ペリー荻野さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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君とゆきて咲く~新選組青春録~

2024/6/17配信

原作・手塚治虫のイケメン隊士が舞う「シン・時代劇」

 新選組といえば、これまで多くの作品で、顔が大きくて四角い(拳を口に入れるのが特技)近藤勇と冷徹な鬼の副長・土方歳三、愛嬌ある天才剣士・沖田総司などが、名キャラクターとして描かれてきた。近藤勇だけでも、昭和のスター鶴田浩二や三船敏郎、大河ドラマ「新選組!」に主演した香取慎吾、映画「燃えよ剣」の鈴木亮平などの顔がすぐに浮かんでくる。

 近年は、新選組に迷い込んだ女子と吸血鬼もからんでくる「薄桜鬼」シリーズやスマホの画面だけで土方が文句を言ったり愚痴を言ったりするミニドラマ「土方のスマホ」など、異色の新選組作品も増えてきた。

 そんな中、またまた見たこともない新選組が現れた。「君とゆきて咲く~新選組青春録~」(テレビ朝日系・水曜深夜0時15分)である。

 幕末の京都。勤皇か佐幕か。不穏な空気が漂うある晩、京都で茶屋を営む深草丘十郎(奥智哉)の父が、佐幕派藩士をかばったため、長州藩士に斬殺されてしまう。丘十郎は、敵を討つため、壬生浪士組に応募。近藤勇(高野洸)、土方歳三(阪本奨悟)、芹沢鴨(三浦涼介)ら幹部や同じく新入隊してきた鎌切大作(前田拳太郎)らとともに幕末の風雲を駆け抜ける。

 東映とテレビ朝日がタッグを組んだニュースタイルの歴史エンタテインメント「シン・時代劇」と銘打っているだけに、新たな新選組は、外見からして、ものすごく個性的。大作は、紺と白の太い縦じまの着物でクールなイメージ。対照的に沖田は、襟だけ白い真っ赤な着流しで情熱的。メガネの山南敬助(永田崇人)の胸元には赤いコサージュをつけて登場。肝心の丘十郎の袴は、なんと赤と白のストライプだ。そんな中でも特に異彩を放つのが芹沢鴨。肩にファーをかけ、くるくるパーマヘアに極細眉毛で、赤系のアイシャドーも見える。ほぼ全員、チョンマゲもない。だんだら模様が定番の隊服も、流水のような柄でピカピカと光っている。

 加えて彼らは、激しい殺陣とともに秀麗な演舞も見せるのである。エンディングでは、切ない歌とともにダンスを披露。新選組は幕末のアイドルグループだったの!? と思えるほどだ。彼らの目標のひとつは「『Mステ(ミュージック・ステーション)』に出ること」らしい。私としては、ぜひとも、この衣装で出てもらいたい。

 とはいえ、第五話では、会津藩に剣舞を披露することとなり、若手隊士を芹沢がしごく。剣を持ったこともなかった丘十郎は、まったく動けず、苦悩するばかりだ。

 長年、時代劇を見ている私もまさか新選組の舞の出来を心配する日がくるとは思っていなかったが、これから彼らを待ち受ける試練を思えば、舞ができなくて泣いてる場合じゃないのである。芹沢鴨の暗殺や池田屋騒動など新選組の大事件がどこまで描かれるのか、丘十郎の敵討ちはどうなるのか。「シン・時代劇」の行方が気になる。

手塚治虫の時代劇の世界

 もうひとつ「君とゆきて咲く~新選組青春録~」で気になるのは、原作が手塚治虫の隠れた名作といわれるマンガ「新選組」であるということ。

 手塚治虫といえば、「鉄腕アトム」、「ジャングル大帝」、「リボンの騎士」など夢のある作品、高橋一生主演で実写化が発表された「ブラック・ジャック」「アドルフに告ぐ」など社会派作品など、多彩な作品を発表している。時代劇では、室町時代を舞台にたくさんの妖怪たちが出てくる「どろろ」や幕末、正義感あふれる武士と女好きだが人のいい医師の生き方を描いた「陽だまりの樹」が知られる。

「どろろ」は69年に初めてアニメ化され、2007年には妻夫木聡、柴咲コウの顔合わせで映画化されている。

 私は69年のアニメをモノクロテレビ(アニメ自体もモノクロでしたが)でオンタイムで見て、衝撃を受けた。冷酷な武将・醍醐景光が、天下を獲る野望のために、48の魔神に「明日生まれてくるこどもをやろう」とわが子を捧げる。生まれた子は目や耳、手足、皮膚、神経など48か所を奪われていた。十五年後、その子・百鬼丸は、どろろという盗人小僧と子犬を道連れに、義手に仕込まれた刀で48匹の魔物を退治しながら体の各部を取り戻す旅を続ける。

「陽だまりの樹」もアニメやドラマ化され、ドラマで青年武士・伊武谷万二郎を演じたのは市原隼人、蘭方医師・手塚良庵を演じたのは成宮寛貴だった。ちなみに手塚良庵(良仙)は、手塚治虫の曾祖父である。安政の大地震、天然痘との戦い、そして戊辰戦争、西南戦争と激動の中で、二人の運命は別れる。

「どろろ」、「陽だまりの樹」、「新選組」、どの作品にも共通しているのは、戦と戦を起こす人間への怒りだ。ハッピーエンドはあり得ない。だからこそ、忘れられない。令和の深夜、厳しい法度の中で命がけで戦い、滅びていく男たち(全員イケメン)、キラキラと輝く新選組を観ながら、奥底にある手塚治虫の思いが、若い世代にも伝わればいいなと願っている。

今回ご紹介した作品

君とゆきて咲く~新選組青春録~

放送
テレビ朝日系で水曜0時15分~
配信
TVer、TELASAなど

情報は2024年6月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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