ペリー荻野さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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ゴールデンカムイ 北海道刺青囚人争奪編

2024/11/18公開

日露戦争終結後の北海道が舞台の金塊争奪アクション

©野田サトル/集英社 ©2024 WOWOW

「ゴールデンカムイ」このタイトルを聞いただけで、わくわくする。熱烈ファンが多いこのシリーズ。始まりは、野田サトルの累計発行部数2900万部突破の人気コミック。その後、アニメ化され、24年、映画「ゴールデンカムイ」が公開。今秋より、映画のキャストがそのまま出演する続編ドラマ「連続ドラマW ゴールデンカムイ 北海道刺青囚人強奪編」が放送・配信中だ。

 舞台は明治末期の北海道。日露戦争の激戦地、二百三高地で死に物狂いの戦いぶりで生き残り‟不死身の杉元”の異名を持つ男・杉元(山﨑賢人)は、ある男からアイヌが集めた砂金による莫大な金塊があることを知る。その金額は二万貫。今の価値にして実に8000億円!! 金塊は「のっぺら坊」と呼ばれる残忍な男によって隠され、そのありかを示すのは、網走監獄から脱獄した24人の囚人の背中に入れられた刺青だという。杉元は自分をヒグマから救ってくれたアイヌの少女・アシリパ*(山田杏奈/*「リ」は小文字)とともに脱獄囚を追う。しかし、金塊を狙っているのは、彼らだけではなかった。北海道征服を狙う第七師団中尉の鶴見(玉木宏)と部下たち、新撰組の鬼の副長・土方歳三(舘ひろし)率いる一派と「刺青人皮(いれずみにんぴ)」を巡る三つ巴の争奪戦が繰り広げられる。

©野田サトル/集英社 ©2024 WOWOW

 シリーズ初心者の筆者は、この作品に「和風闇鍋ウエスタン」とキャッチコピーがついていると聞いて、「???」だったが、実際に見てみると、登場人物はみんなくせ者だし、銃器も含めて繰り出す技もすさまじいし、熊、狼、犬など動物も出てくる。エピソードも血みどろの激闘だけでなく、笑いもあり、白い花のような純な願いもあり。時代劇好きとしては、土方歳三が長い白髪をなびかせて剣を振るうって、アリなんですか? うれしいですけど! という気持ちになったのも事実。一話に眉毛が45度くらいつり上がった悪夢の熊撃ち(藤本隆宏)が出たかと思えば、第二話には人のよさそうな見た目なのに百人を殺したという微笑みの殺人鬼(萩原聖人)、第三話には過去の事件を知るアイヌの男(池内博之)、第四話には妖艶だが謎めいたホテルの女将(桜井ユキ)が現れる。ちなみに第四話のタイトルは「殺人ホテルだよ全員集合!!」である。まさに何が出てくるか予想不能の闇鍋。怖いもの見たさ心をそそるのである。

 主人公の杉元も「俺は不死身の杉元だ!」と自己主張しながら、敵に対しては猛突進していく男なのに、酒を飲んで目が座ったアシリパに狩った鹿の脳みそを差し出されると顔を引っ込めたりする。杉元が金塊を狙う理由は、戦死した幼なじみの妻・梅子(高畑充希)の目の治療をしたいからなのである。その杉元と組むアシリパにも金塊を強奪した男に父を殺されたという事情がある。彼らと行動をともにするのが、刺青囚人のひとりで日本中の監獄を脱獄してきたお調子者の白石(矢本悠馬)というのも面白い。この白石も「脱獄王の白石様だ」と名乗る自己主張派だ。

©野田サトル/集英社 ©2024 WOWOW

 スリリングな展開、ハイスピードのアクション、刺青の謎解きと、見どころ満載だが、巧みに織り込まれた史実やアイヌ文化を知ることができるのも大きなポイント。杉元も敵対する鶴見も運命を変えられたのは、日露戦争。幾度も出てくる二百三高地の激戦で累々と積み重なる戦死者の描写など、戦争の悲惨やその後の兵士たちの悲壮を改めて感じさせる。鶴見は、手に入れた「刺青人皮」を自ら着用してにやにやしていた。濃いキャラクターばかりの物語だが、中でも玉木宏の怪演は妙な光を放っている。また、「この時代、老いぼれを見たら生き残りと思え」と眼光鋭く刀を構える土方と白髭の永倉新八(木場勝巳)の姿にも時代が見て取れる。70代にして土方を演じる舘ひろしは、どこかうれし気だ。この表情はどこかで見たと思ったら、06年の大河ドラマ「功名が辻」で織田信長を演じたときだった。この信長も土方と同様に駿馬で疾走していた。

 そして北の大地を生き抜くアイヌの人々。アシリパの村にたどり着いた杉元と白石は、彼女の祖母から、昔、アイヌが砂金を集め始めると川が荒れて神の魚が来なくなったという言い伝えを聞く。ふたりはサケのルイペ(溶けた食べ物の意)の味に感動するのだ。アイヌの衣装や小道具、軍人の持ち物なども当時のものを参考に精密に作られているという。こうした手作り感が、土地と時代の空気を自然に出している。

©野田サトル/集英社 ©2024 WOWOW

 24人もの人間の刺青を集めると、いったいどんな完成図が出来上がるのか見当もつかないが、これまた怖いもの見たさ心をくすぐる。さらにチラチラ出てくる「のっぺら坊」とは何者なのか。杉元は「のっぺら坊」に聞きたいことがあるとつぶやく。一筋縄ではいきっこないお宝探しの結末に注目したい。

今回ご紹介した作品

連続ドラマW ゴールデンカムイ 北海道刺青囚人争奪編

放送
WOWOWにて毎週日曜22時~放送中
配信
WOWOWオンデマンド

情報は2024年11月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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