ペリー荻野さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

>プロフィールを見る

リクエスト

鎌倉殿の13人

2022/12/16公開

いよいよ最終回!ダーク義時の末路はいかに

編集部注:本文中に、内容に関するネタバレを含みます。

 そんなわけで、毎回、恐るべき展開が続く「鎌倉殿の13人」。

 最終回に向けて、くっきりとしてきたのは、この物語が「継承」と「因果」がからみあうらせんのような構造になっているということだ。
「継承」で一番わかりやすいのは、主人公・北条義時(小栗旬)の変化。

 そもそも義時は、地元でお互い親戚のようにつきあってきた坂東武者の中でおっとり育った北条家の二男。頭脳明晰だが、特に野心もなく、しっかり者の兄・宗時(片岡愛之助)を尊敬し、自分はせっせとコメの取れ高や土産の数までしっかり数える気配り青年だった。しかし、その兄は戦死。跡取りとなった義時は、姉の政子(小池栄子)の夫となった源頼朝(大泉洋)の側近として否応なく、交渉事や戦に関わっていく。

 頼朝は女好きで政子の目を盗んでは、妾の亀(江口のりこ)のところに通ったりして、騒動を起こし、みんなに「やれやれ」と思われる。その一方で源氏の頭領として時に容赦なく、他人を消す冷たさも持つ。八重(新垣結衣)との子を殺した伊東祐親と嫡男を一度は助けると言いながら、抹殺。衝撃的だったのは15話で、自分のために戦で働いた上総広常(佐藤浩市)を「見せしめに」と梶原景時(中村獅童)に殺させたことだった。

 頼朝の怖い顔を知った義時は、当初は拒否反応を示すが、次第に頼朝のやり方を理解し、「継承」する。20話では、平泉に逃れた義経(菅田将暉)追討と有力な藤原一族を滅ぼす陰謀を巡らし、頼朝亡き後は景時や比企能員(佐藤二朗)の一族、二代目鎌倉殿となった頼家(金子大地)、畠山重忠(中川大志)も討ち果たす。ついには暴れん坊だが人気者の和田義盛(横田栄司)もものすごい数の矢を打ち込んで殺してしまう。恋しい八重にせっせとキノコを差し入れていた純情青年の義時は、いったいどこへ行っちゃったの?あれは幻?と思わせる闇落ちぶりだ。

 義時には、あとふたつの「継承」がからんでいる。
 ひとつは殺し屋だ。「へい」の一言で淡々と人を殺す善児(梶原善)は、伊東家から景時、さらに義時と雇われてきた。その後、義時の殺しの依頼は善児が育てたトウ(山本千尋)が引き受ける。汚れた手も「継承」されてきた。
 そして、もうひとつは自分の跡取りである泰時(坂口健太郎)への「継承」。都からやってきて、三代鎌倉殿になった実朝(柿澤勇人)に取り入る源仲章(生田斗真)。二代目執権となった義時の脳裏には、仲章警戒警報が鳴り響く。それもこれも泰時が無事に三代目執権として腕をふるうための邪魔者だからだ。義時の闇落ちは、泰時への「継承」を確固たるものにするためだったのか!?

 そして、「因果」もまた、このドラマにぐるぐると巻き付いている。

 都に進軍した同じ源氏の木曽義仲を討った頼朝だったが、義仲の嫡男・義高も殺したことで彼を慕っていた愛娘・大姫は病勝ちに入内を前に命を落とす。頼朝の子・千鶴丸を水死させられた八重は、流された孤児を救おうと川で亡くなった。
 そして、鎌倉最大の悲劇ともいわれるのは、実朝が暗殺された事件。

 承久元年(1219)年正月。実朝が右大臣に任じられたことを祝う儀式のため、鶴岡八幡宮に参詣した実朝を頼家の子・公暁(寛一郎)が襲撃、殺害してしまう。歴史書「愚管抄」によると、公暁が実朝に「一ノ刀」を浴びせた際、「親の仇をとる」と叫んだのを多くの者がはっきり聞いたとも伝わる。史実としては謎も多いが、ドラマでは、公暁は幼少期、比企尼(草笛光子)に「北条を許してはならぬ」と言われた記憶があり、成人後、父の頼家が殺されたいきさつを聞いて、自分も鎌倉殿の子なのに出家させられ、母も日陰の身だと恨みを募らせる。これも因果…。当初、公暁に味方すると言っていた三浦義村(山本耕史)は義時に連絡。義時はすぐに公暁を討つよう命じ、義村の手勢により、公暁は討たれた。享年20。

 これで終わりかと思ったら、そうはいかないのが鎌倉の因果。
 義時の最後の強敵となるのが、後鳥羽上皇(尾上松也)だ。

 多数の荘園からの財力で鳥羽や宇治に離宮を造営、熊野に28回も参詣するなど強い権力があり、歌人としても優れた文武両道の人物で、このドラマでは出てくるたびに貝合わせをしたり、似顔絵を描いたり、蹴鞠でも見事な技を見せるなど、才人ぶりを発揮。鎌倉が力をつけることに嫌な顔をして、実朝の死後、かねての約束通り、皇子を将軍に迎えたいと幕府から要請されると、上皇は拒否。承久三年(1221)、ついに幕府打倒を目指して挙兵。「承久の乱」が起こる。

 思えば、後鳥羽上皇は、頼朝と源義経(菅田将暉)の仲を裂くため暗躍した後白河上皇(西田敏行)の孫。それが鎌倉と激突するのも因果としか言いようがないですな。

 多くの人の死に関わったダーク義時の最期も、昔から、脚気による病没、のえ(伊賀の方)による毒殺など、いろいろ言われる。一筋縄ではいかないのは間違いない。

今回ご紹介した作品

鎌倉殿の13人

放送
NHK 毎週日曜よる8時から放送中
配信
NHK+で最新回を1週間無料配信中
NHKオンデマンドで全話配信中

情報は2022年12月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

週刊テレビドラマTOPへ