ペリー荻野さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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服部半蔵 影の軍団

2023/6/13配信

千葉真一主演。忍者アクション時代劇の金字塔

 服部半蔵といえば、これまで数多くの映画・ドラマに登場してきた時代劇の有名人だが、その人気を決定づけたのが、千葉真一主演の「影の軍団」シリーズである。

 その記念すべき第一作「服部半蔵・影の軍団」(1980年・フジテレビ系)第一話「虎は嵐に爪をとぐ」は、こんなストーリーだ。時代は、三代将軍・家光が亡くなり、わずか5歳の家綱が四代将軍となったころ。幼君を支える幕閣の有力者が次々と謎の暗殺集団に命を狙われる。その疑いは、幕府に怨みを抱く伊賀の忍者に向けられる。江戸で銭湯「雉子の湯」を営む陽気な半さん(千葉)は、実は伊賀忍者の頭領服部半蔵。疑いを晴らすべく、半蔵は自ら、家綱の補佐役、保科正之(山村聡)のもとに出頭し、捕らわれる。やがて半蔵率いる影の軍団と、暗殺集団、さらには伊賀のライバル、甲賀一族との死闘が始まる。

 忍者ストーリーだけに、仕掛はいろいろあるが、その第一は「服部半蔵」その人。

 実は「服部半蔵」は歴代何人もいて、千葉半蔵はその三代目。三代目というところがミソなのだ。初代の半蔵は、大河ドラマ「どうする家康」で山田孝之が演じている。なんだかんだ家康を助けた初代は、家康最大のピンチ、「伊賀越え」では、決死の脱出劇をサポートしたヒーローとしても称えられる。おかげで初代は8000石の旗本になったのだが、二代目半蔵は素行が悪く(一説に二代目は、家康の姪を妻にしたことで威張り散らし、江戸城警護に働く伊賀組同心たちを私用にこき使うひどいパワハラ大将だったと言われる)追放される憂き目に。このドラマでは切腹したことになっているが、とにかく三代目の半蔵は、ことあるごとに幕府を批判、軍団メンバーも「先代のときのように冷たく捨てられる」なんてネガティブ発言ばかり。みんな屈折している。「影の軍団」はわかりやすい正義の味方ではないのだ。

 なお、軍団メンバー、それぞれに得意技があってチームで動くのも大きな特長。正義感が強い変装名人の瓢六(高岡健二)、女好きで火薬を扱う大八(火野正平)、潜入が得意なお霧(長谷直美)、参謀役で時に指揮官ともなる津々美京之介(西郷輝彦)などが、作戦遂行のため、動き出す。

 しかし、屈折しているからといって、ドラマを暗くしないのが、千葉半蔵の持ち味。ドジでお茶目な半さんは愛嬌たっぷりだ。銭湯の近所で髪結いどころを営むおりん(樹木希林)は、半さんに夢中で、何かというと上目遣いで「ハンさ~ん」と迫ってくる。おりんと半さんの笑える追っかけっこはシリーズの名物になった。昼の顔と夜の顔、この使い分けも半蔵の仕掛といえる。夜10時台のおとなの時間の放送だったためか、各話のサブタイトルも仕掛たっぷりで、「柔肌は渦に沈んだ」「潜入!大奥の昼と夜」などとお色気モードが漂う。「京の春・お歯黒の罠」といった話も。「お歯黒の罠」って何!?このタイトルを聞いたら、見ないわけにはいかない。今では考えられないが、毎回、雉子の湯の女湯で半裸の女客たちがザッパーンと湯を浴びているサービスシーン(?)まであった。

 そして、忘れちゃいけないのが、アクロバティックな忍者アクション。味方も敵方も、屋敷の高い瓦屋根や木から跳ぶなんてのは当たり前、吊るされたり沈められたり、爆裂もなんのその。シリーズ後半では、雪山ではスキーで直滑降なんて荒業も見せてきた。千葉はじめ、軍団の俳優陣、当時、千葉が率いていたJAC(ジャパンアクションクラブ)のメンバーらが、CGもない時代、炎も水も全部本物で、ギリギリまで熱や酸欠と闘いながら、撮影に挑んだのだった。

 第一話では、真っ暗闇の中、半蔵は身長を超える大きな樽に地上からジャンプだけで中に飛び込み、敵に追われるとびょーんと飛び出す。これはどう見てもトランポリン…と思えるが、服部半蔵に不可能はない。シリーズの殺陣師の方の話では、忍者アクションにトランポリンを使うのは今では当たり前になっているが、当時はあまりなく、「誰も見たことがない画を作る」との心意気で挑戦したという。困ったのは、千葉本人が現場で次々アイデアを出すことで、内容は素晴らしくても、時間や予算がかかりすぎるため、周囲は「次の機会にやりましょう」となんとか撮影を続けていたそうだ。

 私も千葉さんにイベントの仕事やインタビューでお世話になった。とにかくサービス精神の塊のような方で、「次回作はこうしたい」「この俳優、監督と仕事を」とアイデアが次々と出てくる。事務所の人に「それは内緒の話ですよ!!」と注意されたりしていたが、ご本人は、とってもうれしそうだった。

「影の軍団」は85年の「幕末編」まで続いた。クエンティン・タランティーノはじめ、世界中に熱烈ファンがいるのは有名な話。その原点ともいえる「服部半蔵 影の軍団」、カッコいいのにちょっと切ない、あのテーマソングも秀逸です。

今回ご紹介した作品

服部半蔵 影の軍団

配信
東映時代劇YouTubeにて第1・2話を無料配信中
Amazonプライムビデオチャンネル「東映オンデマンド」「時代劇専門チャンネル」にて全話配信中

情報は2023年6月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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