ペリー荻野さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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大奥

2023/02/01公開

女将軍たちが紡ぐ徳川の歴史

 人はなぜ、「大奥」に惹かれるのか。
 それは、そこに上様をめぐる「愛」と「憎しみ」と「秘密」の気配を感じるから…というわけで、NHKドラマ10「大奥」が話題になっている。

 この「大奥」は、設定が超特殊だ。舞台は、若い男のみがかかる奇病「赤面疱瘡」のために、女が将軍になった江戸時代。第一話「八代将軍吉宗・水野祐之進編」では、貧乏旗本の息子・水野祐之進(中島裕翔)が、美男3000人がひしめく大奥で八代将軍・吉宗(冨永愛)と出会う。

 第二話「三代将軍家光・万里小路有功編」は、僧侶だったお万こと万里小路有功(福士蒼汰)が無理やり還俗させられ、大奥に送り込まれる。彼の目の前にいたのは、初の女の上様となった家光の隠し子(堀田真由)。男装させられたひねくれ少女だった。ここで強烈な役割を果たすのが、大奥を作ったと言われる家光の乳母・春日局(斉藤由貴)だ。春日は、家光の死を隠すため、立ち会った医師を自ら刺殺。有功を大奥にスカウトしたときも、断られると即座に供の僧侶をバッサリ斬らせて、脅しつける。その後も、家光の可愛がっていた猫が斬り殺されると、血の付いた刀の持ち主に「わかっておろうな」と死を命ずる。「憎しみ」と「秘密」を一人で背負った大奥デスノートみたいな存在なのだ。

 そんな驚くべき「大奥」で、驚くべき「名場面」が、いろいろ出てきた。

 たとえば、第一話では、吉宗は颯爽と馬を飛ばす。おおお、吉宗はこうでなくっちゃ。冨永愛は「いつか時代劇で役に立つ」と乗馬を続けていたという。大奥のランウェイ(?)廊下を摺り足のごとく進む上様歩きは、モデルのウォーキングとはまったく違って苦労しつつも見事克服。その冨永吉宗は、着飾った大奥の美男たちの前にすっくと立ち、「暇を出す」と言い渡す。それは幕府の財政立て直しと大奥から出れば良縁に恵まれるであろう彼らの未来のため。抗議する大奥総取締の藤波(片岡愛之助)には「黙りゃ、この狸爺!!」とぴしゃり。いやいや、言ってくれます。実に痛快だ。

 また、家光は例によってひねくれ心から、男たちに女装をさせ、その中のひとりと男姿の自分が子を作ればいいと言い出す。半ばヤケッパチだが、目の前に現れた女姿のお万に、きれいな打掛を着せられ「お似合いですよ」と言われると彼への思いがあふれ、二人は結ばれるのだ。

 女将軍は、後継ぎを生むことを強制される厳しさの中で生きるしかない。それでも、最後の選択は自分でする。結果的に愛した男と別れることになっても、他の男の子を生むことになっても、それが自分の意思。その覚悟と決断は応援したくなる。

 ところで、「大奥」は、いつどのようにできたのか。

 多くの作品では、男色の三代将軍・家光の後継ぎ確保のため、春日局が江戸城の奥向きに美女を集めたことが始まりとされている。そこに新解釈をしたのが、83年のドラマ「大奥」の第一話「大奥誕生」だった。

 ここで主導権を握ったのは、二代将軍・秀忠の正室、お江与の方(栗原小巻)。大河ドラマ「江~姫たちの戦国」のヒロインにもなったお江与の方は、ご存知、織田信長の姪で、実の姉淀の方は、豊臣秀吉の妻。大坂の陣で豊臣が滅ぶと、途端に徳川家康(若山富三郎)から、敵方の血縁だと敬遠される。しかし、しっかり者のお江与は、徳川の嫁として君臨。女たちが集まる奥向きの呼名について、春日局(大谷直子)が「以前、御奥(おんおく)という呼び名がございました」と発言すると、「大きな奥向き、大奥というのはどうですか」と提案するのだった。

 御奥から大奥へ。ほぼダジャレみたいだが、これで決定。めでたしめでたしと思ったら、またも出てきた大御所・家康様。お江与に「男子禁制の大奥とやらを作っているそうだな。わしも入れぬのかな」なんてことを言い出し、きっぱり拒否されると、怒って「駿府に帰る」と言い出すのである。

 江戸城の閉じられた世界で、ドラマチックな人間関係を描くのは、「大奥」作品の伝統だ。

 放送中の男女逆転「大奥」、第五話は「五代将軍綱吉・右衛門佐編」である。綱吉といえば、天下の悪法といわれた生類憐みの令や「忠臣蔵」の赤穂事件に向き合った将軍。かつてはぼんやり殿様のような描かれたこともあったが、近年は学問に熱心な上様として再評価されている。ドラマでは、その綱吉(仲里依紗)に多大な影響を与えるのが、生母の桂昌院(竜雷太)と京の貧乏公家から大奥入りした野心家の右衛門佐(山本耕史)。美貌と教養を兼ね備え、政治にも力を尽くす綱吉は、大事な娘、松姫を亡くして、再び子作りを強要されることになる。

 ドラマは、吉宗が古参の御右筆の村瀬(石橋蓮司)が記した記録を読みながら、過去の大奥の出来事を知るという設定になっている。きりりとした冨永吉宗が、五代将軍の愛と決断をどう評するかも、名場面になりそうだ。

今回ご紹介した作品

大奥

放送
NHKにて毎週火曜よる10時より放送中
配信
NHK+にて最新話を1週間無料配信中
NHKオンデマンドにて全話配信中

情報は2023年2月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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