ペリー荻野さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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リクエスト

あんみつ姫

2024/9/6公開

小泉今日子と井上真央、昭和と平成の「あんみつ姫」がラブ&ピースを届ける

「あんみつ姫」の原作は、戦後間もない1949年から55年まで連載された倉金章介の少女マンガ。いたずら好きでお転婆なお姫様が、周囲の人たちがあっと驚く大騒動を巻き起こす。主人公の「あんみつ」はじめ、父の団子守、家庭教師のカステラ夫人など、登場人物の名前がスイーツ系なのは、多くの読者が戦時中、なかなか甘いものを口にできなかったためと聞くと、ちょっと切ないが、あんみつ姫の笑いと夢いっぱいの物語は、大人気となった。

 1950年代には、雪村いづみ主演で映画化、58年には、現在のTBSで中原美沙緒主演でドラマ化、60年代には、鰐淵晴子主演で再映画化されている。雪村といえば、美空ひばり、江利チエミと「三人娘」で活躍し、アメリカの「LIFE」の表紙を飾った実績の持ち主、中原は、中原淳一の姪でシャンソン歌手としても活躍、鰐淵晴子はかのハプスブルク家の末裔を母に持ち「天才少女バイオリニスト」としても注目された。いずれも折り紙付きの美少女たちだった。なお、時代劇には源義経の恋人・静御前や徳川家康の孫娘・千姫など、美少女が演じるのがお約束の役柄があるが、架空とはいえ「あんみつ姫」ほど、ハッチャケた女の子が主役として歴代受け継がれた例はほとんどない。

 その役を80年代に受け継いだのが、「花の82年組」としてデビューして二年目の小泉今日子だった。思えば、キラキラてんこ盛りの髪飾り、原色や花柄など大胆で派手な着物、何かあってもニッコリで万事解決という「あんみつ姫」は、「時代劇のアイドル」。時代劇のアイドルを昭和のアイドルが受け継いだのである。

 物語の舞台は、あまから国。お城のあんみつ姫は、ちょっと意地悪なからし姫(白石まるみ)とお勉強をしたり、世話係のじい(東八郎)をからかったりと、お転婆ライフを送っていたが、お見合い話が出たことをきっかけに、窮屈なお城から脱出して町に飛び出す。

 ゴムのパチンコを命中させて「ヤッホー!」と叫ぶキョンキョンは文句なく可愛い。実写版「あんみつ姫」の魅力は、チャーミングな姫が、ストレートにラブ&ピースを叫べることだとよくわかる。助けてくれた二枚目魚屋の太助(宅麻伸)にぼーっとした姫は、「あの方カッコいいもん!」と堂々と言っちゃうのである。

 また、演技のキャリアが少ない姫を支えるべく、名優たちが多く出演しているところも見どころだ。長屋で鯵の開きが焼かれているのを見て「変った魚じゃのう」「泳ぐのか」と水に放り込む姫にあたふたする同心は、イッセー緒形だった。この他、ウインクしたのに「目にゴミ?」と姫に言われる見合い相手はアゴ&キンゾーのあご勇、スリの親分小松政夫、城の教育係こしの局は由紀さおり、父の団子の守は金田龍之介とベテラン陣が揃う。

 小泉今日子版は三作あり、第一作の主題歌は「まっ赤な女の子」、第二作第三作は「クライマックス御一緒に」。近年人気の80年代メロディも心地いい。

 そして、平成の「あんみつ姫」として登場したのが、井上真央だ。

 あずきの産地甘辛国。「走る下駄、最高です!」と城の廊下を車付の板(ローラースケート)で走り回るお転婆なあんみつ姫(井上)は、祖母のしぶ茶(白川由美)、発明大好きな殿(柳葉敏郎)とお茶目な奥方様てん茶(和久井映見)や親友のいちご大福(中川翔子)らに大きなバースデーケーキで十六歳の誕生日を盛大にお祝いしてもらう。しかし、見合い話を勧められた姫は、家庭教師カステラ夫人(夏木マリ)に、「プリンセスに足りないのは、愛。すなわちラブです!!」「大切なのはラ~ブでございます」と教えられ、「わらわはラブを探しに行く」とこっそり城を抜け出す。団子を山盛り頬張ったり、芝居小屋の美形女形(早乙女太一)に「そなたは男か」と詰め寄ったり、こどもスリ集団「こんぺい党」を率いる不良少年煎兵衛(小出恵介)にときめいたり。その後、あんみつ姫は、甘辛国のお宝を狙う陰謀を知り、自ら事件解決に乗り出すのである。

 姫を心配して右往左往するじい(泉谷しげる)は、あべかわ彦左衛門、重量感たっぷりの腰元シスターズ(森三中)は、あんこ・きなこ・しるこなどなど、オリジナルキャラを含めて、名前を聞いただけで血糖値があがりそうな面々が姫を盛り立てた。

 姫のお見合い相手が渡辺和博アナだったり(さすがフジテレビ)、和久井映見が奥方姿で「ゲッツ!」とギャグを決めたり(しみじみ時代を感じる…)、どこでどんなギャクが出るかわからない。「必殺シリーズ」では「組紐屋の竜」だった京本が、ここでは「金つばのリュウ」となって「必殺」の元同僚の中条きよしと対決!?なんてこともこのドラマならでは。

 種も仕掛けも愛嬌たっぷり。身も心もゆる~く解放して、姫のドキドキ大冒険に乗っかりましょう!

今回ご紹介した作品

あんみつ姫

放送
時代劇専用チャンネルにて日曜12時30分~放送中

情報は2024年9月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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