ペリー荻野さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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鎌倉殿の13人

2022/04/30公開

前代未聞の「トホホ」系大河主人公・北条義時。後半戦の展望は?

「三谷幸喜が贈る予想不能エンターテインメント!」というキャッチコピーの通り、怒涛の展開が続く大河ドラマ『鎌倉殿の13人』。その最大の特長は、“主人公が大河ドラマ史上、もっとも腰が引けた人物”ということだ。

 大河ドラマといえば、まずは天才子役が主人公のこども時代を可愛く演じて、視聴者の心をガッチリつかみ、おとなになってからは、大御所スターがずしんずしんと足音を響かせるような重厚な芝居で、歴史偉人の足跡を見せる、というのが定番であった。

 しかし、「鎌倉殿」の主人公・北条義時(小栗旬)は、ずしんどころか、自分の足音にも気を遣うくらいの気配り青年なのである。もともと小四郎こと義時は伊豆の有力武将のひとり北条時政(坂東彌十郎)の次男。特に野心もなく、米の取れ高などをしっかり記録する事務系が得意。このまま平穏な人生を…と思っていた矢先、北条家が源頼朝(大泉洋)を匿ったことから、運命が激変する。

 義時の周囲には強烈な人物が多い。兄の宗時(片岡愛之助)は何かと言えば「挙兵!!」と張り切っていたし、父の時政は京から迎えた若い妻りく(宮沢りえ)にデレデレ。姉の政子(小池栄子)は頼朝と結婚後は女好きの夫に目を光らせる。妹・実衣(宮澤エマ)は、ウワサ好きでもめごとのタネも撒く。義時にとって、こんな家族だけでも大変だが、頼朝が挙兵すると、源義経(菅田将暉)はじめ、実依の夫になる全成(新納慎也)、源範頼(迫田孝也)など頼朝の弟たちや「打倒平家!」と鼻息荒い坂東武者たちが集結。呼んでもいないのに、胡散臭い頼朝の叔父源行家(杉本哲太)や怪しい髑髏を抱えた僧・文覚(市川猿之助)まで現れて困惑は続く。

 それでも打倒平家を掲げて快進撃をするが、まとまりが悪いためにトラブルが多発する。加えて女のバトルも勃発。政子の命令で頼朝の側女亀(江口のりこ)の家が破壊される(史実です)って、こりゃ、たたごとじゃない。そのたびに義時は「小四郎、なんとかせい」と言われて、トホホ顔で走り回ることになる。

 だが、このトホホこそが、ドラマの作戦だ。

 いよいよ、物語は激烈な源平合戦に突入していく。戦の天才、義経は壇ノ浦で、船に次々飛び乗る“八艘飛び”のアクロバチックな技を見せたとも伝わる。菅田義経の見せ場はたっぷり。この義経が、頼朝に追い詰められ、奥州で討たれるのかと思うと、鎌倉の闇はやっぱり深い。本来、源氏の仲間であったはずの木曽義仲(青木崇高)と敵対し、頼朝の愛娘・大姫の許嫁という名目で鎌倉に人質にされていた義仲の嫡男・キラキラ美男の義高(市川染五郎)の悲恋ラブストーリーにも注目だ。

 思えば、滅ぼされる側の平家は家族の結束が固い。義時の北条家もワイワイと本音を言い合える間柄。幼くして流人となり孤独に生きた頼朝だけは、家族のつながりを知らず、身内すら信じられない人間だったのではないか。女好きで人間不信。でも、時々、大将として鋭いところも見せる。大泉洋にしかできない複雑な頼朝だ。

 義時は、身近な人間でも平然と抹殺する頼朝のやり方を目撃するたびに、苦しむ。しかし、頼朝亡き後、跡を継いだ二代将軍・頼家を補佐する13人の一人となり、次々と敵を排除して「執権」というトップの座にのぼりつめる。13人の顔ぶれは、時政、一匹狼的な御家人筆頭の梶原景時(中村獅童)、頼朝の乳母の家の比企能員(佐藤二朗)、幕府軍事長官・和田義盛(横田英司)など強者揃い。彼らを相手に義時はトホホな前半とは別人のごとく冷静沈着な実力者に「変化」するのである。

 ちなみにこのドラマの序盤を盛り上げた“二大スキンヘッド巨人”、陰謀大好きの後白河法皇役の西田敏行は72年の大河ドラマ『新・平家物語』で、「頼朝を殺せ!!」とものすごい形相になっていた平清盛役の松平健は77年の『草燃える』で、義時を演じている。小栗旬はふたりの「先輩義時」に応援されていた。かつての注目若手俳優が大物役となって、若き主役を盛り立てるというのも、60年近い歴史を誇る大河ドラマならではである。

 前半が笑える場面も多く、ほのぼのとしていただけに、後半のダークな展開が、恐ろしくもあり、楽しみでもある。13人の誰が生き残るのか。謀殺、暗殺、殺伐とした殺し合いは続く。その黒幕はあの人!?なんて説はいっぱいあるし、歴史書にはない人間模様は、もちろん予想不能。『新選組!』では若くして命を散らした近藤勇らを描き、『真田丸』では豊臣のために奮起した真田幸村をテーマにした作者・三谷幸喜にとって、義時は、初の「勝ち組」大河主人公ともいえる。代表作『古畑任三郎』シリーズでも、暗いものを抱えた犯人像の面白さは毎回光っていた。鎌倉の暗いものを飲み込んで、勝ち上がる義時が最後にどんな顔を見せるのか。小栗旬の「変化」は見逃せない。

今回ご紹介した作品

鎌倉殿の13人

NHK総合
毎週日曜午後8時
BS4K/BSP
毎週日曜午後6時

NHKプラスで最新回を配信中

情報は2022年4月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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