ペリー荻野さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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大岡越前6

2022/05/31公開

東山紀之版大岡越前に、将軍・吉宗役で椎名桔平が登場。ファン必見の新シリーズ

 5月13日にスタートしたBSプレミアム「大岡越前6」。東山紀之が、名奉行・大岡忠相を演じるシリーズだ。このドラマの一番の魅力は、江戸で起こるさまざまな事件を小さなヒントから推理、探索し、時にスパッと時に人情味たっぷりに解決する。その爽快感。そして、忠相を支える人々との和やかな人間関係だ。いわば、サスペンス&ホームドラマのいいとこどりなのである。今シーズンも、ベテラン同心村上源次郎(高橋長英)や配下の者、妻の雪絵(美村里江)、雪絵の父・吉本作左エ門(寺田農)、忠相の母・妙(松原智恵子)、小石川養生所の医師・榊原伊織(勝村政信)、結城新三郎(寺脇康文)、居酒屋たぬきの親父(近藤芳正)など、おなじみの顔ぶれが揃っている。

 シーズン6の第一話では早速大事件が勃発した。八代将軍吉宗の弟を名乗る中川正軒(和泉元彌)が現れ、江戸はご落胤のウワサで持ち切り。それだけでも大変なのに、忠相は江戸城内で行われる将軍家の「祝儀能」を取り仕切ることになる。町人も能鑑賞を許され、城への出入りする中、紛れ込んだ盗賊により御金蔵から三万両が盗まれてしまった。忠相は責任を追及され、三日以内に金の行方がわからなければ切腹と言われてしまう。和泉元彌といえば、大河ドラマ『北条時宗』では主役を演じたキャリアの持ち主だが、ここではキンキラの着物とウハウハな顔で、出てきた瞬間から、めちゃくちゃ怪しい。ザ・時代劇の悪役という感じが面白かった。

 長く時代劇を愛好する方ならば、このシリーズには「元祖」があることをご存知だと思う。TBSで約二十九年間親しまれた、加藤剛主演の「大岡越前」だ。東山版がスタートしたとき、登場人物のキャラクターや奉行所や「たぬき」の雰囲気まで、シリーズの設定がそのまま生かされていているのを見て、「民放のドラマがそっくりそのままNHKに!」と多くの人を驚かせたものだ。なお、番組のもうひとつの名物、「ルパン三世」のテーマなど名曲で知られる作曲家・山下毅雄によるオープニングテーマ曲は、加藤版の口笛バージョン(ちなみに吹いているのは口笛名人と言われた山下先生ご本人!)から、東山版では♪ら~ららら~という由紀さおりのスキャットバージョンになっている。

 今回のシーズン6では、ふたりの人物に注目したい。

 ひとりは今シーズンから、新たに吉宗役として登場した椎名桔平だ。
 思えば、加藤版でも東山版でも『大岡越前』の第一話は、忠相と吉宗との出会いのエピソードで、その中の上様は相当の「困った殿様」だった。

 冒頭。伊勢山田奉行だった大岡忠相(東山)は、農民たちから隣国紀伊藩の横暴を耳にし、当時、紀伊藩主だった吉宗を懲らしめようと考える。吉宗が徳川御三家の威光をいいことに、殺生禁断の海で夜な夜な漁をして騒いでいることを知った忠相は、吉宗を捕らえ、白洲で「大たわけが!!」と叱り飛ばすのだ。その四年後、八代将軍となった吉宗は、忠相を江戸へと呼びだす。「あの時の腹いせか」と忠相と家族は切腹も覚悟。しかし、吉宗が忠相に命じたのは町奉行就任。ここに名奉行大岡越前が誕生したのだ。

 深夜、月の光を反射するほどピカピカの葵のご紋入りの着物のまま船に乗り、魚を捕まえてはハハハハと高笑いをしていた吉宗。忠相に叱られて懲りたのかと思ったが、なぜか「世の中を知らねば」という気になり、将軍就任後は、しばしば城を抜け出しては、町の者たちと関わって、事件に巻き込まれる。「お忍びはお控えください」と忠相に注意されても、当人はまったく気にしていないのだ。どこか浮世離れしているが、憎めない上様。椎名吉宗も、初回から突然、忠相の屋敷にやってきたり、祝儀能の最中に御簾から飛び出して、町人たちに「楽しんでおるか~!」と声をかけたり、相変わらずのマイペースぶりを見せた。

 もうひとりは、新米同心・大介(室龍太)。
 第二話「盗まれた十手」で、大介は十手を盗まれてしまう。忠相からは謹慎を申し渡される大介。その十手を悪用した事件が発生。またまたお忍びで町歩きをしていた吉宗が、重要人物に遭遇する。

 実は『大岡越前』シリーズは、イケメン同心の宝庫。70年代には往年のスター・和田浩治の二枚目同心が好評で、彼の演じた「風間駿介」は、そのまま、テレビ東京系で『疾風同心』というスピンオフシリーズにもなった。その後も青春スターの森田健作、佐藤祐介なども若手同心として登場。中でも光っていたのは、三浦友和。今では渋いベテラン俳優の友和も、当時は熱血青年同心だった。そんな伝統を引き継いで登場した室龍太は、十代のころから多くの舞台を経験してきたジャニーズ俳優。「酔って十手を盗まれるとは、何たる失態!!」と先輩から大目玉をくらった大介がどう成長するか。サスペンス、ホームドラマにちょっと青春風が吹く。そんな予感がする新シリーズである。

今回ご紹介した作品

大岡越前6

BSプレミアム・BS4K 毎週金曜よる8時 放送中

情報は2022年5月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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