ペリー荻野さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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らんまん

2023/5/16配信

時代劇好きも必見。「朝ドラの法則」にも注目!

 坂本龍馬に続いて、まさかジョン万次郎まで出てくるとは! ほとんど“ソフト大河ドラマ”じゃん、という気がしてきたNHK朝ドラ「らんまん」。時代劇好きとしては、主人公が土佐の出身で本当によかったと思えてくる。

 物語の主人公は、のちに植物学者となる槙野万太郎(神木隆之介)。幕末、土佐の由緒ある酒蔵の跡取りとして生まれた万太郎だが、幼いころから病弱で、分家のおやじたちの「いっそ、生まれてこんほうがよかった」という陰口に深く傷つく。ひとり家を出た五歳の万太郎は、迷い込んだ森で天狗(坂本龍馬、ディーン・フジオカ)に出会う。

 幕末から始まる朝ドラといえば、15年の「あさが来た」があった。このドラマでは、山本耕史が04年の大河ドラマ「新選組!」そのままの土方歳三役で出てきて、「待たせたな」と決めセリフを放ってびっくりだったが、ディーン・フジオカは、後に実業家となるヒロインあさ(波留)が出会う実業家・五代友厚として登場。その知的でスマートな振る舞いに朝ドラファンの目をくぎ付けにしたのであった。そのディーンが、今回はぼさぼさ頭に日焼け顔のワイルド龍馬に。万太郎を肩に乗せ、「この世にいらない命はない、みんな何かひとつことを成すために生まれてくるのだ」と大切なことを教えてくれたのだった。

 その後、天真らんまんすぎる万太郎は、明治の世になって新設された小学校をさっさと中退。おとなになっても好きな植物研究に没頭するが、酒蔵の当主としての務めをどうするか。そんな中で出会うのが、老齢の中浜(ジョン)万次郎(宇崎竜童)だった。万太郎に万次郎は、「人生は短い。後悔はしないように」と語る。

 龍馬と万次郎、二人に助言をもらった万太郎が、どう生きていくのか。万太郎のモデルとなった植物学者・牧野富太郎は、昭和32年(1957)、94歳で亡くなっているので、道は長い。出会いもたくさんあるはずだ。回想シーンなら、二枚目龍馬も渋い万次郎もいつでも出られるし。たびたび再登場もアリですな。

 ところで、60年以上続く朝ドラには、さまざまな「伝説の法則」がある。

 たとえば、「ヒロインの友人はブレイクする」という法則。
 朝ドラでは、主役の俳優だけでなく、友人を演じた俳優もブレイクするケースが多い。

 近年の例でいえば、「らんまん」で万太郎のしっかり者の姉・綾を演じている佐久間由衣は、2017年の「ひよっこ」で、ヒロインみね子(有村架純)の故郷の幼なじみ時子役。60年代を舞台にしたこのドラマで、時子は「ツイッギーそっくりコンテスト」に出場するため、流行のミニスカートで登場し、注目された。「ひよっこ」には、同僚役で松本穂香、藤野涼子、時子に片想いしている同郷の三男(泉澤祐希)の勤め先の米屋の娘役で伊藤沙莉も出演。伊藤は日本初の女性弁護士となった三淵嘉子さんをモデルにした来年の朝ドラ「虎に翼」に主演することが決定している。

 もう少し遡ると、現在、BSプレミアムで再放送されている「あまちゃん」(2013年)には、海女になったり、アイドルになったりする主人公天野アキ(能年玲奈)の母(小泉今日子)の少女期を有村架純が演じたほか、親友ユイに橋本愛、アイドル時代のセンターに足立梨花、リーダーに松岡茉優も出演。彼女らは「あまちゃん」後、多くの作品で活躍している。

 また、朝ドラには「困ったおじさんを出す」という法則もある。
 居場所が定まらない自由人、風来坊のようなおじさん、お兄さんが、ぶらりと現れ、ドラマをかき回す。

 ヒロイン喜代美(貫地谷しほり)が落語家を目指した「ちりとてちん」(2007年)には、アロハにカンカン帽の叔父(京本政樹)が一山当てると調子のいいことを言っては、みんなが迷惑し、沖縄・小浜島育ちの古波蔵恵理(国仲涼子)の成長と家族を描いた「ちゅらさん」(2001年)には、一発当てようとさまざまなことを考える兄(ゴリ)がオリジナルキャラ「ゴーヤーマン」を考案してみんな困惑。「ちむどんどん」(2022年)では、同じく沖縄出身の暢子(黒島結菜)の兄(竜星涼)が両替詐欺にあったり、怪しげな物品販売をしたり、出て来るたびにみんなをハラハラさせた。

 私は友人のブレイクや困ったおじさんの「法則」には、理由があると思っている。
 以前、朝ドラを執筆した複数の脚本家に取材した際、「話数の多い朝ドラで一番困るのは、ネタ切れ」という話を聞いた。つまり、主人公ひとりのエピソードでは、物語を盛り上げる要素が足りなくなり、困ることがあるというのだ。そんなとき、個性的な友人や困ったおじさんが、もめごとや困りごとを持ち込んでくる。すると、違う視点で時代を見つめたり、問題に向き合うヒロインが成長できる。演技力のある友人は、頼りにされてどんどん出番が増える。その演技が注目されれば、当然、ブレイクもする。話数が多い朝ドラならではの法則だと思う。

「らんまん」は、家業そっちのけの万太郎自身が「困ったお兄さん」みたいだが、主演の神木はじめ、実績のある出演陣が揃う。これから舞台が東京へと移り、新たに大ブレイクするキャストが出るのか。楽しみである。

今回ご紹介した作品

らんまん

放送
NHK総合にて月曜~土曜あさ8時~放送中
配信
NHKプラスにて放映後1週間無料配信中
NHKオンデマンドにて全話配信中

情報は2023年5月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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