ペリー荻野さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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暴れん坊将軍

2023/03/08公開

三拍子揃った名時代劇!上様に不可能なし

 「暴れん坊将軍」は、テレビ朝日系列で土曜夜8時、「8時だョ!全員集合」や「オレたちひょうきん族」と激突しながら、人気を獲得。78年から25年以上親しまれた時代劇。主人公の八代将軍徳川吉宗(松平健)が、城を抜け出し、旗本の三男坊・徳田新之助と名乗って、町奉行・大岡越前や火消しのめ組の面々たちと、悪人退治に乗り出す。クライマックスでは、悪の親玉相手に「余の顔を見忘れたか」と将軍の威厳を見せつけ、自ら大立ち回り。お庭番に「成敗!!」と命じ、見事にやっつける。スカッとする勧善懲悪時代劇のお手本といってもいいシリーズだ。

 レギュラー放送は02年に終了しているが、終了後も地上波、BS、CS、常にどこかで放送され、多くの人に支持されている。
「暴れん坊将軍」が、令和の今もなぜ長く愛されるのか。私は大きな理由が3つあると思っている。

 理由その1は、主役の魅力。

 松平健といえば、今や「マツケンサンバⅡ」で「紅白歌合戦」にも出場したアーティストとしても知られ、昨年の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の平清盛役でも貫禄を見せた大御所俳優だが、「暴れん坊」開始当時は、昭和の名優・勝新太郎に見いだされた新人だった。その存在感は、フレッシュな新スターらしく、サンバとは違う意味でピカピカしている。師匠の勝は、松平健に「その目がいい」と言っていたという。そう思ってよく見ると、このシリーズの吉宗の“涼しい目”の魅力に気が付く。実はそれまでの時代劇の主役は、映画時代の伝統もあって、アイラインくっきりの“流し目”で艶っぽくするのが定番だったのだが、吉宗はすっきりした顔で、ストレートに相手を見つめ、きりりと悪人をにらむのである。これだけでも、当時は新鮮だった。

 そんなピカピカ上様も回を重ねると、徳田新之助という別の顔だけでは飽き足らず(?)、浪人や若旦那、渡世人、時には新内流しに扮して、自慢の美声を聞かせたりするようにもなっていく。また、面白いのは、吉宗が美女たちに迫られる場面。城から出れば、町娘たちにキャーキャー言われ、江戸城大奥では「お手付き志願」の美女たちが、吉宗に熱い視線を送っている。入浴中に「お背中を…」と猛アタックされ、あたふた逃げ出したことも。爽やかな上様の困惑顔は、シリーズの隠れ名物でもあった。

 理由その2は、豪華なキャスト。

 初期シリーズのレギュラーは、吉宗を何かと心配する側用人・加納五郎左衛門の有島一郎、め組の頭の北島三郎、町奉行大岡忠相の横内正、影になって助けるお庭番に「仮面ライダーV3」で人気となった宮内洋、夏樹陽子など、主演作を持つ面々が揃って上様を支えた。高島礼子が女優デビューしたのも、このお庭番役だ。

 ゲストには第一シリーズ第二話に登場した天知茂はじめ、ハナ肇、江利チエミ、中村玉緒、シリーズ後期には本田博太郎、古田新太も大暴れを見せるなど、錚々たる顔ぶれが出演。中尾彬は将軍の座を争った尾張の徳川宗春としてものすごい悪役顔になってしばしば暗躍する。大スター美空ひばりも紀州にいた時代の吉宗の友人、お奈津役で4度登場。その初登場回のタイトルは「紀州から来た凄い女(やつ)」だった。

 理由その3は、上様に不可能はない!というストーリー。

 城を抜け出して事件を探索するというだけでも大変な話だが、変装、潜入、時には出張調査までしてしまう吉宗は、想像を絶する事態にも遭遇する。中でも、近年、若い世代に注目され、SNSでも盛り上がっているのは、第9シリーズ19話、タイトルはズバリ「江戸壊滅の危機 すい星激突の恐怖」である。

 ある日、望遠鏡をのぞいていた吉宗は、不思議な赤い星を発見。その接近を変わり者の天文学者(笹野高史)も察知しており、め組の面々は、すい星落下地点となりそうな日野の人々を救うべく、現場に駆け付けるのである。画面には、地球に向かうすい星の画像も登場。こりゃもう、どう見てもSFだ。決死の覚悟で歩むめ組の姿は、映画『アルマゲドン』を意識しているようにも見える。時代劇とは思えない異色の展開に、当時、私もびっくりだったが、もっと驚いたのは、上様もさすがにすい星相手に「成敗!!」は言えないだろうと思ったら、騒動に便乗した悪人たちが出てきて、しっかり勧善懲悪ストーリーが成立してしまったのである。おそるべし、「暴れん坊将軍」の制作陣。私は、この回の出演者に取材したことがあったが、これは関係者にとっても忘れられない回になっているという。そりゃ、そうですよね…。

 この他、シリーズには、「王子と乞食」のごとく、吉宗と瓜二つの若者が入れ替わる話や「ローマの休日」のように切ない話もあったりする。

 主役よし、ゲストよし、ストーリーよし。「暴れん坊将軍」は、トリプルよしのシリーズなのである。なかなかスカッとできない今の時代、まだまだファンを増やしそうだ。

今回ご紹介した作品

暴れん坊将軍

放送
テレビ朝日系列にて毎あさ4時~放送中(暴れん坊将軍6)
BS朝日にて毎日ひる14:54~放送中(暴れん坊将軍2)
CSスカパー!、J-COM、ひかりTV、auひかりテレビサービス、ケーブルテレビ各社にて全シリーズ放送中
配信
Amazonプライム(時代劇専門チャンネル)にて全シリーズ配信中

情報は2023年3月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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