ペリー荻野さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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子連れ狼3

2024/5/7配信

時代劇の常識を打ち破り一大ブームに!

 近年、若者の間で「昭和文化人気」が広がっている。ファッション、歌謡曲、グルメ…いろいろあるが、昭和は時代劇がブームを巻き起こした時代ということも忘れちゃいけない。「銭形平次」の銭投げ、「木枯し紋次郎」のくわえ楊枝、「必殺」シリーズの殺し技などなど、当時の小学生はよくマネをした(そして、たいてい叱られた)。

 そんな中、橋幸夫が歌う主題歌や笑福亭仁鶴が主人公に扮して「3分間待つのだぞ」とレトルトカレーの宣伝をしたパロディCMまで人気となったのが、「子連れ狼」。映画では若山富三郎、田村正和、ドラマでは高橋英樹、北大路欣也も演じているが、テレビで一大ブームを巻き起こしたのは、1973年から76年にわたって3シリーズが制作された萬屋錦之介主演版である。

 物語の始まりは、大名・旗本などが切腹する際の介錯を務める「公儀介錯人」の拝一刀(おがみいっとう)が、柳生烈堂率いる裏柳生(柳生一族の中で暗殺など汚れ仕事を請け負う)の罠により、妻を殺され、罪人とされてしまう。一刀は、その日から、壮絶な旅を始めることになる。

 突然、すべてを奪われた男が復讐を誓う。ストーリーの軸はとてもシンプルながら、「子連れ狼」は、それまでの時代劇の“常識”を打ち破る要素が満載だった。

 第一のポイントは、なんといっても「子連れ」であること。一刀は、妻が命をかけて守り抜いた三歳の一子・大五郎を箱車に乗せ、「一殺五百両」の刺客となるのである。裏柳生は全国に配下を潜伏させていて、すれ違いざまに虚無僧集団に斬りかかられるなど日常茶飯事。当然、敵は弱点である大五郎を狙ってくる。さらわれたり、縛られたり、幼子のピンチは続く。思えば、♪しとしとぴっちゃん~で始まる人気の主題歌も殺し屋の仕事で留守にする父を、ひとり待つ大五郎の歌だ。父が生きて戻らなかったら、この子も骨になる…って、すさまじい歌なのである。それでも、大五郎は泣いたりわめいたりしない。敵をにらみつけ、「さすがは狼の子」なんて言われる。三歳といえば、幼稚園の年少さんですよ…。こんな危機を乗り越えたときに、「ちゃん!」と駆け寄る大五郎のいじらしさと一刀が見せる父の顔。これまでの時代劇にはない見どころだった。ちなみに萬屋版で、二代目大五郎を演じた佐藤たくみくんは、オーディションで選ばれた理由が「無口だから」だったという。

 第二のポイントは、一刀の戦いぶりである。

 一刀は、「水鷗流」剣の達人。時代劇で剣豪は刀での闘いにこだわることが多いが、一刀は多勢を相手にするだけに、ありとあらゆるものを武器にする。特に大五郎を乗せた「箱車」には、ものすごい仕掛がある。

 車の持ち手が仕込みヤリになっているのは序の口で、底は鋼鉄仕様で銃弾除けに、雪面を滑るスノーモービルに、ここ一番の時には隠された機関銃がダダダと火を噴く!! 箱車に不可能はないのだ。

 第三のポイントは、強烈なキャラクターが続々出てくること。

 萬屋版第一部「あんにやとあねま」の回には、浜木綿子(香川照之の母)が、男言葉をつかう酉蔵親分として登場。掟に従って、一刀を逆さづりで水責めにする。第二部「生前香典」には、なぜか天冠(幽霊が頭につけている三角巾)をつけた敵(中尾彬)が一刀を襲撃。極め付きは第二部最終話「鞘香」で、烈堂の娘・鞘香が小刀をお手玉のごとくくるくると高く上げ、敵の脳天を貫くという恐怖の必殺技「お手玉の剣」で一刀に挑む。すると一刀は、大五郎を肩車したのである。このままではお手玉の刀は大五郎に!?と、一瞬、ためらった鞘香は敗北。しかも薄布をまとっただけの彼女の胸は露わに…このころの時代劇には半裸シーンはよくあったが、闘いの末というのは、さすがこのシリーズだ。

 こうした激闘を経て、大詰めの第三部には、またまた強烈なキャラクターが登場。その名は阿部頼母、別名、阿部怪異。演じたのは映画、ドラマ、「スーパー歌舞伎」でも活躍した名優・金田龍之介だ。巨漢俳優がいびつなスキンヘッドにガタガタの歯をむき出しにした奇怪な「将軍家お毒見役」に。毒を知り尽くした頼母は、一刀を狙うが、反撃されて「ひえーっ」と逃げ出し、それでも「ひひひ」と白目をむいて笑いながら悪だくみを続ける。まさに怪演だ。

 そして、いよいよ白装束の一刀と烈堂の河原での一騎打ちは、大爆発あり、豪雨あり、時代劇の歴史に残る長さと熾烈さだった。そして、その結末も歴史に残る。

「子連れ狼」は、小池一夫・原作、小島剛夕・画による劇画が原作だ。編集長に小島さんを紹介された小池さんが「剣豪にとってもっとも弱味になるのは子どもでは」とアイデアを出したところ、「面白い」といつも持っている筆でするするとその場でイメージを描いたという。ドラマのタイトルバックにも愛らしい大五郎の画が出てくる。小池・小島は名コンビとなったが、顔を合わせるのは、年に数回ほど。息の合った二人の才能が、時代劇の殻を破る名作を生んだのだった。

今回ご紹介した作品

子連れ狼3

放送
時代劇専門チャンネルにて毎週月~金曜 あさ8:00放送中

情報は2024年5月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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