ペリー荻野さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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家電侍

2022/06/24公開

もしも、江戸時代に最新家電がタイムスリップしたら…!?史上初の家電SF時代劇

©BS松竹東急/PROTX

 時代劇研究家を名乗っていると、「タイムスリップものも時代劇ですか?」と、聞かれることがある。私の答えは、もちろんイエス!! 未来はともかく、過去に戻れば、みな昔。りっぱな時代劇ですって、というのが私の個人的な定義である。

 過去には、自衛隊が天下獲りの騒乱に巻き込まれる「戦国自衛隊」(主演・千葉真一他/1979年)、現代の医師が幕末を舞台に活躍する「JIN-仁-」(主演・大沢たかお/2011年)、女子高生が戦国時代に恋しい若殿のため奮闘する「アシガール」(主演は朝ドラ「ちむどんどん」の黒島結菜/2017年)、深夜ドラマでは春画を描いていた武士が現代でマンガに挑戦する「武士スタント逢坂くん!」(濱田崇裕/2021年)など、タイムスリップものの名作がいろいろ生まれた。が、ここでいうタイムスリップは、人間が時代を行き来してこそ成り立つもの。まさか、令和の世に「物」がタイムスリップするドラマを見ることになるとは、思ってもいなかった。

 今春開局したBS松竹東急の「家電侍」は、江戸の片隅の長屋に妻・静江(前田亜季)と嫡男太郎(加賀谷光輝)と暮らす貧乏浪人・兼梨四十郎(滝藤賢一)が主人公。いろいろあって失業し、就職活動をしているが、プライドが邪魔をしてうまくいかない。あるとき、四十郎は、参拝した神社で稲光とともに現れた、謎の光る板状の物品を発見する。実はそれはタブレット端末で、四十郎の気配に反応。「カージー」と名乗る家電アドバイザーが、欲しいものはないかと問いかけてくるのだった。

©BS松竹東急/PROTX

 四十郎は「はて面妖な」と驚きつつも、妻がかまどで飯炊きに苦労しているとつぶやく。すると、驚いたことにあっという間に最新の「炊飯器」が到着!! 早速、長屋で試してみることになる。

 おいおい、ブツはあっても電源はどうするの? と思ったそこのあなた。大丈夫(と、私が言うのも変だが)、カージーがすぐさま発電用自転車を取り寄せ、四十郎は必死に漕いで蓄電するという仕組みなのだ。

 無事にふっくら炊けたご飯を見つめ、「つやつや」「保温もできる」と一家で感激。第二話で掃除ロボットが登場すると、中にゴミを吸い込むタコがいるのではと疑いながらも、「神のなせる技!!」とその働きに感動し、「カメ吉」と名前までつけて愛用するのだった。すっかり調子に乗って、洗濯乾燥機、電気シェーバー、電子レンジについには防犯カメラまで導入する四十郎。神社で蓄電していることを妻には内緒にしていたが、実はバレバレというのも微笑ましい。

 だが、現実はキビシー。

 第九話では、水戸からやってきた静江の兄・久右衛門(浜田学)が、長屋は「厠(トイレ)のように狭い家」と怒り顔で彼女と息子を実家に連れて帰ろうとする。なんとか兄に思いとどまってもらおうと、炊飯器の美味いご飯やシェーバー剃り心地でおもてなしをする四十郎一家。家電のすごさにいちいち驚き、カメ吉の動きに「愛くるしさもある」と、ちょっぴり懐柔されたかに見えた久右衛門だったが、結局、「家事は使用人がやるもの」と渋い顔に逆戻りしてしまった…。

 このドラマのポイントは、確実に「家事」をこなすハイスペックな「家電」を囲む「家族」の物語ということ。「家」の字が三つも重なる、まさにホームドラマなのである。

©BS松竹東急/PROTX

 四十郎は、家族を守り、家事に奮闘する静江を助けたいと頑張り、静江はそんな夫を心から愛している。息子もユニークな隣人と家電にキャーキャー言いながら、楽しそうだ。こんな家電で泣き笑いができるとは。家電があって当たり前、便利で当然と思っている私たちには、味わえない幸せなのかもしれない。なお、滝藤賢一は、超貧乏な下積み時代、地方公演先のホテルでもらった古いT字剃刀を使い、血まみれでヒゲ剃りをしていたため、シェーバーを使った時、ものすごく感動したらしい。リアル家電侍だ。

 それにしても気になるのは、カージーの判断力だ。久右衛門が遠方から来たと聞けば、「マッサージチェアはいかがでしょう」といつもの抑揚のない機会声で勧め、極寒シーズンに「火鉢もない」と言われたと知ると「エアコン」を推す。「あきらめてはいけません」とカージーに励まされ、さっそく蓄電にかかる四十郎に、エアコンは電力をたくさん使うからと注意も忘れない。気配り上手なのだ。そのため、四十郎は「うおーっ!!」と鼻血が出そうな勢いで自転車をこいで、なんとか箪笥の上に乗せられたエアコンを稼働させることができたのだ。(もっともすぐに電源が切れて、『暖かい』と喜んだ兄は、『止まっておる』と不審顔になるのだが…)淡々と話すカージーの声をMEGUMIが担当しているのも興味深い。第10話では、ついに「そうめんスライダー」まで投入。もはや家事の問題とは別の趣味なんじゃないのという感じだが、これも家族の幸せなんですよね。納得。

予告編(6月25日いよいよ最終回!)

今回ご紹介した作品

家電侍

放送
BS松竹東急にて、6月25日よる11時から放送予定(最終回)
配信
GYAO!にて最新話を見逃し配信中(放送後1週間)
ひかりTVにて全話配信中

情報は2022年6月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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