ペリー荻野さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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仮面の忍者 赤影

2023/3/31配信

60年代の名作特撮ドラマが、配信で蘇る!

「赤影、参上!!」
 このセリフを聞いただけで、元気のいい主題歌に乗って白馬で疾走するヒーロー赤影の姿を思い出す人も多いと思う。原作は横山光輝の人気マンガ。1967年、高度成長期の子どもたちが夢中になった特撮忍者ドラマだ。

 舞台は戦国。「豊臣秀吉がまだ木下藤吉郎だったころ、琵琶湖の南に金目教という怪しい宗教が流行っていた」という冒頭のナレーションも講談調で印象に残る。謎の教団の不穏な動きを探るため、藤吉郎の軍師・竹中半兵衛(里見浩太朗)に「類いなき忍法ものでござる」と呼ばれたのが飛騨の影の一族の忍者・赤影(坂口祐三郎)、白影(牧冬吉)、青影(金子吉延)の三人。彼らは、妖しい術を使う忍び集団と闘うことになる。

 シリーズの人気の秘密の第一は、こどもたちにも親しみやすい三人のキャラクターにあった。「きらりと光る涼しい目」の二枚目赤影、ベテランの白影、明るくお茶目な少年青影。赤影は、赤い仮面で素顔を隠していて、額の秘石から光線を発する。ベテラン忍者の白影は仲間がピンチになると、どこからともなく「赤影殿~」と得意の凧を操って現れる。また、コメディタッチの曲をバックに青影が鼻に親指を当てて「大丈夫」とやるポーズも多くのこどもたちがマネをした。金子は、東映映画「丹下左膳飛燕居合斬り」「大忍術映画ワタリ」でも活躍した名子役だ。

 第一部「金目教篇」では、怪しげな金目教で人々を惑わす甲賀幻妖斎(天津敏)率いる忍者七人衆が暗躍。その第一話、いきなり巨大な金目像の目からビームが発射され、潜入していた藤吉郎の部下たちが攻撃される。なんとか逃げ延びた部下を助けたのは、赤影と青影だ。そこに幻妖斎配下の蝦蟇(がま)法師が操る巨大な蝦蟇が出現。クライマックス、赤影は必死に蝦蟇を崖から突き落とすが、怪物は再び目を開ける…こどもたちはドキドキで次の回を待つのである。

 大きな反響を受け、シリーズは継続が決定。莫大な力を記す「ぎやまんの鐘」の争奪戦となった第二部「卍党篇」、第三部「根来十三人衆篇」、第四部「魔風忍群篇」と続いた。驚いたことにどんどん敵が変化し、第二部では、なんと敵は巨大な移動要塞「大まんじ」(銀色の飛行物体でどう見てもUFO)で登場。悪の忍者たちが操る怪獣も定番に。その背景には、「赤影」開始の前年にスタートした「ウルトラマン」が巻き起こした空前の“怪獣ブーム”があった。ただし、「赤影」は、時代劇だけに怪獣たちもどこか和風というのがポイントだ。

 たとえば、第32話に出てきた「甲虫怪獣アゴン」は巨大化したカブトムシ。つやつやしたボディで角をくるくると回転させたり、角から光線を出す。続いて出たのが「大百足怪獣ドグマ」、これは見たまんまのムカデ型。ちなみにムカデ怪獣を操っていたくノ一は、後に国会議員としても活躍したタレントの末広真樹子だった。他にもジュディ・オングの名曲衣装のごとく、羽をひらひらさせながら、目から火炎玉を飛ばす「梟怪獣ガッポ」(梟だけに夜行性なのか光に弱い)、大口を開けて人間をエサにする恐ろしい「山椒魚怪獣ガンダ」、「山猫怪獣ジャコー」、「大蟻怪獣ガバリ」、「ヤドカリ怪獣ガガラ」、「大ガニ怪獣ザバミ」…山椒魚や山猫を怪獣にしてしまう発想がすごい。

 そして、その発想をCGも無い時代に、実写で見せてしまったスタッフもまたすごい。 実はこのシリーズは、娯楽の中心が映画からテレビになるとにらんで設立された東映のテレビプロが製作。京都太秦の時代劇スタッフが初めて世に送り出したこども向け特撮番組なのだ。

 私は当時の関係者に取材したことがあったが、スタッフの多くはテレビの経験がなく、映画と同じ手間暇をかけるため、撮影は徹夜の連続だったという。確かに第一話で蝦蟇の怪物が破壊する建物や五重塔は瓦屋根まで精巧に作られたミニチュアだし、人間サイズの赤影に合わせて作られた蝦蟇の大きな脚もとてもリアル。山中や寺でのロケも多い。赤影らは吹き替えなしで、火にも水にも耐える日々だった。撮影所で「あそこで白影の凧をピアノ線で吊ってね、牧さんも大変でした…」と教えられた場所が撮影所ビルの屋上付近でびっくりしたこともある。そこで吹き替えなしって!大変でしたって、そりゃそうですよ!

 演出はこの後、「水戸黄門」のメイン監督となる倉田準二、山内鉄也らが担当。脚本は後に「仮面ライダー」シリーズでも活躍する井上勝が全話を執筆。また、悪役には、高倉健の映画「日本侠客伝」シリーズに欠かせなかった天津はじめ、原健策(すみれの祖父)や汐路章(『蒲田行進曲』のヤスのモデル)、潮健児、徳大寺伸、舟橋元(名作『新選組血風録』の近藤勇)など東映映画を支えてきた有名俳優陣が本気で怪奇メイクし、本気で立ち回りをしてこどもたちを恐れさせる。私もこども心に、髪を逆立て、白塗り顔に牙を生やした汐路章には、ずいぶん怯えたものだ。

 「仮面の忍者赤影」は、この時代だからこそできた、唯一無二のぜいたくな忍者シリーズ。名曲「忍者マーチ」とともに楽しみましょう!

今回ご紹介した作品

仮面の忍者 赤影

放送
東映チャンネル(スカパー、ひかりTV、ケーブルテレビ、J:COM)にて、毎週木曜あさ7時~、よる6時~放送中
配信
YouTubeにて、第1~2話を無料配信中
東映オンデマンドにて全話見放題配信中

情報は2023年3月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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