新入学に必要な費用が不足する世帯に「入学・新生活応援給付金」を届けているのが、「公益財団法人あすのば」です。昨年までの10年間に読者のみなさんからお寄せいただいた7億3613万4824円のカンパはすべて、支援を必要とする子どもたちの手に渡してきました。来年の春、ひとりでも多くの子どもたちが期待で胸をふくらませて学校の門をくぐれるよう、あたたかな応援をお願いいたします。
「我慢」を「あきらめ」にしてはいけない。
そのためにお金が役立つこともある。
作家・重松清さんが、過去に 「入学・新生活応援給付金」を受け取った若者2人に話を聞きました―
しげまつ・きよし/1963年生まれ。家族や現代社会の痛みに寄り添う物語で人気の直木賞作家。
ばん・あいり/2007年生まれ。大学1年生。中学入学時に給付金を受け取る。
とみい・ひろむ/2005年生まれ。高等専門学校専攻科1年生。高専編入時に給付金を受け取る。
- 重松
- 今年の春、あすのばから「入学・新生活応援給付金」を受け取った親御さんの声を見ていて、「我慢」という言葉がたくさん使われているのが印象的でした。二人は子ども時代、我慢しなきゃいけない経験があったのかな?
- 冨井
- 体験活動がまわりの子よりできていなかったと思います。友だちと夏休みの思い出を話すときも、あんまり話題がない。それでまわりから少し置いていかれて、自己肯定感が上がりませんでした。
- 重松
- まわりが仲間外れにする意識がなくても、自分の中で疎外感を感じていた?
- 冨井
- 自分がほかの人と比べやすい考え方だったのかもしれませんが、少し劣等感を感じていたと思います。
- 重松
- 最近、「体験格差」なんて言葉をよく耳にするけれど、夏休みにいろいろな経験をした子どもとそうでない子に差が出てしまう。伴さんは家庭でさみしさを感じたことはあった?
- 伴
- 私はお母さんと二人暮しでしたけど、こども食堂や学童にいることが多かったので、さみしさはなかったです。
- 重松
- お母さんを見ていて、「無理してるな」と感じたことは?
- 伴
- 夏、暑いからエアコンを私の部屋につけてくれたんですけど、お母さんの部屋にはつけなくて。自分よりも子どもを優先していることが多かったです。
- 重松
- それはもちろんうれしいことだけれど、同時に申し訳ない気持ちも……。
- 伴
- やっぱりありました。学費など学校でお金が必要なときはお母さんに負担がかかってしまうので、すごく申し訳なさを感じていました。小学校に入学するときも、お店で売ってたランドセルは高くて買えませんでした。たしかお母さんがフリマアプリで用意してくれたんじゃなかったかな。
- 冨井
- 僕も体験活動の案内があっても、やってみたいとは軽々しく口にできなかったです。
- 重松
- 「最近の若いヤツは我慢ができない」と言われることも多いけれど、百歩譲って「我慢」しなくてはならない場面があったとしても、いちばんの問題は、それを「あきらめ」にしてはいけないということ。そのためにお金が役に立つこともあると思うんだ。
お金の余裕もできたけれど、心の余裕というか、気持ちがすごく楽になりました。――伴さん
多感な時期は、まわりと少し違うだけで
負い目を感じてしまう。
- 重松
- 今回、取材の準備をしていてびっくりしたのが、新生活に必要なお金のほとんどが4月の入学時より前に納めなければいけないこと。自治体なんかの支援は入学後に振込まれるから、「借金」をして負担している親御さんも多い。あすのばの給付金は3月に受け取れるようだけど、二人は何に使ったか覚えてる?
- 伴
- 私は中学入学のときに受け取って、制服と学校で使う道具や参考書などを購入しました。
- 冨井
- 僕が受け取ったのは、高校を卒業して高専(高等専門学校)に編入したときです。入学式に着るスーツや通学用かばんに使いました。スーツは去年、高専本科の卒業式でも着ました。
- 重松
- 今後、就職活動でも使えるかな。僕も高校・大学と奨学金をもらって通っていたから教育実習に着ていくスーツがなかった。先輩に借りたら、もうダボダボで(笑)。理系の学校だと、入学後も文系以上にお金が必要だった?
