ペリー荻野さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

>プロフィールを見る

リクエスト

大奥Season2

2023/11/28配信

幕末編のキーワードは「身代わり」

「幕末編」が始まり、いよいよ幕引きのときが近づくNHK「大奥Season2」。若い男ばかりが罹患する謎の疫病をきっかけに女が将軍となった特殊な世を描くこのシリーズならではの名場面が続く。

 幕末編のキーワードは「身代わり」だ。

 前半では、13代徳川家定(愛希れいか)を巡る人々が描かれた。
 家定が実の父・12代将軍家慶(高嶋政伸)から虐待され、毒まで盛られていることを知った老中・阿部正弘(瀧内公美)は、芳町で陰間(男娼)をしていた瀧山(古川雄大)をスカウトし、家定のために大奥を作り上げる。もともと阿部の家は先祖が危急の際には上様の身代わりとなるべく、同じ輿に乗った忠義で出世したといわれる家柄なのだ。

 絢爛な花魁姿だった瀧山は、大奥では伝統の「流水紋」を背負った凛々しい大奥総取締に。大奥の男たちは常時上様のそばにいられない正弘の代わりとなって、家定を守ると宣言、家慶の悪事を阻止する。将軍の自分に逆らうのかと怒る家慶に、「おそれながら某の主は家定様にござります」と毅然と言い切る瀧山。うーん、まぶしい!!

 その後、家定は薩摩からきた美麗にして聡明な御台所・胤篤(福士蒼汰)と仲睦まじくなるが、正弘は重い病に。瀧山にお姫様抱っこをされて庭に出た正弘は、馬を走らせ、見違えるように健康になった家定を見て感涙にむせぶ。そして、「身代わりは阿部のお役目」「上様の過去も病もすべてあの世に。私にお運びさせてくださいませ」と最後の挨拶をするのである。

 そして「幕末編」の後半には、究極の「身代わり」和宮(岸井ゆきの)が登場した。
 彼女は、孝明天皇の妹宮として誕生したが、生まれつき左手がなく、弟ばかり可愛がる母の観行院から、愛情を注がれないまま、隠すように育てられた娘。公武合体政策で将軍・家茂(志田彩良)に嫁ぐことになった弟が拒否したため、男装し身代わりで大奥に入る。

 男装して身代わりとはすさまじいが、考えてみると、そもそもこの男女逆転「大奥」の始まりの三代将軍・家光も父の家光が亡くなったことを隠すため、無理やり身代わりの将軍にされたことから始まっている。家光は男装させられ、跡取りを生むことを強要された。和宮についても驚くことではないのかもしれない。

 むしろ、驚くのは和宮が身代わりと知った家茂の判断だ。和宮の境遇を知った家茂は、彼女が女性ということを秘し、和宮として迎えた。知的で観察力もあるが、口が悪く、屈折感丸出しの和宮は家茂の優しさや思いやりに戸惑いつつ、次第に信頼関係を築いていく。Season1では、将軍と大奥の男たちとの恋情が大きなテーマだったが、幕末編は、家定と正弘、家茂と和宮、女たちの絆がドラマを動かす。

 倒幕の嵐の中で、家茂は遠征中に急逝。悲痛な中、15代将軍となった徳川慶喜(大東駿介)により大政奉還がなされ、天璋院、瀧山らは大奥の終焉を見届けることになる。このドラマの慶喜は、家定に次の将軍候補と言われたときには「将軍に就くのはわずかな例を除き女ばかり。男である私にはとてもとても、将軍職など務まりませぬ」などと言ったりする。そういう言い方があるかと思うほど、ずいぶん感じが悪いが、史実によれば和宮や天璋院は、慶喜の助命に尽力する。徳川の歴史の中でも、大奥の面々がこれほど表舞台で力を発揮した時期はない。江戸城無血開城についても、話し合ったのは幕府側・勝海舟、新政府側・西郷隆盛。天璋院にとっては、実家が嫁ぎ先を滅ぼすべく、攻めてくるのである。

「大奥」の登場人物の多くは、家族関係で重いものを背負っている。幕末編でも、虐待された家定、母が重罪を犯した瀧山、跡取りになることを拒否した兄を持った正弘、そして和宮。彼らは大奥での出会いを経て、疑似家族のようになる。家定を亡くした胤篤(天璋院)は、家茂の義理の親として和宮ともども見守っているし、大奥ににらみを利かせる瀧山も彼らの兄か父のようだ。傷ついた彼らが、やっと居場所を見つけ、自分を助けてくれた人のために心を尽くし、助け合う姿には胸打たれる。

 すべてが終わって、彼らはどんな景色を見るのだろう。

 Season1の最終回では、将軍・吉宗(冨永愛)が、現代の東京を闊歩した。過去の作品、たとえば大河ドラマ「篤姫」では、勝海舟(北大路欣也)の案内で、天璋院(宮﨑あおい)と和宮(堀北真希)が、仲良く人力車で東京の街を見物してまわった。男女逆転であるこのドラマでは、また違う展開もありうる。志半ばで命を落とした登場人物も数多い。福士蒼汰はSeason1では、三代将軍家光の美貌の側室・お万こと万里小路有功を演じていたことも忘れがたい。
 彼らの思いを受け継ぐ天璋院と瀧山、輝くばかりの幕末大奥ツートップが胸を張って生きる姿が見たい。

今回ご紹介した作品

大奥Season2

放送
NHK総合で毎週火曜22時~放送中。
配信
NHKオンデマンドで過去回を全話配信中。

情報は2023年11月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

週刊テレビドラマTOPへ