ペリー荻野さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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光る君へ

2024/4/2配信

面白さの秘密は「3つの多め要素」にある

 激動の戦国、幕末とは違っておっとりまったりイメージの平安時代を舞台に、いったいどんな大河ドラマになるのかと思った「光る君へ」。始まってみると、おっとりしている人間がひとりもいないという驚きの場面の連続で、話題を集めている。

 その面白さの秘密はどこにあるのか。
 私は「3つの多め要素」にあると思う。

 多め要素その①は「LOVE」である。
 ヒロインのまひろ(後の紫式部 吉高由里子)は、第一話で三郎(後の藤原道長 柄本佑)と出会い、互いに惹かれあう仲に。しかし、食べることにも事欠く下級貴族の娘のまひろと権力のトップを狙う右大臣の息子である道長とでは、ものすごい身分の差があるのである。しかも、道長の兄・道兼(玉置玲央)は、無惨に母を殺した張本人。道長は親の仇の弟…。障害が多いほど盛り上がるというのは、ラブストーリーの王道中の王道。道長は熱烈な文をまひろに送り続け、彼女も「離れなければ」と思いつつも忘れられないのである。

 後に道長は紫式部のスポンサーとなるのは史実で、ふたりが相思相愛という説もあるが、こどものころから出会った初恋の相手だという確証はどこにもない。そのあたりの創作をぐぐっとドラマに入れ込んだ上に、まひろが飼っている小鳥が逃げ出したことで初めて二人が出会うなど「源氏物語」のエピソードも盛り込み、悶絶ラブストーリーに仕上がっているところは、さすが、大石静脚本といえる。そもそも主人公の恋情が、こんなにストーリーの軸になった大河ドラマはかつてなかった。

 多め要素その②は「イケメン」。
 LOVEモードはまひろと道長だけではない。そこで注目されるのが、藤原公任(キントー・町田啓太)、藤原斉信(タダノブ・金田哲)、藤原行成(ユキナリ・渡辺大知)に道長を加えたイケメン四人組、人呼んで「F4」である。公任は公卿のトップ関白の息子、斉信は大納言の息子、行成も藤原の名家の出身で、全員がキラキラの超エリート。公任は、歩いているだけで女子から恋文を袖に入れられ、文を書いた女子について「歌はうまいが、顔はまずい」なんてことをサラリと言うし、恋多き男の斉信は左大臣・源雅信の娘・倫子(黒木華)は「俺を待っているのかも」と言い出す。当時の結婚は男が女の家に婿入りする形なので、彼らにとっては家柄のいい女がベストで、他は遊び。なんだか感じ悪い気もするが、女子の側もなかなかのもの。ききょう(後の清少納言・ファーストサマーウイカ)は、人妻であるのに、斉信から、熱い視線で観られるとまんざらではない様子。倫子ら上級貴族の娘たちも殿方の噂をしてはキャーキャー言ってる。

 この後、道長の出世のライバルとして登場するのが兄・藤原道隆の息子・伊周。彼もまたピカピカの御曹司で、18歳でいきなり朝廷の要職の参議となり、あっという間に内大臣にまで昇進した。美男子として名高く、清少納言は月夜の晩に声をかけられただけでドキドキしたと記している。演じるのは、三浦翔平だ。

 そして、後半、重要人物となる一条天皇役は塩野瑛久。清少納言が仕えた定子(伊周の妹)も紫式部が仕えた彰子(道長の娘)も、ともに一条天皇に入内している。イケメンの帝が誰を寵愛するかで、彼女たちの運命も変わっていくのである。

 この他、道長や乱暴者の道兼を優しく見守る藤原の嫡男・道隆は井浦新、まひろの年上の夫となる藤原宣孝は佐々木蔵之介。おとなの魅力を見せるイケメンも出ている。大河ドラマには、野性味やリーダーシップで注目されるイケメンは数多く出てきたが、このドラマのイケメンたちには漢詩や和歌、書など「雅」な雰囲気があるのがミソ。「烏帽子はとらない」「袖から指をほとんど出さない」平安のイケメンたちが多くの視聴者にバッチリ記憶されることは間違いない。

 多め要素その③は「芸人」。
 大河ドラマには、98年「徳川慶喜」に出たダチョウ倶楽部のように芸人が出た例はあるが、「光る君へ」では、芸人の出演者が重要な役割を担っている。
 そのひとりは前述したはんにゃの金田哲。金田演じる藤原斉信の妹のもとに伊周が通っていたのがきっかけで、伊周と弟の隆家が逮捕されて流罪になる「長徳の変」という大事件が起こるのだ。果たしてそのとき、斉信は!?

 また、細身の色白貴族が多い中、日焼けモードと体格で目立っているのが、ロバート秋山竜次が演じる藤原実資。はじめはコメディシーン担当かと思ったが、天皇の側近として、儀式やしきたりをきっちりやろうとするまじめ男だった。権勢欲丸出しの道長の父・右大臣のことは嫌いだが、筋を通すところは認めるなど、人をよく見ている人物でもある。それだけにストレスがたまることも多いらしく、妻に愚痴っては「くどい」と言われている。

 そして、目立たないがここ一番の場面に欠かせないのが、まひろの従者・乙丸役の矢部太郎。好奇心旺盛なまひろに振り回され、騒動の中で彼女を守ろうとしてポカンと張り倒されたりしている。

 出世と女子のことで頭がいっぱいの斉信、わがままな帝に困らされる実資、「姫様」とまひろのそばに居続ける乙丸。芸人が演じるキャラは、平安の人々の人間臭い一面を見せて面白い。

 いろいろな要素を盛り込んで、平安の人間模様を今まで見たことがなかった角度で描く「光る君へ」。LOVEの行方も気になるが、呪詛や陰謀、愛憎なども次々出てくる模様。本当は油断ならない時代だったんですな、平安て。

今回ご紹介した作品

光る君へ

放送
NHK-BS、NHK総合
配信
NHKオンデマンド

情報は2024年4月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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