地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。
※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。
遠山の金さん(高橋英樹主演)
2024/7/26公開
悪を斬る!痛快エンターテイメント! 時代劇の金字塔「遠山の金さん」
現代ドラマでは、刑事や弁護士、検事、裁判官が事件と向き合う「法廷もの」は人気が高いが、それらすべての役割をひとりでこなしていた時代劇のヒーロー。それがご存知、遠山金四郎こと、江戸の名奉行「遠山の金さん」である。ちなみに当時の町奉行は、行政の長官でもあり、都知事の役割も果たしていた。そんな「できる男」金四郎は実在の人物で、父は長崎奉行などを歴任したエリート。なのに、息子の金さんは若いころ、盛り場にも出入りし、結構な不良少年だったらしい。
こうしたイメージから生まれたのが映画・ドラマの「遠山の金さん」。
若気の至りで背中に見事な桜吹雪の彫り物をした金さんは、奉行になっても、ふだんは町をぶらぶらする遊び人の姿で自ら事件を探索。ここ一番というときは、悪人たちに背中の桜吹雪を見せて、やっつける。そして、お白洲では北町奉行として颯爽と登場。「証人を出せ」などと、開き直る悪人たちに怒った奉行は「おうおうおう!」とべらんめえになって、裃の片肌をさらりと脱げば、そこには動かぬ証拠の桜吹雪が。奉行が現場にいたあの金さんだとわかって驚愕する悪人たちに「磔獄門!!」などと刑を言い渡し「一件落着」で締めくくるのである。
悪人たちをギャフンと言わせる大逆転。勧善懲悪のスッキリ感。金さんシリーズには、時代劇の面白さが詰まっている。
テレビ時代劇の歴史の中でも、金さんほど多くの名優がシリーズで演じてきたヒーローは他にない。しかも、同じ役を演じながら、個性もいろいろ。よく見れば、トレードマークの桜吹雪の絵柄も各人オリジナルである。
陣出達朗の原作を基にしたテレビ朝日系の歴代金さんを見てみると、その初代とも言えるのが1970年から73年にわたって金さんを演じて親しまれた中村梅之助。梅之助金さんは自ら「ちょいと知られたお兄さん」と親しみやすさをアピールする庶民派金さん。遊び人の顔とお奉行の顔のメリハリがいいと評判だった。
その後を継いだ二代目が歌舞伎界の四代目・市川段四郎。居酒屋「樽平」の常連で、駕籠かきコンビや居酒屋の看板娘のお照ちゃんなど、しょっちゅう仲間が「金さ~ん」と事件を持ち込んでくる。名探偵のような雰囲気で、ついには元軽業師どこにでも忍び込む謎のイケメン弥太郎(市川銀之助 現在の市川團蔵)までもが『オレを密偵に使ってくれ』と立候補。町の人気者金さんは、段四郎の貴重な時代劇出演作となった。
三代目が橋幸夫。驚いたことに主題歌はもちろん、ドラマの中でも歌い出す‟シンガーソング金さん”だった。第一話では、太鼓演奏まで披露した。相棒の太吉も「新聞少年」のヒット曲を持つ人気歌手山田太郎。橋金さんは花札を武器にして、ここ一番の瞬間、悪人たちにピッと投げるのが得意技。よく見ると桜吹雪の彫り物にも花札が描かれている。四代目は、杉良太郎。立ち回りの激しさ、お白州での怒りの強さでも有名だ。そんな中、金さんとおとぼけ同心を演じる岸部シローとの笑える会話は、シリーズの隠れた名物でもあった。
金さんを一気におとなモードにしたのが、82年から86年まで演じた五代目の高橋英樹だった。
多くの時代劇で活躍する高橋は、数え歌を歌いながら悪を斬る「桃太郎侍」など、豪快な殺陣が魅力の武士役多く、町人姿は珍しかった。その金さんのモットーは、「より明るくより楽しくより新しく」。そのモットーの通り、高橋は持ち味の明るさ全開、とぼけた筆頭与力(宮尾すすむ)や女親分(樹木希林)との会話はとても楽しく笑える。ゲストも多彩で91話「京の貴公子・綾小路菊麿さまお成り!」の回では、得体のしれない役が得意の藤木孝が怪演、第104話「女賞金稼ぎ!緋ぼたんおりん」では木の実ナナが大暴れを見せる。また、高橋金さんは遊び人のときは、濡れ手ぬぐいで戦う新しい趣向を見せた。このアイデアは、高橋が新体操のリボンなどを見て思いついたという。そういえば、高橋は代表作のひとつ「隼人が来る」(フジテレビ系)では、刀をくるくると回しながら花びらを散らすという‟花吹雪抜刀流”を見せ、私は密かに「花吹雪バトン流?」と思っていたのだが、金さんではリボンとは。この金さんは、アイデアマンでもあった。見事な手ぬぐい裁きをお見逃しなく。
今回ご紹介した作品
遠山の金さん(高橋英樹主演)
- 放送
- BS松竹東急にて月~金曜の13時30分~
情報は2024年7月時点のものです。