ペリー荻野さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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大富豪同心3

2023/6/29配信

若旦那同心が巻き起こす江戸人情劇

 あの「大富豪同心」が、またまた帰ってくる!…と、こう書いただけで、どこかお陽気な気になる。こんな時代劇も珍しい。
珍しいといえば、このドラマはどこもかしこも珍しいことだらけといえる。

 ことの発端は、江戸一番の両替屋三国屋徳右衛門(竜雷太)が、両親を亡くした孫の卯之吉(中村隼人)のために、町奉行所同心の身分を買って、彼を同心・八巻卯之吉にしちゃったこと。いつも花鳥風月柄の派手な着物に身を包み、あっちのお座敷、こっちの芝居小屋とのんきに過ごしていた卯之吉は、突如として侍の格好で殺伐とした事件の探索に駆り出されることになる。

 が、超お坊ちゃん育ちの性格はそのまま。同心部屋でゆっくり茶を飲み、「はーっ」と寛いでる卯之吉は、走るのも刀を持つのも苦手で、暗いところも「お化けが怖いんだよ…」と逃げ腰に。怖い顔の上司・村田銕三郎(池内博之)は、カッカして頭から湯気を出す。なのに、事件解決の糸口を見つけるのは、いつも卯之吉。これはいったいどうして!?

 実は、彼には世にも珍しい強力な「武器」があるのだ。
武器その1は「お金」
 その使い方には毎回びっくり。たとえば第一シリーズでは、吉原の遊女が殺され、その下手人を捕まえるため、店を丸ごと「ひと月貸し切りにしたよ」と千両単位のお金をポン。第二シリーズでは、江戸の遊び人の若旦那たちがふざけて仕組んだ大名行列が襲われた事件の真相をつきとめようと、自ら大名行列をもう一度実施。さすがの兇賊も知能犯も一網打尽になってしまう。
 ちなみに卯之吉は同心になる以前、蘭方医の稽古(修業とかではなく、あくまで道楽)をしたことがあり、医学知識も豊富。奉行所のひとり科捜研みたいな特技もある。

武器その2は、気絶。
 悪人たちを相手の大捕物。卯之吉は「刀が抜けないよ…」と涙目になった挙句、敵に刀を向けられると、立ったまま気絶してしまうのである。危機一髪!!と思いきや、そこに現れたのは、三国屋に雇われた凄腕の用心棒(村田雄浩)。目にもとまらぬ速さで敵をやっつけて風のように去っていく。それが本当に目にもとまらないため、周囲は卯之吉が倒したのだと勘違い。卯之吉を狙う者たちも、立ったままフリーズした彼を見て「あまりにスキがあり過ぎて打ち込めない。すごい剣豪なのでは」と戦わずして降参してしまうのだ。おかげで卯之吉は「剣豪同心」と大評判に。三国屋のじいじは、孫を称える瓦版を床の間に飾り、「りっぱになって…」と泣いているのである。

武器その3は、仲間。
 卯之吉の周りには、なぜか不思議な人間たちが集まってくる。
 いつも側で世話を焼く幇間の銀八(石井正則)、情報通の売れっ子芸者・菊野(稲森いずみ)、「私がお守りせねば」と剣を持つ女性剣士・美鈴(新川優愛)、友人の大名の御曹司(石黒英雄)、子分に「(卯之吉は)ただ突っ立ってるだけですぜ」と言われても「馬鹿野郎!!だんなはすごいお人だ」と誤解しっぱなしの地元の親分(渡辺いっけい)など、にぎやかな面々が損得勘定抜きに卯之吉のために一肌脱ぐ。その姿は気持ちいい。
 卯之吉は、以前、自分にそっくりな殿様(隼人二役)に彼らを「手下」と言われたとき、「手下ではありません。仲間ですよ」ときっぱり言い返した。こういう人情味もこのドラマの魅力になっている。

 そんなわけで、すごいんだかすごくないんだかわからない卯之吉だが、第三シリーズでは、いきなり連続放火事件に立ち向かうことに。持前の推理力と南蛮機械を駆使して、仲間たちと悪党を捕縛(といっても卯之吉は例によって気絶)したが、黒幕と思われた商人は公家姿の不気味な殺し屋・清少将(辻本祐樹)に殺されてしまった。黒幕の黒幕は、抜け目のない大物。頼りのじいじは、老中甘利(松本幸四郎)に頼まれて甲府へ旅に出たばかりだし、大丈夫なのか卯之吉…。

 とはいえ、周りの人たちが元気がないと思えば、「そーら、持ってけ」と小判をばらまき、火事の被害を防ぐ日除け地がいると聞けば「土地を用意するために一万両出すことにしたよ」と扇子をひらひらさせる大富豪ぶりは相変わらず。中村隼人は、細いチョンマゲの色白若旦那姿がよく似合う。8歳から歌舞伎の舞台に立っているだけに、卯之吉がお座敷でちょいと披露する踊りもお手の物。「立ったまま気絶」の技(?)もシリーズを重ねるごとにうまくなっている。

 そして、このシリーズの名物といえば、竹島宏の歌う主題歌に合わせたエンディングのダンス。よく見ると、今回は竹島と原作者の幡大介さんも参加。ちょんまげもノーちょんまげもみんなでダンシングしているのである。(中でも征夷大将軍徳川家政の尾上松也と幸四郎、隼人の歌舞伎三人組の踊りは面白い) 今回がファイナルシリーズというのはさびしいが、シリアスな事件と卯之吉の浮世離れしたフワフワ感のギャップを楽しんだあとは、レッツダンス。お陽気にいきましょう!

今回ご紹介した作品

大富豪同心3

放送
NHK BSプレミアムにて毎週金曜よる7:30~放送中
NHK BSプレミアムにて毎週日曜よる6:45~再放送
配信
NHKオンデマンドにて全話配信中

情報は2023年6月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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