ペリー荻野さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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影同心Ⅱ

2023/8/10配信

「必殺シリーズ」と張り合った異色時代劇のシリーズ第2弾

東映時代劇YouTube 影同心Ⅱ 第1話[公式]

 1975年、日本のテレビで「腸ねん転の解消」という一大事が起きた。 …と言われても、なんのこっちゃ?という方が大半かもしれないが、当時、この一件は、私も含め、テレビ好きには大事件だった。
 それまで日本のテレビのネットワークは、大阪の朝日放送(ABC)の番組はTBS系で、毎日放送(MBS)の番組は、NET(現在のテレビ朝日系)で放送されていた。朝日放送制作の名物番組「新婚さんいらっしゃい!」も東京ではTBSで放送されていたのである。朝日と毎日、関西で違う系列局で放送されていたことは、「腸ねん転」に例えられ、それを解消するため、75年、ABCはNET、MBSはTBSと手を組む、大がかりなネットチェンジが行われたのだった。
 その結果、土曜日夜10時にTBS系で放送されていた「必殺シリーズ」は、NETに移動。ぽっかり空いたTBS系の土曜夜10時に登場したのが、MBSと東映が製作した「影同心」シリーズだった。
 その第一弾「影同心」は、調子のいいゴマすり右近こと更科右近(山口崇)と、「おらあ、そこらのなまくら役人とはわけが違うぜ!」という暴れん坊の高木勘平(渡瀬恒彦)、定年間近で「おとうさん」と呼ばれる柳田茂左衛門(金子信雄)。南町奉行所の三人のダメ同心が、実は法で裁けぬ悪を抹殺する「影同心」なのであった。「必殺」と同時間にこの路線できたのかーと驚いたが、それよりも同心だから、当然、刀を使うのかと思ったら、金子信雄は、ハマグリの貝殻で男の急所をつぶすという技を披露。これは痛すぎる…と、世に衝撃を与えた。
 思えば「影同心」第一弾は、この二年前に東映で大ヒットした映画「仁義なき戦い」に出演していた渡瀬、金子が中心メンバーにいて、演出も「仁義なき~」の深作欣二監督が入るなど、男っぽいアクション路線だった。このとき、同時間帯に放送中の必殺シリーズは、緒形拳と林隆三が組んだ「必殺必中仕事屋稼業」。こちらは博打狂の二人が主人公で、時に敵を殺さない回もある。頭脳戦のような展開が特長だった。まだ家庭用ビデオが普及していないこのころ、どちらを観るかで悩んだ時代劇ファンは多い。
 そんな中の第二弾が「影同心Ⅱ」だった。
 メンバーは、寺社奉行所同心の堀田源八郎(黒沢年男)、香泉寺の尼僧で「庵主様」こと香月尼(浜木綿子)、不良の寺男・留吉(水谷豊)、妻に頭が上がらない牢番の平七(山城新伍)。もはや本物の同心は、ひとりしかいなくても、「影同心」は成立したんですね。
 第一話「影の裁きは菊一輪」は、越後屋(藤岡重慶)の妾でひとり息子も授かったお久(吉行和子)が、ある日、越後屋に捨てられ、途方に暮れる。母子を助けようと、平七は元錠前破りの技を活かして、越前屋の蔵から金を盗もうとするが、そのせいでお久は惨殺されてしまう。怒った香月尼は「一殺多生。浮かばれぬ哀れな人たちを成仏させるためならば、私は喜んで地獄に落ちます…」と宣言。四人は、越前屋一味を闇に葬る決意をする。
 それぞれの技は、源八郎が刀を使い、平七は黒髪やふんどしで絞殺を図る。見せ場のひとつは留吉で、口にした爪楊枝がシルエットで現れ、悪人の額にピュッと突き刺さるととどめにコーン!と鎚で打ち込む。そして、香月尼は鋭くカットしたお供えの花の茎を相手の首にブスリ! 四人は、雨の中、「二度と引き返せない道に踏み込んでしまった…」と覚悟を決めるのだ。
 それまでのアクション路線から、「影同心Ⅱ」は庵主様も入ったためか、工藤栄一、倉田準二、井上昭ら監督陣に映像美のこだわりが見える。タイトルが「妻の秘め事乱れ菊」「尼寺㊙女郎花」「㊙女色地獄」など秘め事が多いのも特長のひとつ。源八郎の情婦おいねを演じたのが、昨年亡くなった片桐夕子で、蓮っ葉だが可愛い女を演じ、ファンを喜ばせた。
 そして、やっぱり気になるのが、これが70年代の水谷豊の貴重な連続時代劇出演作ということだ。
  水谷豊は、68年にフジテレビの「バンパイヤ」でデビュー後、ホームドラマ的時代劇「肝っ玉捕物帳」などに出演後、萩原健一と共演した74年「傷だらけの天使」の乾亨でブレイク。「影同心Ⅱ」は、その翌年の作品だ。その後、76年には鶴田浩二と共演したNHK「男たちの旅路」、78年に始まった日本テレビ「熱中時代」シリーズと名作への出演が続くが、「影同心Ⅱ」の世にあぶれた不良青年の留吉は、乾亨に近い。よく見ると、留吉のどこか寂し気な顔のアップがどの回にも出てくる。最終回「そして影は去った」は、「傷だらけの天使」で共演した岸田森がゲストだった。この翌年の映画「青春の殺人者」とともに、時代を映す若者役としてなくてはならない俳優だったのだということがわかる。各々の監督が見つめた留吉のアップに、ぜひ、注目を。

今回ご紹介した作品

影同心Ⅱ

放送
8月11日から東映チャンネル(スカパー、ひかりTV、ケーブルテレビ、J:COM)で毎週金曜日あさ9時~11時(2話)放送
配信
YouTubeにて、第1~2話を無料配信中

情報は2023年8月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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