ペリー荻野さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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西遊記<4Kデジタルリマスター版>

2023/10/26配信

レギュラー四人のキャラクター、名優の妖怪等々、面白くならないわけがない。

「今は昔、天も地もしっちゃかめっちゃかになっておりましたころ、花果山から生まれた一匹の石猿、人呼んで孫悟空」
昭和の名ナレーター・芥川隆行の名調子を受け、1978年、日本テレビの開局25周年記念番組として始まった「西遊記」は、こどもたちを中心にたちまち大人気となった。

Ⓒ国際放映

 物語の主人公、孫悟空(堺正章)は、伸縮自在の「如意棒」を振り回し、スーパー飛行雲「觔斗雲(きんとうん)」に乗って暴れまわり、ついにお釈迦様(高峰三枝子)によって、カチコチの五行山の岩に閉じ込められる。五百年後、孫悟空は、自分を救ってくれた三蔵法師(夏目雅子)をお師匠様と仰ぎ、豚の化け物の猪八戒(西田敏行)、カッパの化け物・沙悟浄(岸部シロー)を引き連れて、ありがたい経典を求めて天竺に向かうことになった。しかし、道中には妖しい怪物たちが待ち受けていた。孫悟空たちは秘術を尽くし、妖怪たちに立ち向かう。

 なんといってもこのドラマを面白くしたのは、レギュラー四人のキャラクターだ。
 孫悟空はけんかっ早いが人情味があり、猪八戒は大食いで美女に弱い。沙悟浄は飄々とマイペース。堺は勢い余ってズッコケ、西田は興奮すると耳からシューッと水蒸気を出し、岸部は大きな鯉を持って池の中からぬっと現れる。三人はやりたい放題で笑わせる。なお、堺はザ・スパイダース、岸部はザ・タイガース、猿とカッパではあったが、グループサウンズの二大人気グループメンバーの夢の共演となった。

 その三人(匹?)を見守る三蔵法師の夏目雅子の美しさは、今も語り草だ。特に「おやめなさい、悟空!」「仏の道からはずれたことです」などとキリリと叱り、諭すときの三蔵法師には、神々しささえ感じる。そんな三蔵法師が、妖術により猪八戒の魂が乗り移って、いきなり目が据わった福島弁の酔っ払いになったり、吸血鬼になって牙もむく。こんな夏目雅子のお茶目さも、また語り草だ。

Ⓒ国際放映

 そして、毎回、彼らを脅かしたり、惑わす各地の妖怪たちも素晴らしい。
 たとえば、第四話「妖怪夫婦 金角、銀角」の回には、旅の僧侶を食べて長生きする妖怪夫婦が登場。術を使って孫悟空たちをひょうたんに押し込み、にたにたする極太黒ひげ&もさもさ頭に角を生やした金角は、内田良平。キンキラの冠に隈取のようなアイシャドーの銀角は三条泰子。シリアス時代劇の傑作「十三人の刺客」(63年)での知的な武士が凛々しかった内田と「戦争と人間」など社会派作品から娯楽作まで活躍した老舗「劇団民藝」の三条が、ここでは思いっきり妖怪に…。また第8話「悟空危うし!鱗青魔王の逆襲」で「孫悟空!見忘れたか!!」と洞窟から現れた、顔が紺色で体を手のひらサイズのウロコに包まれた妖怪・鱗青魔王が誰かと思えば、ひーっ、中尾彬! 青大将の化身になってるし! この他、緑魔子、長門勇、蟹江敬三など、名優たちが本気で妖怪になりきるんだから、面白くならないわけがない。

 その芝居を盛り上げたのが、スタッフだ。脚本はウルトラマンシリーズの佐々木守をはじめ、「仮面ライダー」の石森史郎、後に西田主演の大河ドラマを書くジェームス三木、「熱中時代」の布施博一など実力派脚本家たちが16世紀に中国で書かれたとされる原典を大胆に脚色。CGがない時代、第一シリーズでは、円谷プロ、第二シリーズではゴジラ特撮監督チームも参加。冒頭石猿の孫悟空が出てくる場面だけで巨額が投じられている。孫悟空が乗る「觔斗雲(きんとうん)」はアニメで表現し、幻想的な風景などはミニチュア、中には30メートルの竜を実際に制作したこともある。一方クロマキーによるVTR合成も駆使するなど、あらゆる技術を結集し、壮大なシーンを作り上げた。オープニングの「モンキー・マジック」、エンディングの「ガンダーラ」とゴダイゴによる主題歌も印象に残る。ゴダイゴの採用は、このドラマのプロデューサー、香取雍史(かとりようじ)のお嬢さんの推薦だった。

Ⓒ国際放映

 78年は、「日中平和友好条約」が締結された年で、「西遊記」は万里の長城などで本格的なロケが行われた。私はこのドラマの殺陣師・宇仁貫三さんはじめ、関係者に取材する機会があった。とにかくロケは大変で、国内では御殿場などで撮影されたが、近くにトイレがなく、隅っこで用を足していると、自衛隊の戦車が通りかかり、「頑張ってください」などと声をかけられたりしたという。堺正章は、夏目雅子が困らないようにとキャンピングカーを購入している。

 「西遊記」は、日曜日夜、大河ドラマと同時間帯の放送だったが、第一シリーズが高視聴率を記録。第二シリーズ(猪八戒は左とん平)も人気を集めた。果たして一行は天竺にはたどりつけたのか。妖怪話が面白すぎて、すっかり旅の目的を忘れそうだが、結末をしっかり見届けたい。

今回ご紹介した作品

西遊記<4Kデジタルリマスター版>
(2Kダウンコンバートにて放送)

放送
時代劇専門チャンネルで毎週月~金曜 よる9:00~放送中

情報は2023年10月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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