- 冨井
- 高校が工学科だったので、作業服や工具などを購入する必要がありました。高専では、レポートのためにパソコンを各自で用意するように言われて。進学するごとに何らかの出費がありました。
- 伴
- 私は農業高校でしたが、実習費がかかりました。学校指定の作業服や白衣も必要で、中古のものを探して買いました。みんな真っ白の白衣だったけど、私だけちょっとグレーっぽい色で。入学したばかりの頃はまだまわりとも仲良くなる前なので、恥ずかしかったです。
- 重松
- 冨井くんも学校指定のものが多かった?
- 冨井
- 工具や作業服、体操着も学校指定で統一されていました。さらに学年によって作業服の色や体操着の刺しゅうの色が違っていたりして、きょうだい間でも譲れないこともありました。
- 重松
- 大人はさ、「みんな違ってみんないい」と言うかもしれないけど、若い多感な時期ってまわりと少し違うだけで負い目を感じてしまう。二人は給付金を受け取ったとき、率直にどんな気持ちだった?
- 伴
- うれしかったです。もちろんお金の余裕もできたんですけど、心の余裕というか、気持ちがすごく楽になりました。
- 冨井
- 感謝しかないです。親も入学時のお金をどうしようか、顔をしかめながら悩んでいた時期だったので、給付金をもらえて家庭の雰囲気がちょっとよくなりました。
- 重松
- 二人が「うれしかった」と言ってくれてよかった。僕は思うんだけど、「感謝」って言葉に「謝る(あやまる)」という字が入っていて、それが負い目みたいなものを強いている。だからカンパしてもらった責任を背負いすぎないで。「感謝」もいいけど「感激」でいいんだよ。
親も入学時のお金に悩んでいたので、家庭の雰囲気がちょっとよくなりました。――冨井さん
入学の際はすごくお金が必要で、
困っている子どもが今もいる。
- 重松
- 伴さんは今、一人暮しで大学に通っているそうだけど、物価高で生活費が高騰していて大変でしょう。
- 伴
- はい、夏は暑くても扇風機で頑張ってます。あとはアルバイトを3つ。うなぎの専門店、居酒屋、定食屋でやっています。頑張りつつ、でも所得を抑えながら。
- 重松
- 僕が早稲田大学で教壇に立っていた頃の教え子も、「これ以上、働くと親の扶養から外れる」と言いながら調整をしてました。
- 冨井
- 僕は寮生活なのでバイトの掛け持ちはしてないですが、普段は塾講師をしています。実家に帰省したときはスーパーで惣菜をつくるバイトをしています。
- 重松
- 学業とバイトだけでも忙しいと思うけれど、二人はその合間を縫ってあすのばの「子ども・若者委員」の活動をしているそうですね。具体的にどんなことをしているの?
- 伴
- 私がいちばん関わっているのは、小・中学生の合宿キャンプです。私も小学校6年生と中学校1年生のときに参加しました。友だちができたし、普段絶対にできないような経験でした。宿泊費も交通費も食費も負担していただいて、一生の思い出ができました。自分と同じような思いを小・中学生にしてほしいなと思って、高校生になってからはスタッフとして参加しています。
- 冨井
- 僕があすのばに関わり始めたのは1年くらい前からです。年齢は多少違うけれど、同じ目標を持った仲間たちがいるだけで心強い気持ちになりました。あと、子どもに対する問題意識が生まれて、地元でも寺子屋のような地域活動に参加し始めました。自分の中で、少し行動の変化がありました。
- 重松
- 今の小・中学生たちの反応はどう?
