酪酸は腸内を弱酸性にしたり、腸管の粘膜層を守っている粘液の分泌を促したり、腸の健康に重要な役割を担っていますからね。同じく健康長寿の人の腸に多いビフィズス菌と酪酸産生菌と合せて、私は「長寿菌」と呼んでいます。
- 中井
- ますます増やしたいです。食事やサプリメントで変わりますか?
- 辨野
- すぐに変化する人としない人がいて、私が調べた割合では7対3で変化しにくい人の方が多いですね。それでも松本さんのように少しずつ改善する可能性はありますから、時間をかけて食生活を見直すことは大事です。酪酸産生菌を増やすんだったら、水溶性食物繊維が多いきのこや海藻がいいでしょう。
- 中井
- あ、それだ。私、腹膜炎の術後に食物繊維は控えるように言われて、海藻などは腸管にへばりつくからやめておきなさいって。その記憶が強くていまもあまり食べていないんですよね。
- 辨野
- オペのあとは腸管の機能が落ちているので、先生が大事をとってアドバイスされたんだと思いますよ。
- 中井
- 腸が元気になったあとだったら、摂ってもいいわけですね。
お腹の中では、善玉菌と悪玉菌がせめぎ合っている。
医学的には3日以上排便がないと便秘症とされている。辨野先生のデータでは、日本人女性の48%は便秘に悩んでいるそう。
-
乳酸菌
悪玉菌の繁殖を抑えて腸内菌のバランスとるだけでなく、コレステロールの低下や免疫機能を高める働きがあると言われる。
-
痙攣(けいれん)性便秘
自律神経の働きが乱れることで腸管が痙攣したり、狭くなることで便が進めなくなるための便秘。便の量が少なく、コロコロ状の便の人に多い。
-
直腸性便秘
外出先などで排便を我慢しつづけた結果、便が直腸に入ったときの「直腸肛門反射」が起きくくなり、便意を感じにくくなるための便秘。
-
食事性便秘
食べ物の摂取量が少なく、大腸のぜん動運動が停滞し、便意が起こらなくなるための便秘。ダイエット性便秘とも言われ、若い女性に多い。
- 松本
- 生きたまま腸に届くっていう食べ物や飲み物もありますよね?
- 辨野
- プロバイオティクスといって体にいい働きをする生きた微生物を含んだ食品ですね。ヨーグルト、乳酸菌飲料や納豆といった発酵食品もその仲間。腸内バランスを整えて長寿菌を優勢にし、悪玉菌を減少させて有害物質を抑える働きをします。ただ、口から入れた菌が腸に棲みついて増えると思っている人もいますが、役目を終えたら便とともに去っていくので、毎日摂り続けないと意味がない。
- 松本
- ズバリ、どのメーカーの食品がいいとかあるんですか?
- 辨野
- 自分のお腹に合うと感じたら何だっていいんですよ。とにかく続ける。量もしっかり取る。運動もする。その結果届いたお腹からのお便りと向き合って、菌たちとうまく共生していく……おっと、何だっていいなんて言ったら、お世話になっているメーカーさんたちに怒られちゃうな(笑)。