ペリー荻野さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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雲霧仁左衛門6

2023/9/11配信

悪が悪をギャフンと言わせるカタルシス

 今年生誕百年となった作家・池波正太郎の時代小説をドラマ化した人気シリーズ。盗賊雲霧仁左衛門(中井貴一)一党と、「生涯の敵」と雲霧召し取りに執念を燃やす火付盗賊改方長官・安部式部(國村準)の攻防を描く。

 雲霧は、決して人を傷つけず大金を奪い、雲か霧のごとく、姿を消す。狙うは厳重な警戒態勢の大店や悪人の蔵ばかり。そんなミッションインポッシブルを実行可能にしているのは、メンバーの特技を活かした周到な作戦と完璧なチームワークだ。

 たとえば、名古屋の大商人・松屋を狙った際には、一味の美女で変装と色事の達人姐さん、七化けのお千代(内山理名)を京の雅な女に化けさせ、店の主人をメロメロに。地元では、すでにお千代の付け人の老人も店の手代も近所の茶店の老夫婦までもが雲霧の仲間というパーフェクトな布陣が出来上がっているのだ。一方、現地に乗り込んだ安部捜査班は、慣れない土地で聞き込み、張り込みで追いかける。安部は捕らえた雲霧の手下をわざと奪還させ、逃走経路で一網打尽にしようとまでするような手ごわい男。情報戦、尾行、潜入…こうしたスリルも見どころとなる。

 これまで「雲霧仁左衛門」は、78年、仲代達矢の映画版をはじめ、79年には天知茂、87年には松方弘樹、91年には萬屋錦之介、95年には山崎努主演で映像化されてきた。歴代の雲霧は、ふだんは品のいい商人のようだが、いざ、盗人装束となると、なかなかに個性的。「極道の妻たち」などで知られる五社英雄監督の仲代達矢は、全身を真っ黒な鎖帷子で固めたメタル系で武闘派のイメージだったし、天知茂は額部分に金属を取り付けた鉢がねはちまきを巻いて登場。現在の中井貴一は、布の覆面で暗闇からすっと姿を現すのが定番だ。

 そのキャラクターに共通するのは、独特の男の色気があることだ。こどものころ、雲霧に拾われたお千代は、盗みのために男に身を任すこともあるが、本当は身を焦がすほどお頭を慕っているのである。

 もともと武士だった雲霧は、藩内の陰謀によって両親を失う。兄とともに家を出て、盗賊となったが、藩への遺恨を晴らすため、命がけで藩の御用金強奪を実行する。実はその直前、自身に捕縛の手が伸び、そのときは兄が「雲霧仁左衛門である」と名乗り、代わりに処刑されていたのである。理不尽な武家社会への怒りと敵討ちへの強い決意と信念の「熱」と家族を襲った悲劇による「翳」が、この男の不思議な魅力となっている。

 放送中の第六弾の舞台は京の都。雲霧一党は、将軍上洛を契機に江戸から流れ込む100万両とも言われる資金に群がる悪人たちの動きを探る。第一話では、宮廷の仕事を世話してほしければ「先立もんがいるんとちゃうか」と露骨に豪商たちに金品を貢がせる悪徳公家を狙った。一党のメンバーで美貌の芸妓胡蝶(中田クルミ)が公家を酔わせて蔵のカギを放り投げると、天井に潜んでいた州走りの熊五郎(手塚とおる)がキャッチして、すかさず粘土がカギの型をとり、カギは元通り公家の懐に。その後、一党は整備中の庭に敷き詰める土の袋に入って公家の邸内に侵入。深夜、びりびりと袋を破って姿を現し、悪資金を奪って見せた。お見事!! 思わず声をかけたくなるような外連味たっぷりの技も雲霧シリーズならではだ。
 しかし、そこには老中から命じられ、将軍警護の下見のため、京に出向いた安部式部の姿が! やっぱり来てたのね。因縁のふたりは、闇夜で向き合う。
「久しぶりじゃの」(式部)
「フフフ…」(雲霧)
 ただならぬ緊迫感。だが、好敵手に巡り合って、ふたりともどこか嬉しそうにも見える。ともに優秀なチームを率いる名将同志のにらみ合いも見せ場のひとつ。ちなみに前述した過去の雲霧作品では、仲代達矢の映画版では八代目松本幸四郎、天知茂版では田村高廣、萬屋錦之介版では過去に雲霧を演じたこともある松方弘樹、山崎努版では中村敦夫が安部式部役。こちらも名優が演じてきた。時代劇の名脇役といっていい。

 今後、中井雲霧チームは「上方一の商人」をめざす野心家の今津屋のおつる(原田美枝子)や京都所司代・蒼井(八嶋智人)、御用金30万両を要求する公家・中末吉(野添義弘)らを標的にしていく。気になるのは、京都町奉行(寺島進)の存在だ。この奉行は超多忙だが盗賊捕縛にはやる気満々だという。寺島進がやる気満々ということは、暴れずにはいられない。大捕物が必須。原作にないオリジナルストーリーだけに、雲霧一党の誰かが命を落とす可能性もある。今、うっかり盗賊の死を「殉職」と書いてしまいそうになったが、見ていると、つい盗賊側に味方し、ハラハラする。この緊張感と悪が悪をギャフンと言わせるカタルシス。これが、このドラマの楽しみでもある。

今回ご紹介した作品

雲霧仁左衛門6

放送
NHK BSプレミアム・BS4Kにて毎週金曜 よる7:30~放送中
配信
NHKオンデマンドにて全話配信中

情報は2023年9月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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