ペリー荻野さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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どうする家康

2023/01/16公開

松本潤は、どんな家康として結実するのか

 いよいよ始まった大河ドラマ「どうする家康」。初回からびっくりすることが多かった。
物語の始まりが、いきなり激戦の桶狭間。しかも、家康(松本潤)は、勇敢に戦うどころか、雷雨の中、家臣を見捨てて逃走中!?
 とにかく、この家康は「涙目率」が高い。

 三河松平家の次郎三郎元信と名乗っていた13歳の少年・家康は人質として今川義元(野村萬斎)のもとで暮らしていた。次郎三郎は、剣術の稽古では義元の嫡男・氏真(溝端淳平)にぼこぼこにされて涙目に。実は彼の趣味は手作りの人形遊びで、こっそり楽しんでいるところを今川家臣の娘瀬名(有村架純)に見つかって、またも涙目に。だが、ある日、義元は、瀬名を側室にと望む氏真と次郎三郎を対決させ、勝ったものに瀬名を娶らせると宣言する。防戦一方の次郎三郎だが、ここでは思わぬ動きで勝利。義元は、いつも次郎三郎がわざと負けていたことを見抜いていた。

 嫡男・竹千代も授かって瀬名と幸せな日々を送っていた元康(元服した次郎三郎)だが、桶狭間の戦に出陣。命がけで大高城に兵糧(米)を届けるミッションを果たしたところに今川義元が討たれたとの急報が。動揺し、逃亡したものの自軍に戻るしかない元康は、「獣(けだもの)」「狼」と恐れる信長(岡田准一)が自分のところに進軍しているとわかり、家臣たちに「どうする、殿」と迫られて、やっぱり涙目に…。さらに、第二話では敵の罠にはまり、大事な家臣も重傷を負う大ピンチ。愛妻・瀬名と子とも離れ離れになった元康の「どうする」の自問は続くのである。

 徳川家康って、こんなヘタレ小僧だったっけ!? このびっくりは、これまで多くの作品で描かれてきた家康との「違い」からくるものといえる。
 振り返ってみると、徳川家康は大河ドラマにも数多く登場してきた。

 たとえば、83年の「徳川家康」主演の滝田栄は、「丸顔のタヌキおやじ」ではない“長身の面長家康”で、堂々とした家康。天下獲りの野心ではなく、乱世を終わらせたい平和主義の家康の人物像がよく表れた場面となった。00年「葵 徳川三代」は、丸顔で女性にモテモテ、家康のイメージにぴったりの津川雅彦。津川は87年の大河「独眼竜政宗」でも家康役で、このときは、血気盛んな伊達政宗(渡辺謙)にアドバイスをする役回りだったが、「葵」では、爪を噛むのが癖でせっかちな家康に。おっとりした跡取り息子の秀忠(西田敏行)に、ふんどし姿のまま文句を言いに来る。短気な父親ぶりが人気だった。
 驚いたのは、「国盗り物語」(73年)で若き日の寺尾聰(当時26歳)が、実に四十年の時を経て、14年「軍師官兵衛」で再び家康となったこと。腹の中が読めない老獪な狸家康だった。三谷幸喜脚本の「真田丸」(16年)の家康(内野聖陽)は、心配性で憎めない一面と関ヶ原、大坂の陣では非情な顔も見せ、主人公・真田幸村(堺雅人)の最大の壁に。いずれにしても、歴史上の大人物、大御所様というのが、これまでの家康像。だとすると、松本潤は、果たしてどんな家康として結実していくのか。ここが最大のみどころになるのは間違いない。

 では、今回の家康に影響を及ぼすのは、どんな人物たちか。

 前半、特に注目は、織田信長と武田信玄(阿部寛)だ。ご存知「天下布武」のカリスマ大魔王・信長は、家康と同盟を結び、尾張を統一。足利義昭を推したてて、上洛する。家康は「兎」と呼ばれただけで、気を失いそうなほどに信長を恐れているのである。

 また、甲斐の国の武田信玄は、戦国最強の男。信長が浅井・朝倉との長い戦をしているスキに駿河に攻め入り、三方ヶ原の戦で家康をこてんぱんにする。大切な家臣を失った家康がこの敗戦のみじめな自分の姿を絵に残し、戒めとしたのは有名な話だ。

 そして、後に天下人となり、家康の運命にも大きく関わる豊臣秀吉(ムロツヨシ)。人たらしの秀吉が、狼の信長の家臣として、家康にどう接近してくるのか。超成果主義の織田家にいる秀吉が、世間知らずの家康をどう見るのかも気になる。

 思えば、家康は二十歳そこそこでこんな強烈な面々に囲まれているのである。その若き殿を支えるのが、個性的な三河家臣団だ。

 何かあるたびに「えびすくい」を踊る宴会部長にして誠実なリーダー酒井忠次(大森南朋)、けちけち作戦で徳川再興を願ったじじさま鳥居忠吉(イッセー尾形)、人質時代から笑顔を絶やさず仕えた平岩親吉(岡部大)、家康に檄を飛ばす本多忠勝(山田裕貴)、自称・三河一番の色男(小手伸也)、頭脳明晰でズバッと行動する石川数正(松重豊)などなど。私が特に注目しているのは、どう見ても怪しい空気が漂う服部半蔵(山田孝之)とどこか得体が知れない本多正信(松山ケンイチ)。脚本が、詐欺師コメディ「コンフィデスマンJP」の古沢良太だけに、得体のしれない人間の動きは気になるし、正義の味方みたいな人物こそ、実は胡散臭いってこともある。涙目家康自身にもあっと驚く展開もアリだと私はにらんでます。

今回ご紹介した作品

どうする家康

放送
NHKにて毎週土曜よる8時~
配信
NHK+にて最新話を1週間無料配信中
NHKオンデマンドにて全話配信中

情報は2023年1月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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