- 伴
- めちゃくちゃ笑顔で、昔の自分を見ているかのようです。
- 冨井
- 楽しんでくれている表情を見るのがいちばんうれしいです。
- 重松
- かつて支援を受けた君たちが、今度は応援する側に回っているのがすごくいいと思う。かつての自分のような子どもたちに送るメッセージってある?
- 伴
- 「挑戦しろ!」ですね。我慢したり、あきらめたりせずに、自分のしたいことをしようと伝えたいです。
- 冨井
- 僕は「今を精いっぱい楽しんで」と。
- 重松
-
「楽しむ」ってすごく大事。憲法25条に「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と書いてある。「健康」や「文化的」は曖昧な言葉だけれど、僕は「負い目を持たずに生きていけること」「心にゆとりのある生活ができること」も含んでいると思う。
最後に、通販生活の読者に伝えたいことがあればお願いします。
- 伴
- 新しい学校に入学するときはすごくお金が必要で、かつての私たちのように困った状況にいる子どもたちが今もいることを知ってもらえたらうれしいです。
- 冨井
- 支援を受けた子どもは、きっと〝感激〟していると思います。
- 伴
- 感謝だけではなくてね(笑)。
- 重松
- そうそう、二人ともいいセンスしてるね! あすのばの給付金は、届くのは「お金」だけど、伝わるのは「想い」だって、よくわかりました。来年の春も、たくさんの子どもたちに想いを届けられるよう、僕の今日の出演料も……“感激”の足しにしてもらいますね。
届くのは「お金」だけれど、伝わるのは「想い」だってよくわかりました。――重松さん
「新入学準備金カンパ」を受け取った親子の現実
Q 世帯年収は?
全2012世帯の平均勤労年収は約79万円。約9割がひとり親で、1割は両親のいる世帯。89%が年収150万円未満という厳しい実態です。
Q 新生活の準備に必要な費用は?
小学校
- 費用総額 13万9,224円
- 1位 そのほか…5万8,595円
- 2位 制服以外の服代…1万7,511円
- 3位 教科書・教材代…1万6,633円
「そのほか」にはランドセルに加え、文房具や絵の具セット、各種袋類など、細々とした学用品一式の積み重ねが含まれていて、大きな負担になっています。
中学校
- 費用総額 14万8,396円
- 1位 制服・標準服代…6万3,157円
- 2位 そのほか…5万5,049円
- 3位 運動着・体育着代…2万3,541円
高校など
- 費用総額 39万6,033円
- 1位 学校納付金…19万7,152円
- 2位 そのほか…8万2,617円
- 3位 制服・標準服代…8万2,417円
大学など
- 費用総額 86万9,125円
- 1位 学校納付金…61万2,167円
- 2位 ひとり暮らし住居関連費…19万6,548円
- 3位 そのほか…16万6,229円
4位のパソコン代(約12万円)や「そのほか」に含まれる自動車学校代、スーツ代など、新生活の立ち上げには多額の資金が必要です。
Q 費用はどう捻出した?
(複数回答)
節約の具体策として、約8割が衣類や靴、半数近くが水道・光熱費を削り、さらに食事の回数を減らして工面していました。
Q 何を「我慢」した?
友だちが履いているのと同じような高価な運動靴やリュック、帽子が欲しいという希望は聞いてあげられなかったです。
(岡山県/小学1年生の母)
部活に入りたいというので入部届けを出したとたん、次の日にいろいろなお金を請求されて辞めざるを得ませんでした。
(北海道/中学1年生の母)
夏用体操服を1枚で我慢してもらいました。
(岡山県/中学1年生の母)
高校生になった今年も買い替えられず、いまだに子ども用自転車を使っています。学校指定の制服や体操服、作業着の購入は各1枚ずつが精一杯。パソコンは用意してあげられなかったです。
(福岡県/高校1年生の母)
生活が厳しくなるため進学は諦めてもらいました。入学金はなんとか用意できたのですが、通学の交通費や教科書代など入学後の費用が思ったより高額だったことが理由です。
(埼玉県/社会人1年目の母)